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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)

 ピピピピピ…。
 枕許に置いている目覚まし時計を、布団から手を出してオフにする。窓辺には雀がチュンと鳴いている。兄の里桜が2段ベッドを降りた。
「鈴、先に階下へ行くからな? ちゃんと起きろよ?」
「う〜ん…」
 里桜が部屋から出て行く気配に急かされるように、鈴は眠たげに目蓋を擦った。枕許に置いた鍵に付けた、薄汚れたウサギのマスコット。前は通学鞄に付けていたが、教室で一度落としてから、鍵にぶら下げるようにした。これはとても大切な、鈴の宝物。
「おはよう、隼人さん」
 ウサギのマスコットにキスをして、鈴はベッドから降りる。隼人というのは、鈴の片思いの人で、ハンサムで優しくてカッコイイ素敵なお医者様。鈴の憧れの人だ。


 天音家の朝は、毎日暖かな味噌汁の匂いから始まる。
「おはよう鈴、顔洗って席に着いて」
「は〜い、おはよう母ちゃん」
 鈴はキッチンで挨拶をし、既に席に着いていた里桜を見る。
「兄ちゃん、ウインナー頂戴!」
 叫んで鈴は洗面所へ駆けて行く。
「里桜は優しいわね」
 里桜が鈴の皿にウインナーを移しているのを見た薫は、苦笑して里桜にヨーグルトを手渡した。
 里桜と鈴は二卵生の双子だ。
 父親は既に他界し、薫が女手ひとつで2人をを育てている。薫は隣街に在る個人病院『小早川医院』に勤める看護婦だ。2人はこの春に大学付属高校、王蘭学園に通う2年生となっていた。
「あ、兄ちゃんありがとう〜」
 席に着いた鈴はいただきますと手を合わせて、ウインナーを頬張る。薫は2人が食事をし始めたのを見届けて、コホンと咳をした。
「あのね、あなた達に大事な話が有るの」
 薫は2人の向かい側に腰を降ろすと、改まった顔で見詰めて来た。
「私妊娠したの」
「「…………」」
 爆弾発言に2人は固まり、鈴はウインナーを吹き出した。
「ちょっと、鈴!」
「ご、ごめんなさい! って、え、え?」
 薫に怒られ、思わず謝った鈴だが、瞬きをして隣の里桜を見た。
「今、妊娠3ヶ月♪ 2人共家のお手伝い宜しくね? 特に鈴はね? あんた疲れて直ぐお兄ちゃんに甘えるんだから」
 楽しそうに話す薫の前で、2人は………固まっていた。


『今夜相手の家族と食事会だから、2人共遅れないでよね!?』
 一方的な薫の発言に、学校へ送り出された2人だが茫然自失。前を歩く里桜の背中は、怒りのオーラが漂っているように見えるのは、鈴の気のせいじゃないだろう。
「母ちゃんの相手誰かな…ねえ兄ちゃん」
「お父さんが死んでもう長いから、お母さんに彼氏が居ても可笑しくないよ」
 前を歩く里桜の背中を、鈴は見詰めて溜め息を吐いた。学校への見送りに薫の『夕食に遅れるな』の言葉を思い出す。食事会をなんとか成功させたいのだ。薫は。
「僕達の知ってる人かな…優しい人なら良いな」
 鈴の言葉を無視するように、里桜は歩き慣れた道を行く。
「兄ちゃん?」
 返事をしない里桜に、鈴はむくれる。
「おはよー」
 前方で、自転車に跨った高橋剛が手を振っていた。
「剛、おはよう」
 鈴が駆け寄ると、剛は破顔して自転車から降りる。
「鈴、どうした? 里桜とまた喧嘩か?」
「違うよ」
「お母さんがおめでたで再婚するんだとさ」
 里桜が鈴と剛の脇を通り過ぎる。
「そうか薫さんが再婚…えっおめでたって云ったか!?」
 剛は遠ざかる里桜を眺め、鈴を見た。
「薫さん、おめでたで再婚?」
「うん」
「……あの薫さんを射止めた男が居たのか!?」
 鈴はなんとなく笑いながら、そうなんだよと返事をした。でも…。
「それ母ちゃんに云わない方が良いよ? いくら剛がヤクザの跡取り息子でも、あの母ちゃん許さないから」
「そ…そうだな。ま、それはさて置き〜処で、放課後家に来ないか? 組の奴が『鈴さんに』って、ケーキ買って来たんだ」
「ケーキ!?」


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あきゅろす。
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