或る男の告白


「裏切られたんだ、俺は」
目の前の男性はそう言って自嘲的な笑みを浮かべました。仕方がない事だ。男性の目はそう語っているように見えました。
「仲間だったんですか?」
「仲間か…。さぁ、分からねェな。」
くしゃくしゃと指で髪を乱す姿はとても気怠そうです。
「…仲間、敵、友人、恋人、家族、どれにも当てはまるような関係だった気がする。」
「…その人の事が、好きでしたか?」
「…さぁな……」
さっきから彼は、ずっと口元に笑みを浮かべています。
「こういうのを…言葉なんかじゃ言い表せないっつーんだろうな。」
彼の視線はぼんやりと遠くを見つめています。何かを、思い返しているような。
「…恨んで、いますか?」
「さっきから質問ばっかだな」
初めて男性が声を上げて笑いました。その後、また仕方なさそうに眉を下げました。
「…恨めたなら良かった、」
その後、彼はぽつぽつと言葉を溢し始めました。
彼奴の方が、自分よりも悪の意思が強かったこと。その為に自分は負け、死んでしまったということ。

彼奴に殺されたのが、少し嬉しかったということ。
自分は宝珠に殺されたのではなく、奴に殺されたのだ、と。

そして今でも、彼を待っている自分がいるということ。






「…結局、人間悪い事は出来ないようになってんだろうよ。……どうせ彼奴も、また失敗しちまうさ」
何処か悲しそうに、男性は呟きました。
「そうして此処に帰って来た彼奴を、俺はどんな風に迎えるんだろうな。」
そう言って男性は立ち上がりました。男性の髪は、まるで血のように真っ赤です。
「…綺麗な髪ですね。」
「……彼奴も、そんな事を言ってた気がする。」
ぽつりと呟きながら、男性は自らの袖の無い左腕をそっと撫でました。慈愛に満ちたその表情は、中年の男性のものとは思えません。
「さて、そろそろ行くかな。こんなオヤジの話に付き合わせて悪かったな。」
「いえ、楽しかったです。」
「そりゃどうも。…じゃあな。」
「はい、さようなら。」
そう言って彼は此方に背を向け歩き始めました。光に照らされきらきらと輝く彼の髪は、血というよりも、熱を持った炎のようでした。
















20100704
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あきゅろす。
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