■side A――6
呼吸困難で目を覚ました。
まだ日は昇らない、動植物も少ないこの地域特有のきわめて静かな夜明け前だった。わたしは静寂をうち破ることもできずにただ寝袋の布を握りしめ縮こまる。断続的にくる胸が潰れそうな感覚に、思考もままならず、黙って涙を溢す。苦しいから、と言うよりは、身体的な負担へのただの反応だ。適度に温かい布の上に、はらはらと涙が染みた。痛い。苦しい。
「っ……」
なんて目覚めだ、そう思えたのも症状が収まった後のことだ。
『代償』。昨夜のリューは、これら症状を総合してそう呼んだ。奇跡によって免れた苦しみは、後から別の形になって襲ってくる。だから、力で命を繋いだ場合は、相当に寿命が減ることを覚悟しなければならない。
力について、彼はそこまで詳しいわけでもなかった。先天性か後天性かを問わず彼の生まれた村ではありふれたものだが、その外で見られたことは彼の知る限りない。それと、一度得た力が死以外の要因で消えることに関しては、村中に聞いて回ったそうだが誰も聞いたことがないらしい。
先天性だった彼にとって、力がないことは激しい違和感を伴うと言う。生きるための命綱がないような、水に浮かぶ薄氷を渡り歩くような、ひどく頼りない感覚なのだと。消えた、という実感は理屈を介さず発生した。だが、彼にも力を戻す方法はわからない。わからないまま、何らかの手がかりを探し歩いていたら、わたしを見つけたとのこと。
とりあえず村に来てくれ。それが彼の結論であり、わたしにも異存はなかった。
――今日よりわたしたちは行動を共にする。
その前にわたしが死なないとよいのだけど、と、酸欠に震える四肢を抱いて思う。寝袋を身に付けたまま岩に背を預け、浅く長く呼吸を繰り返す。空が白み出すまで、その作業は続いた。
朝が来ると、岩で死角になった向こうから、わたしを呼ぶ少年の声が届く。わたしは、その色を求めて寝袋から這い出し顔を出す。手足の痺れは残っていたが、どうにか動けそうだった。
あぁ、やっぱり好きだ。こんな静謐な空気によく似合う、柔らかな色。
「おはようございます。リュー」
微笑んで、身支度。
各々の作業が終わると、集まって朝食にする。わたしはいただいた野菜を三日三晩干したり漬けたりしたもの。彼も似たようなメニューだ。
「お前、なんかあったか。朝から顔色やべーぞ」
固形食料をもそもそかじりながら、リューが聞いた。
「いやあ、朝方ちょっと息ができなくなりまして。まだ少し酸欠なだけですよ」
「いやあで済んでよかったな……」
「えぇ、本当に」
苦笑し、あまりおいしくない朝食を腹に流し込んで立ち上がる。
手早く荷物をまとめると、リューが先導して歩き出す。
「すぐにでもまた山越えしたいんだが、食料が足りそうにない。この先にまた死んだ町がある。寄ってくぞ」
「……泥棒ですね」
「旅人は全員そうさ」
道は西に続く。機械的な影踏みは無言で、無駄なく、数時間にわたって続いた。
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