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名前を 小森+黄笠/ほのぼの.甘






「何だこの人集りは……」

うんざりと言った顔で眼前に群がる人集りを見つめる笠松に、森山はふふんと得意気に鼻を鳴らした。

「休日のセンター街は人集りが凄いに決まってるだろ。つまり女の子がたくさんいるんだ!」

「お前ちょっと黙れ」

「まあまあ笠松さん。センター街に来たって言っても、オレらはスポーツ用品店に行くんスから。ちょっとの辛抱ッスよ」

「お前に言われるとなんか腹立つ!!」

「えぇっ!?ひどいッスよ!!」

「まあまあ、笠松」

苛立ちを後輩兼恋人の黄瀬にぶつける(もしくは本当に腹が立っているだけかもしれない)笠松を、小堀が後ろから肩をポンポンと叩いて宥めた。

「せっかくなんだし、楽しもう。な?」

「…小堀がそう言うんなら」

小堀の一言でころりと大人しくなった笠松を見て、黄瀬は何が違ったんだろうかと首を傾げて悩む。落ち着いた笠松に安心して、ところで、と小堀は森山の方を向いた。

「早川はどうしたんだ?」

「あー、何か知らねぇけど来れねぇみたい」

「知らねぇってなんだよ。お前電話したんだろ?」

「したけどよ。号泣するわ早口だわで何言ってるか全然分かんねぇの」

その言葉を聞いた全員があぁと納得した。二年の早川は、普段から早口な上ラ行が発音出来てないので何を言ってるか理解するのが大変なのに、号泣されたときたらもう手のつけようがない。多分本人は来たくて来たくてしょうがなかったのだろうが、どうしても外せない用事ができたとかで泣く泣く諦めた…と言った感じだろう。

「まあ早川はまた今度一緒に来よう。とりあえず行くか」

「そうだな」

ぞろぞろと歩き出した四人は自然と二人と二人に分かれて会話する。黄瀬は、相手にされるされないは別として笠松に楽しそうに話しかけている。一方、森山と小堀の方は何も話すことがなく黙り込んでいた。

(何か話したい、けど何話せばいいんだ…?)

一応小堀と森山も恋仲にある。登下校を供にしたりしてはいるが、そんな時も特に話題が豊富に飛び交うわけではないため、森山はこの沈黙をどうするべきか必死に考えながら歩いていた。

「あれって黄瀬くんじゃない!?」

途端人混みから聞こえた声に四人はギクッと肩を揺らす。黄瀬はモデル業も行っており、女子のファンは数え切れない。それに他の人より頭二つ分ほどデカい身長から、見つかりやすいのをすっかり忘れていたのだ。

「わっ、わっ、見つかったッスよ!」

「見つかったじゃねぇよ!何やってんだバカ!」

「どうしましょう笠松さん!」

「あーもう!ホラ、逃げるぞ!、森山!後で用品店行くから先行っててくれ!」

「はいはい頑張れー」

自然と手なんか握って走り去った二人を見送りながら、やっぱ何だかんだでラブラブだよなあそこ、とか思う。さらに困った状態に晒された森山は、内心少しオロオロする。しかし小堀はそんな不安を取り除くかのように森山に笑いかけた。

「あの二人も大変だな」

「あぁ、うん」

「先行って二人で見て回るか」

「、おぅ」

それだけ話してまた前を向いて歩き出した二人。せっかく話しかけてくれたのに何で続けられないんだと森山は自己嫌悪に陥った。














黄瀬と笠松と分かれて少し歩いた頃、黄瀬の影響かさっきよりも凄みを増した人混みに真っ直ぐ歩くことも出来ない。店の並びの問題から人の波に逆らって歩く二人は、いつしか一列になっていた。森山はぼんやり小堀の背中を見つめる。

(デカい、なぁ…)

