(相互御礼に琥珀さまへ!)





「何故ですか、」
静かな別荘に僕の声だけが響く。直ぐに返事が返って来る事は無く、僕の訴えは壁に吸い込まれた。
「…君が子供で、私が大人だからだよ。」
少しの沈黙の後にぽつりと零れた言葉。ソファーに座る彼の表情を見てみると、眉を下げて困った様に苦笑を浮かべていた。
「じゃあ、大人の定義って何なんですか」
彼の前に立ち、ソファーの背凭れに両手を付き逃げ道を無くす。子供特有の真っ直ぐな瞳で見つめても、彼の表情には何処か余裕があった。
「…そうだな、君より年下なのに私以上にしっかりしている子だっているだろうし、私より年上なのに君以上に幼い大人だっているだろう。それに成人の年齢だって国によって違っている。…それでも、」
私にとって君は、まだまだ子供だよ。そう言ったハンサムさんの、真っ直ぐな瞳。純粋で、綺麗な。嗚呼、あなたの方がずっと子供の様な目をしてるじゃないですか。
「いつまで、ですか」
「ん?」
「いつになったら子供扱いされなくなるんですか。いつまで、僕は…」
あなたを、待てば。
じわり、視界が滲んだ。帽子を被っていない僕の頭を、ハンサムさんの大きな手が優しく撫でた。
「…君は強い。勿論ポケモンバトルもだが、何より心が強い。考えもとても大人びているが、それでも私にとって君は可愛い子供だよ。…きっと、いつまでも。」
ぽろり、左の頬を滴が伝うのを感じた。悲しいとかじゃないよ、瞬きした瞼に押し出された涙が零れただけ。それでも彼にこんな姿を見られたくなくて、ハンサムさんの顔に自分の顔を近付け、そのまま彼の唇を自分のそれで塞いだ。
「……っ、コウキくん!」
「はい」
ぐっと肩を押され、僕とハンサムさんの唇が離れた。触れるだけのキス、だって僕は子供だもの。
「っ君は、何を……!」
「僕は子供ですから。子供らしく行き場の無い感情をあなたにぶつけただけです。」
「……!」
自分の口を手で覆うハンサムさんの顔は真っ赤だった。まさか僕にこんな事をされるとまでは思ってなかったのだろう。ずん、と肩が重くなるのを感じた。
なんだ、僕の気持ちは、全然彼に届いてなかったのか。
「…どうせ子供の言う事だ、と適当な気持ちだったんですか」
「違……!」
「僕がどれだけあなたの事を好きか、あなたは全く解ってない」
ハンサムさんの肩を掴み、ソファーに押し倒した。耳まで赤くなるハンサムさんは本当に可愛い、けど僕にそんな事を考える余裕はほとんど残ってなかった。
「こ、コウキくん!!」
「お願いですから、僕を見て下さい。性別や年齢なんて考えずに、ちゃんと、僕を……」
「っ!」
ハンサムさんの晒された首筋に唇を寄せる。ちゅっと口付けると、ハンサムさんの身体がびくりと跳ねた。
「コウキくん、駄目だ……」
「僕はハンサムさんが好きです。どうしようもないくらい好きなんです……!」
言葉にしていると、またじわりと涙が溢れてきた。今度は、悲しくて。

(あなたが好きなんです、恋愛感情として、あなたが)

(…すまないが、私はその気持ちには応えられないよ)

ぽろりと涙が零れたけれど、今度はそう簡単には止まってくれない。次から次へと涙が溢れてきて、思わず彼の肩に顔を埋めてしまった。
「っう、う……」
嗚咽は我慢出来ないし、溢れた涙がハンサムさんのシャツを濡らしている。僕が泣いてるのは一目瞭然だったけど、それでもハンサムさんは優しく僕の頭を撫でてくれるだけだった。
「…何というか、君は、もう少し、違う世界を見てみてもいいんじゃないだろうか。」
気まずそうにぽつぽつと零される言葉を必死に耳で拾う。
「君はまだ、その…若いんだ。もっと色々な人に出会い色々な世界を知る事が出来ると思う。」
「…それは、僕にあなたよりも良い人が現れるという事ですか?」
「そんな事は、」
「っ……僕は!」
あなたは僕よりもずっと年上だから、僕がこの世に産まれた時、あなたは既にこの世界を何年も生きていた。僕があなたを知らなかった頃も、あなたは僕と同じこの世界に確かに生きていた。だから、だから。
「僕は、あなたのいない世界を知らない……!!」
もしこれから先誰と出逢っても、僕はあなたの事を想い続けます。誰と居ても、何処に居ても。
「…僕の世界の基盤を作っているのがあなただと言ったら、大袈裟だって笑いますか。」
「…コウキくん…」
彼の肩口にぐっと顔を押し付ける。彼の表情を、彼の目を見るのが怖い。あの真っ直ぐな瞳が怖いなんて、僕は心が汚れてしまったのだろうか。
「……すまない、」
「え、」
その言葉をきっかけに、彼の口から次々と謝罪の言葉が零れてきた。すまない、すまない。
「ハンサムさ、」
「すまない、コウキくん。本当に……!」
「止めて下さい、ハンサムさん。お願いですから、」
受け入れてくれなくていい、拒絶してくれていい。だからどうか、謝罪なんてしないで下さい。
「僕の想いを悪い事みたいに、間違ってるみたいに言わないで下さい、」
辛い思いも沢山したけど、それでも僕は、あなたを好きになれて嬉しいんです。だから、
「僕は幸せなんです。」
だからハンサムさん、お願いです。そんな憐れむ様な目で僕を見ないで下さい。僕は、本当に幸せなんですから。













しあわせなこども









20100728












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