SSまとめ





妬心(谷黒)
足跡(三官)
希望(家官)
春告鳥(こたかん)
絶望(元官)







妬心

数冊の本を差し出すと男はそれを黙って受け取り一番上の本だけを残し残りを机の上に置いた。そして手元に残していた本の表紙を開く。いつもと同じ。わざわざ本を持って来てやっても礼も謝罪も無い。しかし、小生も本当はそんなものを望んでいない。生温い風が小生の髪を揺らした。男は此方を見ない。





足跡

目の前に一定の間隔で付けられていく足跡。それらを律儀になぞって歩いてみる。自分のものよりも数センチ大きなそれは上書きされることも無く、ただ歪んでいた。舌打ち。既に足跡などどうでも良くなっていた。前を歩く男の隣に足を並べると、どうしたと問われる。何も、と 答えると、男は小さく笑った。





希望

「…時々、全てが億劫になることはないかね、」
「…ワシもか?」
「……全て、だ」
「…そうか、」
「そうだな、」
「…ワシは、」
「ん?」
「官兵衛の、希望になりたいなあ、」
「…そうか、」
「…ああ、」
「……なら、早くその日が来るのを待ってることにするかね。」





春告鳥

大きな木に背を預け足を投げ出し枝の隙間から空を見上げていると、ぬっと男が視界に飛び込んできた。
「何か用かね、風切羽。」
差し出された手に握られていた一本の枝。
「お、梅の花か。もうそんな季節か。」
ありがとさん、と受け取ると、男が瞬く間に姿を消した。何処へ、と再び瞬きをすると、頭上の枝から白や淡紅の色をした花弁が降り注いだ。一体どれだけの量を毟って来たのかと慌てて一枚を手に取りよく見ると、それは手頃な大きさに切り刻まれた和紙だった。木の上から此方の表情を窺う男の表情に、思わず笑みを浮かべる。
「全く、随分と手の込んだ事をする鶯だな。」





絶望

「いつも海にいるんだな。」
羨ましいと呟く男の髪が潮風を含みぱさついていた。お望みとあらばいつでも沈めてやるよ。その手枷が付いてりゃ楽そうだ。
「それは良いな。死にたくなったら宜しく頼む。」
「…冗談に決まってんだろ…」
「…お前さんの、そういう所が好きだよ」
嫌いだ。沈めて、しまいたい程。










小生の、








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あきゅろす。
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