研究員×幹部+初対面=笑顔



初めて会った時は、何てつまらない奴なんだと思った。



「貴方がナマエですか?」
「………はい。」
振り向いた男は、気だるそうに此方を見つめていた。その表情からは、感情というものを感じられない。
「貴方、子供の頃に誘拐されて此処に来たんでしょう?どんな奴かと思えば……。貴方、相当優秀な研究員なんだそうじゃないですか。」
「……そんな、恐縮です。」
勘に障るであろう言葉を吐いても業績を褒めても男の表情は何一つ変わらなかった。
「……ねぇ、どんな気分なんです?」
「?」
「自分を大好きな家族から引き離した組織に研究員として所属するのって。」
「……失礼します。」
男の纏う空気が少し冷たくなったと思うと、男はその場を後にした。
「……つまらない奴ですね、」
ぽつりと呟くと、背中にいきなり殴られた様な衝撃が走った。
「っ!何なんですかいきなり………?」
苛立ちながら振り向くと、そこには一匹のゲンガーが立っていた。
「何なんですかお前は」
私が背中を摩りながら尋ねると、ゲンガーは私を無視してさっき男が通った道を追い掛けるように歩いて行った。
「……何なんですか、本当」
ぽつり、と一人呟いた。



ある日、通路を歩いていると聞き覚えのある声が聴こえてきた。
「?」
「…ら…で…」
記憶とは違う声の明るさに、戸惑いながらも角を覗き込む。
「ほら、おいでドガース。いいこだね。」
そこには、笑顔を浮かべながらドガースと戯れるナマエの姿があった。
「お前、ラムダさんとこの子だよな。迷子になったのか?」
そう言ってドガースを撫でるナマエの嬉しそうな顔は、ポケモンへの愛情に溢れている様な気がした。
「ナマエ、」
「アポロさん!」
そこへ現れたのは、私の上司だった。その男を見て、また嬉しそうにナマエが微笑んだ。ロケット団を嫌っている筈のナマエが団員と、しかも幹部である男とあんな親しげに話すとは思っていなかった私はかなりの衝撃を受けた。
「そのドガースは?」
「ラムダさんの所の子みたいです。迷子みたいなんでちょっとラムダさんの所まで連れて行って来ますね。」
そう言ってアポロさんを残しナマエはドガースを連れてその場を後にした。
「そんな所で何してるんです?ランス。」
「!」
彼の言葉にゆっくりと角から姿を現す。アポロさんが微笑を浮かべて此方を見ていた。
「…お気付きで?」
「ええ、とっくに。お前はそんな所で何を?」
「……いえ、ナマエでもあんな顔をするのかと思いまして……」
ぼそぼそと言い辛そうに言葉を紡ぐと、アポロさんは何かを理解したかの様にああ、と呟いた。
「ナマエはロケット団が嫌いですからねぇ。」
「…なら何故アポロさんとはあんなに親しげに?」
「私はナマエがまだ子供だった頃からの知り合いですからね。家族同然ですよ。」
得意気にふんと鼻を鳴らすその姿に思わず苛立ちを感じる。目の前で優越感に浸られるというのはあまり気分の良いものではない。
「ではアポロさんとポケモンとだけにあんな親しげに?」
「最近はラムダとアテナとも仲が良いらしいですが?」
「え!」
アポロさんのその言葉に衝撃を隠せずに思わず声を上げてしまった。
「……では何故私はあんなに嫌われてるのでしょうか……」
「そんなの私が知る訳無いでしょう。……ああですが、」
「?」
「ナマエはヒワダで行われたヤドンの尻尾に関する計画の責任者がお前だと知っているみたいですよ。」
「!」
その言葉で身体中に衝撃が走る。あれは、
「あれは仕事だったんですから仕様がないでしょう!」
「私に言われても困ります」
ぴしゃりと言い切られる。頭痛がする、目眩もする。
「まぁそれだけでナマエが人を嫌うとは思えませんがね。どうせ何か厭味の一つや二つでも言ったんでしょう。」
「……身に覚えがありませんね」
嘘吐け。残念ながら心当たりはしっかりとあったが、それを目の前の男に言う必要は無い。
「意外ですね。」
「何がですか?」
「お前もナマエと仲良くなりたいんですか?」
にやにやと楽しそうに笑う男に初めて殺意を抱いた。止めてくれ、頭が痛い。
「……嫌われたままなのが不本意なだけですが?」
あくまで強がって発言するが、今更この男相手にこんな強がりが通じるとは思っていない。証拠に未だ目の前の男は楽しそうな笑みを消さない。
「失礼します。」
アポロさんがまた口を開く前にその場を後にする。ナマエが何処に行ったかはさっき角で聞いていた。ゲンガーのシャドーボールには気を付けて。嫌な言葉が後方から聴こえてきた。



「……何かご用でしょうか。」
廊下で出会ったナマエは私を見ると直ぐに眉間に皺を寄せて嫌そうな顔をした。その後ろで彼の手持ちであろうゲンガーがナマエと同じ顔をして此方を見ている。
「…謝罪をしに来ただけですが。」
私の言葉を聞いてナマエは眉間の皺を深くし、軽く首を傾げた。
「謝罪?」
「貴方と初めて会った時の事ですよ。勘に障る様な事を言って悪かったですね。ヒワダの件は謝りませんよ、私も仕事でしたから。大体ヤドンの尻尾を切っていたのは私では無く私の部下です。そもそも私はヤドンが……」
「……ヤドンが?」
そのナマエの言葉ではっと意識を取り戻す。危ない、もう少しでとてつもなく恥ずかしい事を言う所だった。
「ヤドンが、何なんですか?」
しかしナマエは満足してくれないらしい。私を追い詰めるその目は純粋な少年の様に期待を含んできらきらと輝いて見えるのに、何処か悪戯好きな悪餓鬼を思わせる。
「……嫌いじゃありません、」
観念して私が小さな声で言ったその言葉に満足したのか、やっとナマエの眉間から皺が消えた。
「ポケモンが好きな人は、好きです。」
そう言ってナマエは嬉しそうにきらきらと笑った。その表情に何故か今度は私が満足感を得る。何だ、私は最初から。













研究員×部+初対面=
(好きだなんて言って無いでしょう!)
(同じ様なものじゃないですか)














初対面シリーズランス編でした。
ランス絶対ヤドン好きですよね!あ、妄想ですかすみません^//^



20100316
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あきゅろす。
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