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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)

 鈴は眼を輝かせて、でも薫との約束を思い出して、がっくりと肩を落とした。
「駄目だ〜今夜再婚相手の家族と食事会なんだ」
 剛の家は代々ヤクザ一家で次男坊。皆は怖がって近付かないけれど、鈴は剛を親友だと思ってる。背が高くて柔道黒帯。剣道もやっていて運動神経抜群なんだ。今は鈴と陸上部だけど。もちろん脚も速いから長距離。鈴は体力が無いから短距離だけどね。
「…そうか。大変だな」
 里桜は背後の鈴達を見やり、溜め息を零した。
「剛、鈴にあまり甘いの与えないでよね? また夕飯入らなくなるから」
「解った、そんときゃ加減して食わせるから」
「兄ちゃん、余計な事云わないでよ! って…携帯鳴ってるよ?」
 鈴に云われて、里桜は鞄から携帯を取り出す。薫は親子が離れている時に、『何か遭った場合』に備えて、里桜だけ携帯を持たせていた。
 ディスプレイには『担任』の文字。
「担任? 小早川疾風?」
 剛がヒョイと里桜の背後から、携帯のディスプレイを見た。
「ちょっと寄るとこ有るから、鈴、剛と先に教室へ行っていて」
「兄ちゃんは?」
「雑用頼まれた」
 そう云って、里桜は鞄を小脇に駆け出す。
「進級してから、やたら扱き使われてるよな里桜の奴」
「生徒会って忙しいんじゃないの?」
 首を傾げながら鈴は校舎へと向かった。
「それよりさ〜鈴明日から3連休だぜ? どっか行かないか?」
 剛は昇降口で靴を脱ぐ鈴に訊く。
 剛は鈴と2人だけで遊びに行きたいのだ。
 出来れば泊まりで。
「遊びに?」
 鈴は上履きに履き替えて、背の高い剛を見上げた。一重瞼にすっきりとした顔立ち。薄い唇は口角を上げて凛々しい。剛はいつも物事にはっきりとしていて、意志の強さがにじみ出ている。
「明日7月14日じゃん?、2人でさ〜出掛けねぇ? それとほら。もう直ぐ夏休みだし。里桜の方は夏休みでも、生徒会ってあるだろうし…俺と泊まりで、さ」
 頬を染める剛に首を傾げながる。
「うん、良いよ? 何処行く?」
 と云った。みるみるうちに剛は破顔する。
「やった! 絶対だぞ?」
 剛はニヤ付きながら鈴と教室へ向かった。
 剛にとって鈴は特別らしい。小学生のあの時から…。
 6年生の時、剛の家がヤクザだとバレた時、昨日まで友達だと信じた友人達が、蜘蛛の子を散らすように遠ざかって行った。その中でも命知らずな子供は居るもので、剛をからかう輩は出て来るものだ。
『高橋の家、ヤクザだから近付いたりするなって、母さん行ってたぞ』
誰もが異様な眼で剛を見る。そんな時だった。
『剛君は剛君だよ!! お前の母ちゃんが可笑しいんだ!』
 鈴が小さな身体で剛の前に立ち塞がった。
『なんだ泣き虫、生意気だぞ! いつも兄貴の後ろに隠れてるくせに』
『っ』
 鈴は真っ赤になって男子生徒を睨んだ。
『でも、やっぱりイジメは駄目!』
 剛はびっくりして鈴の小さな背中を見詰める。ギスギスした胸が暖かくなった。その日から剛の中で、鈴の存在は大きな『者』となった。
『俺の事、恐くないのか?』
 ある日僕に、剛がそんな事を訊ねた。
『どうして? だって剛君は空手やってて格好いいし、優しいよ? 僕にも空手を教えてくれる?』
 剛曰く。鈴の笑顔が可愛いから。鈴が泣き虫だから。鈴は世間知らずのおっとり屋さんだから。俺が鈴を守って行こうと心に決めたらしい。
 高校に入って、直ぐの事。剛から云われた言葉。
『僕、そんなに頼りない? 守るのは女の子だよ? 母ちゃん云ってたぞ?』
 剛はがっかりしたような、悲しいような眼で鈴を見詰め、ポンと頭を撫でた。
『こりゃ、手ごわいな』
鈴は首を傾げていた。


 鈴はそんじょそこらの女より可愛い。本人に『可愛い』なんて云ったら、その柔らかな頬をリスのように膨らませて怒るから、云わないでいる。本人は気付いていないのだが、男も女も問わず、よくモテる。女は鈴の事を小動物みたいだと噂し、だが、自分より可愛い『彼氏』はちょっと、と諦め…男はアイドルか何かを想像し、3次元キャラが動くと頬を染めて天国を見る。他には、学校の健康診断の日や、体育着の着替えの時は大変で、ヤロー共が皆股間を抑えたり、中には鼻血を噴く奴まで出る始末で、呑気な鈴は大丈夫? と被害者を増やして行く。上半身裸で寄られたら、抱き着きたくなる。剛が眼を光らせているから、今の所無事だが。 


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あきゅろす。
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