[携帯モード] [URL送信]

鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)

「疾風さんが息子って知ってたわよ〜云いたいのを我慢したかいがあったわ。びっくりしたでしょう?」
 此処に悪魔が居ると、2人は絶句。
「頭真っ白です」
「だろう鈴? 俺様が兄貴だ喜べ。おい、里桜までなんだ黙っちまって。失礼だな。何とか云えお前ら」
 疾風先生が鈴の頭をぐしゃりと撫でて、里桜の向かい側に腰を下ろす。
「…っ、別に、話す事なんて」
 里桜はロブスターを箸でグサリと刺した。
 鈴は息を呑んで見守り、薫が一方的にしゃべり続け、里桜は無言で食べる。鈴はというと、不可思議な空気の中落ち着かずに居た。


 2時間は長かった。
 ドッと疲れた鈴に薫が、洗面所から戻って来た際耳打ちして来た。
「鈴、ママこの後パパとお泊まりして来るから、里桜と帰ってくれる?」
「…うん」
 −−−もう『パパ』って呼んでるのか。
 チラッと里桜を見れば、どよんとした空間の中に居る。
「なんか機嫌悪いわよね…疾風さん来てから」
 小声で云われ、鈴は疾風を見た。隼人から日本酒をお酌され、疾風は飲みながら里桜に一瞥を食らわせている。もし里桜が猫なら、毛を逆撫でて威嚇していそうだ。
「鈴、ジュースのおかわり頼もうか?」
 隼人は甲斐甲斐しく鈴の世話をやいている。鈴は頷いて薫が席に戻るのを見た。
「タクシー呼んだから、里桜は鈴と帰ってくれる?」
「え、あぁっはい」
 里桜がホッとした刹那、
「薫さん、生徒会の事で里桜と打ち合わせがありますから、里桜を借りますよ」
「…っ!?」
 里桜は疾風を睨んだ。
「あらそうなの?」
「………はい」
 逡巡した後、里桜は俯く。
「鈴は私が面倒見ますから」
「あら隼人さん、面倒見るだなんて、いっそ嫁にでもあげちゃうわよ〜」
「母ちゃん!?」
 鈴は真っ赤になって狼狽え、里桜は顔をひきつらせた。隼人と薫は冗談とも付かない会話を繰り広げている。結納はどうの式はいつだのと。連いて行けないと里桜は立ち上がる。
「お母さん、鈴は男の子ですよ? 鈴が固まってるじゃないですか」
 鈴は居たたまれず、慌てふためいて眼の前にあった水を一気飲みしていた。里桜はびっくりして立ち尽す。水だと思っていた物は……日本酒だった。
「ひっく…うい?」
「やだ鈴!」
 薫が慌てる。
「すげー」
 疾風が呆気に取られていた。
「鈴!」
 まさか自分の酒を飲まれるとは思わずにいた隼人も慌てた。晴臣に至っては、急いで鈴の真横に行き、脈を測る。
「隼人、お前も悪乗りし過ぎだ」
「すみません父さん。薫さん、このまま鈴を連れて帰ります」
「助かるわありがとう」
「ふよ〜ふわふわ〜♪」
 鈴は全身を紅く染めて、鈴を抱き上げる隼人を見詰めた。鈴は潤んだ双眸を閉じて隼人の肩に頬を擦り寄せる。
「なんだかすご〜くふわふわします」
「お母さんが変な事云うから!」
「あら里桜冗談よ〜って、そういえば鈴って小さい時から『隼人兄ちゃんのお嫁さんになるの』って、そりゃもう金魚のフンみたいに隼人さんにくっ付いてたわね〜懐かしいわ」
「そういえば、薫さん『男の子はお嫁さんになれない』って云ったら、鈴が泣き出して大変でしたね」
 隼人は幸せそうに眼を細め、鈴を抱いたまま外へ向かうのを、晴臣と薫が見送りに出た。
「頼んだぞ隼人」
「鈴、大丈夫? まったくもう」
「ふふふ。お嫁さ〜ん。僕隼人さんのお嫁さんになる〜」
「やあだ鈴ったら寝ぼけてるのかしら。」
 お酒が入ったせいか、鈴はクスクスと笑い出す。タクシーが走り出した車内で、隼人は寄りかからせた鈴の頭を撫でていた。
「隼人さ〜ん」
「ん?」
「え〜っとね〜?」
「鈴?」


[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!