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見上げた空のパラドックス
書籍版のあとがき

 ここまでお読みいただき、深く感謝します。初めまして。お久しぶりです。朝の光です。作者をやらせてもらっています。

 高瀬青空。
 明るい栗色のショートヘアに碧眼で、心優しくて自暴自棄で孤独で最強最悪で、ひんやりとした声をしていて、笑うとかわいい、僕の愛する十二歳の女の子。または、少女のかたちをした永遠という名の概念。

 彼女のことが好きで創作を始めて、彼女のことが好きで創作を続けていたら、いつの間にか個人サイトの開設から十年の節目を迎えていました。2013年2月4日、僕は人生で初めてインターネット上で小説の連載を始めました。さらに遡れば、紙に手書きで構想をまとめていた時期、脳内で空想を詰めていた時期もありますから……僕と彼女との付き合いはかれこれ十三年か十四年ほどになります。
 本書は、サイト十周年の記念に合わせるとともに、海間日暮の旅路を描いた前作「Chapter:XX Blank」の対をなす本であるとともに、僕がこれまで抱いてきた彼女に関するイメージをあまねくまとめ上げるものでもありました。寂しげに永遠をたゆたい残酷な運命と暖かな日常と刹那の愛と罪悪を幾億と繰り返している彼女。訪れるすべての世界で結局は目の前にあるすべてを愛してしまう彼女。飽いて遠のいてしまっても悲しむことをやめない彼女。彼女を見つめるひとや、人生を狂わされるひとや、忘れてゆくひとや、覚えておくひと。瓦礫の山や、焼け焦げた荒野や、透明な水のきらめきや、白い花や、何気ない街角、白昼の快晴、冬の静謐、雪解けのにおい、夢をみる眠りの底、夢を忘れる夜明け────
 というのも、僕はサイト上で彼女を主人公に据えたクソ長い大長編「見上げた空のパラドックス」を連載しているのですが、そこでは彼女がどこでどうして普通の人間の女の子から不老不死となって何があってどんな思いをしてどんな終わりを見るかというのは描けているのですが、いっっちばん肝心な中核である「永遠に揺らめく孤独な彼女の姿」は、長編だと書き表しにくいんですよね! 完結間近になって「あれ!? もしかしていちばん肝心な彼女の旅する景色を、まだ描けていないのでは!?」と思い立ち、急きょこの本を書き始めたというわけです。短編連続最高、短編連続万歳。なお関係ないかもしれませんが僕が人生で初めてハマった小説作品はキノの旅です。なるほどなあ。なおもっと関係ないかもしれませんが、最近読んだお勧めの本はカルロ・ロヴェッリの「世界は関係でできている」です。文章が美しすぎて長大な詩を読んでいるのかと思ったら物理学の本だった。まだ読み終わっていないんですが。
 話が逸れました。何の話でしたっけ。僕が十年かけて高瀬青空を描こうとした話ですか。そうです。しかし十年経ってもまだ終わっていないのです。完結までの道が見えるところまでは来ているので、あとは書くだけです。最初からずっと書くだけだったけれど。
 僕が十年もの間めげたり死にかけたりしながらも彼女を書き続けてこられたのは、皆様のおかげ、ではなく百パーセント僕の彼女への執念の結果です。が、こうして彼女のことを観測してくださった皆様には本当に頭が上がりません。忘れてもいいから、覚えておいてください。彼女はそこにいます。あなたの見た景色とそこにあった情感だけが証明になります。
 どうか、彼女の存在に確かな観測と祈りがありますように!
 それでは、いつか機会があれば、また。

2023年2月 朝の光



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