見上げた空のパラドックス
手記3
世界は本当は分けられない。
彼がそう語ったことがあった。
自他も、生死も、そのペンとノートだって、
結局は地続きの原子配列で組まれた
ただひとつのものだ。
そこに境界を作っているのは認識でしかない。
認識は境界を定義して相対性を生み出す。
つまりすべてを生む。世界を形作る。争いや悲しみも。
あいつは敵だとか自分は正しいとかさ。
それでいいんだと思う。
境界を作って、世界を作って、何かを選んで、
理不尽を生んで、そこで苦しんだっていい。
それが生きるってことだよ。
俺たちをそれを許していかなきゃいけない。そう思う。
下手に本当のことを受け入れるのは危険だ。
すべてがひとつならすべて無いのと同じ。
相対性を否定して自他も生死もないと認めたらどうなるか。
幸福なのかもしれない、万物の尊さに気づくのかもしれない、
でも生きる理由は無くなるんだよ。
俺には想像できないし、したくもないけど、
そこに辿り着いた奴がひとりだけいる。
「俺は其奴を探してるんだ」
彼と同じ悠久の旅人がもうひとり存在する。
彼は静かに笑っていた。
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