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■side B――5

 彼女がなぜすべてを知っていたのか――結局のところ、そんなことは俺には関係ないのかもしれない。いくら聞いてもわからないものはわからないから、結果だけを見よう、そういう諦めは得意だから。いま俺にとって重要なのは、彼女がどうやら本気で俺を生かすつもりらしい、ということだ。
 それは――止めなければならない。考えるまでもなく、その結論ははじめから出ていた。
 彼女の言うことを鵜呑みにするなら、おかしい点はあきらかだった。彼女は『生きた俺の姿を見たい』と言ったが、同時に俺の力を代わりに使う、つまり『俺の代わりに死ぬ』と宣言している。ようするに、彼女は死んでしまうので目的を終えた俺がどうするか見ることなど不可能なのだ。
 死にたいならよそでやってくれ、と、あまりの荒唐無稽さに色々と通り越して怒りが湧いてくる。俺の力を使って俺の目的を遂げ、俺の命のために死ぬ? 冗談じゃない。彼女は身勝手に俺を人殺しにしようとしている。そもそも、彼女が語った俺の人物像は彼女の解釈、彼女の理想であって、俺ではないのだ。なんて押し付けがましい。本当に、心底、初対面から面倒くさい女だ。
 子供を傷つけるような人ではないと思っていました。ぽつりと呟かれた言葉が脳裏に過る。それこそ押し付けだ。彼女は俺ではない彼女の理想を見て行動している。ふざけるなよ。だったら。

「悪いが、お前みたいな奴がいちばん嫌いなんだ」

 護身用のナイフを、彼女の喉元に突きつけた。俺は感情が昂れば暴力を厭わないような人間だ。お前の思うような奴じゃない。それを、思い知らせてやりたかった。
 彼女はかすかに驚いたそぶりを見せ、そして穏やかに微笑む。

「ここでわたしが死んだら、あなたはすべてを失いますね。力も、目的も、報われる可能性も、永遠に」
「見知らぬ女に勝手に自分を人殺しにされるより、よっぽどましだろうが」
「……リュー。あなたは勘違いしていますよ」
「は?」
「わたしは一言も、『あなたと同じように』やるとは言っていません」



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