研究員×暗黒=永遠


「なぁお前、知ってるか。ここ何日か研究員のナマエさん、ずっと寝たきりらしいぜ。」










白い部屋。何も無い誰も居無い真っ白な部屋の真ん中で俺だけがぼんやりと存在していた。
取り敢えず辺りをぐるりと見回す。白い壁が前後左右あと上下にも。ぽっかりと口を開けているだけだった。
扉があったらいいのに。そう思い何気なく瞬きをすると左の壁に何か丸いものが見えた。近付いて確かめてみると、それがドアノブだと解る。ドアノブを握りゆっくりと回しながら前に押すと、視界に壁と同じくらい真っ白な空間が広がった。静寂な空間に変化を求めて歩き出す。
「ナマエ、」
急に名前を呼ばれて振り返ると、そこには二人の人物が立っていた。見覚えのあるようなないようなふたり。
「とぉ、さん、に、かぁ、さん?」
幼い頃の記憶を引っ張り出し、目の前の男女と照らし合わせる。優しい表情、優しい声。もしかして、もしかし、て。
「…ナマエ、元気だったか?」
男性が優しく声を掛ける。その名前を呼ぶ声には覚えがあった。思わずじわり、と涙が滲む。
「…父さん、母さん!」
二人の所へと駆け寄る。涙を浮かべた母に笑顔で抱きしめられる。肩にそっと父の手が置かれる。幼い頃の我が家の香りがした。
「ナマエ、会いたかった……」
「母さん……」
「私もだよ、ナマエ……」
「父さん……」
涙が溢れて止まらなかった。どれだけこの時を夢見ていたんだろう。
「……でも、」
「…父さん……?」
父の手が肩から離れて行く。
「お前は違ったんだね。」
「え……?」
身体から母の温もりが消える。顔を上げると二人が悲しそうな顔をして俺を見ていた。
「お前は、私達を捨てたんだ。」
父が俺の胸にそっと手をあてた。その手を目線で追うと、自分の服装が目に入った。
「え……!」
俺は、アポロさんやアテナさんが着ているような白い幹部服を着ていた。きっと父が手を離すと、そこにはあの赤い文字があるのだろう。
「違う!父さん、これは……!」
「ナマエ、お前はポケモンを悪事に利用する様な組織に協力しているんだね。そんな服まで着て……」
「違う、父さん、違う……」
母が泣いている。今度は、とても悲しそうに。違う、そんな顔をさせたかったんじゃない。
「…私達の息子は、ポケモンが大好きだったあの子は、もうあの日に死んでしまったのかな……」
父が悲しそうに告げた。その言葉は深く俺の胸を抉ってくる。
「父さ……」
「さようなら、ナマエ」
「待って、父さん!母さん!」
目の前から二人が消えた。また空間に静寂が訪れる。ゆっくり振り返ると、さっき開いた扉がぽっかりと口を開けていた。急いで駆け寄り、部屋に飛び込み扉を閉めた。
自分の荒い呼吸だけが耳に付く。頭の中で、父の言葉がぐるぐると回っていた。
「……アポロ、さん……」
知らない内に口から零れていた言葉。顔を上げると今度は右側にドアノブがあった。此処に居ても仕方が無い。恐る恐る扉を開き歩き出した。
扉を開いた先はまた真っ白な空間で、俺は取り敢えずひたすら歩いて、歩いて、歩き続けた。
こつん、と靴に何かがぶつかった気がして下を見下ろすと、俺は無意識の内に悲鳴を上げていた。
「アポロさん!!!!」
躓いたのは、床に俯せで倒れているアポロさんらしき人物の頭だった。ぶつかった所から、赤い液体がどろりと流れ出てくる。
「ひッ!」
慌てて後退ると、今度は踵で何かを踏んづけてしまった。
「…わぁああ!」
踵の下には、ランスさんらしき人物の右腕だった。辺りを見回すと、二人の人が倒れていた。皆周りに赤い水溜まりが出来ている。あの赤い髪に白い服の女性は、あの菫色の髪に黒い服の男性、は。
「あ、あぁあぁぁあ!!!!」
いつの間にか床は一面真っ赤に染まっていた。白い天井、白い壁、赤い、床。
気付いたら俺は最初に居た部屋の真ん中で蹲(うずくま)っていた。身体の震えと溢れる涙が止まらない。ドアノブから俺まで、赤い足跡が続いていた。
「も、いい、」
無意識に口から言葉が溢れる。
「もういい、何処にも行かない。行かない、ここに居る、だから、だから扉なんて要らない、ぜんぶ消えろきえろきえろきえろ!!!!」
最後の方はほとんど怒鳴っているに近かった。息を整えて顔を上げると、ドアノブも足跡も無くなっていた。
ふと何かの気配を感じて振り向くと、黒い何かが此方を見ていた。
「……何か用?」
よく見ると黒い生き物には白や赤があった。ふわふわと空中を漂い、ただ此方をじっと見つめている。
「どうせお前も、俺を置いて行ったり、居なくなったりするんだろ?」
ふん、と鼻を鳴らしながら言うと、黒い何かが肩に擦り寄って来た。
「…どうせ俺はここで独りなんだよ、」
違う、とでも言う様に首辺りをゆっくり横に振った。
「……一緒に居てくれるのか?」
今度は肯定するかの様に目を細めた。
「…ここは寂しくて嫌だけど、外は怖くてもっと嫌なんだ。外は怖くて嫌だけど、ここは寂しくてもっと嫌なんだ。……でも、」
頭の白い部分を優しく撫でると、もっとして欲しいのか引っ付いて来た。
「お前が居てくれるなら、ここでも寂しくないよ。なぁ、頼むから置いて行かないで。寂しいのはもう嫌なんだ。」
そう言って目の前の黒い身体を抱きしめる。間近に見る身体は闇の様に真っ暗で、暗黒という言葉が相応しいと思った。

















研究員×暗黒=永遠
(お前の名前は、)
























「なぁダークライ、お前がずっと傍に居てくれてるのに、何でだろう。すごく寂しいんだ。誰か大切な人たちがいた気がする。会いたいんだ。顔も名前も解らないけど。」


















悠様よりリクエスト頂きましたR団研究員シリーズでダークライでした。ダークライ出るまでが長くて出てからも短くてすみません。
ポケモン相手は初めてだったのですがすごく楽しかったです^^!新境地でした。またポケモン相手やポケモン目線の話を書いてみたいと思います。
改めて悠様、リクエストありがとうございました^^!




20100321
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