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見上げた空のパラドックス
手記6




彼はいつか此処を去る。


それにはいくつか条件があるらしい。
どの世界にも「彼」がいる。
それに出逢ってしまうと、どういうわけか
強制的に退場させられるのだという。
あるいは世界が終わればもちろん。
その辺の理屈はあまり重要でないからこれ以上言及しない。
なんにせよ彼はいつかいなくなる。
今日か明日か百年後か。

つまりこの記録は彼の記憶に寄与しないということだ。

彼らはただ繰り返す。
どこで何があっても去っていつか忘れゆく。
最中に誰を救おうと、その旅は孤独で
こんな小さなノート一冊も連れていけない。

この記録は長くもってもこの世界と共に消えるだけ。

意味なんて無かった。


それでも書いたのは許せなかったからだ。


死を見て、
終末を知って、
置き去られて、
置き去って、
託されて、
遺されて、
背負って、
忘れて、
恋に揺らぎ、
孤独にたゆたい、
繰り返し、

それでいて彼らが静かに笑うから。
すべてをひとつに尊ぶから。
許せなかった。

遥か過去に忘れても、あったはずの絶望を、認識していた境界線を、無かったことにするなよ。

苦しみも許していけって言ったのはお前だろ。

だから失われた彼等のぶんだけ嘆いてやろうと思った。
これは衝動だ。くだらないかもしれない。けれど確かな。



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