運動しているだけあって小堀もそれなりにいい体つきをしている。惚れているせいなのか、森山にはその背中は非常に落ち着く存在で、何度も寄りかかりたいと思った。それでも森山の中の照れが、素直に行動するのを躊躇わせていた。
突然、ドンと肩にぶつかる感触を覚えて我に返る。ぶつかった相手にすみませんと軽く頭を下げて前を向き直した瞬間、追いかけていた背中が見当たらないことに気付いた。

「あ、れ…小堀…?」

慌てて周りを見渡すが小堀の姿はどこにもない。しまったはぐれたと思った瞬間に、どうしようもない寂しさと不安に駆り立てられる。まるで親とはぐれた子供のように泣きじゃくりそうになる。落ち着けと思うが、落ち着けない。気づいたら無我夢中で小堀を探していた。

「小堀…、小堀……!」

(どこだよ、置いて行くなよ!!)

拳を強く握りしめて不安に対抗する。名を呼ぶ声も次第に大きくなった。

「小堀、っ小堀!!」





「由孝!!!!!」





名前を呼ばれガッと腕を捕まれる。驚きながらも前を見れば、探していた人物がいた。

「小堀…」

「悪い。やっぱ波に逆らうべきじゃなかったな。大丈夫か?」

「え、あ、大丈夫…」

「良かった…」

ホッとしたように笑う小堀にドキッとする。そのまま小堀は行こうかと言って、手を繋いだまま歩き出した。

「こ、小堀…っ、手…!」

「またはぐれるかもしれないだろ」

「…………」

いつもと違って少し強引な恋人に先ほどとは違う意味で心がざわつく。スポーツ用品店までの道のりの間、森山は握られた暖かい手に頬が赤くならないようにするのに必死だった。

























無事に店に着いて、二人バスケットボールやバッシュを眺めて十分ほどした時、荒々しく店の扉が開いたのに視線を向けると息を切らしながら入り口にへたり込む黄瀬と笠松が居た。

「遅いぞー、って何処まで行ってきたんだ?」

「センター街、突っ切って……路地裏…ぜ、全速力で…逃げ回って…きた……」

「も、もう無理ッス…部活よりキツいこれ…」

「お疲れ様二人とも」

入り口に溜まるのは邪魔なので座り込む二人を立ち上がらせて店の奥へ行く。



それからは平和に予定が進んでいき、夕方になると解散した。森山と小堀は二人人通りの少ない街路地を歩く。
また、会話がない。ただ気付いたのは、沈黙が息苦しいものではないということ。話題を探すのに必死で今まで気づけずに居たのだ。恋人の横顔をたまに見ながら、二人になった時自然と握りあった手に幸せを感じる。

「じゃあ、森山。俺こっちだから」

「あ、あぁ」

いつもの分かれ道。手を離さなければいけないのだが惜しんでしまう。それでも、困らせてはいけないと手を離したその時、森山の体を暖かいものが包んだ。

「小堀…、ここ、道路…」

「今日、はぐれたの本当にごめん」

「気にしてねぇよ…。俺がぼーっとしてたんだし」

「それでも、不安にさせたから…ごめん」

くせのない髪を小堀の指が梳いていく。染みるように流れ込んでくる体温に、森山の頬は赤く染まる。照れて素直に動けなくて、名前さえも呼んだことがない。甘えている。このままじゃ、ダメな気がする。と、小堀の裾を強く握った。

「森山?」

「………、」

小さく小さく、誰にも聞こえないような声でそっと呟いて。驚く小堀に何も言わせまいと口付けた。

「また明日」

「、由孝!」

小堀の腕をするりと抜け出して駆け出した森山を呼び止めた。不意打ちのように呼ばれた名前と、自分のした行動に顔を真っ赤にしたまま少しだけ振り返る。その様子を見た小堀は優しく微笑んで、

「また明日な」

そう言って走り去る森山の背中を見送った。



























-end-


んー。なんだろう。
何か思ったのと違う感じになった。特に最後。
今度下げちゃうかもしれません;;

小森難しいな…。

 

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