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隣人は、友であり、敵。



僕らの家の隣には、父さんと同じボンゴレの人間がいる。
その人の名前は、山本武。母さんの幼馴染みであり、父さんの元恋敵だ。





そんな僕らの日常。





ピンポーン。
間延びしたチャイムの音が響く。僕は日課となっている母さんの手伝いを一時中断し、玄関へ向かった。

ドアの覗き穴から相手が誰かを確認し、知り合いだったのでガチャリとそれを開けた。すると、そこに立っていたのは短髪長身の男で。



「おう、結弥!」

「……こんにちは」



山本武。ボンゴレの雨の守護者である。
この人は父や六道骸と違って、マフィアらしさが微塵も感じられない。あの二人には、威厳というか存在感というか、やはりどこか威圧される部分がある。だが山本武はそれがない。一緒にいると、まるで中学生くらいの友人と遊んでいるような、そんな感覚に陥る。



「今日は皆でスポーツでもやって遊ぼうと思ってなー」



……こういう所が、その原因だと思うが。



「別に良いけど、今日は父さんも家にいるよ」

「ん?あぁ、そういやそうだったな。ヒバリも一緒にやっかなー?」



父さんと山本は、あまり仲が良くない。恋敵だった山本を父さんが嫌うのは当然であって、逆もまたしかり、というわけだ。
玄関で話してるのもなんだし、そろそろ中に入ろうかと思った時だった。



「結弥、お客さん誰だったのー?」



母さんがエプロンで手を拭きながら、スカートの裾を揺らして駆けてくる。視線が僕からドアの外にいる彼に向くと、パァッと嬉しそうな笑顔になった。



「山本君っ」

「優里亜!遊びに来たぜー!」



二人が軽く挨拶を交わす。
山本は嬉しそう、というより幸せそうな表情で、柔らかく微笑んだ。こういう所を見ていると、彼はまだ母さんのことが好きなんじゃないかと思う。

そのまま世間話を始めようとしていた山本達に声をかけ、僕らは家へと入った。



・・・・・・・



「……なんでキミは休日になると此処に来るの」



それが、最初に父さんが山本へ放った一言だった。対する山本は全く動じていないといった笑顔で、結弥達と遊ぶために決まってんだろー、と返す。バチバチと飛び散る火花はきっと、母さんには見えていないのだろう。



「あれー?たけし兄ちゃん?」



突然ひょこっと姿を現したのは、妹の憂だった。彼が来ていることに気付いていなかったのか、首を傾げて名前を呼ぶ。



「わぁ、どうしたの?今日お休みなのー?」



山本に駆け寄り、抱っこをねだるように両手を伸ばす。快く彼女を受け入れた山本は、自分の胸の辺りまで憂を持ち上げて微笑んだ。



「おう!今日はいっぱい遊ぼうな!」

「うんっ」



基本的に外で遊ぶのが好きな憂は、山本と仲が良い。僕も外は嫌いではないが、体が弱いので家の中で読書をしたりする方が多いのだ。
嬉しそうに庭へ出ていく二人を見送っていると、突然父さんが僕の横にしゃがみ込んだ。



「結弥、もしあいつが母さんや憂に何かしようとしたら、容赦なく咬み殺していいから。特に母さんとあいつは注意して見てて。僕が仕事でいない時は、キミが二人を守るんだよ」

「……ねぇ、父さん。山本は別に敵対ファミリーの人間とかじゃないんだし、そんなに心配しなくても大丈夫なんじゃ」

「甘いね。敵じゃないからこそ、油断したりもするんだ。実際、僕はあいつにどれだけ邪魔されてきたか……」



こうなってしまうと父さんは長い。以前は黙って聞いていたせいで三時間はかかった。母さんと付き合うまでの苦労を延々教えられても、子供としては微妙な気分だ。こういう時は、逃げるに限る。



「僕、母さんの手伝いしてく」

「よーし!じゃ、まずは野球からやっか!」

「!」



今、なんだか庭から不吉な言葉が聞こえたような。僕は急いで家から飛び出し、憂達がいるだろう場所へと向かった。
そこで見たのは案の定。



「ちょっと、なんで憂にグローブ持たせてるの!」

「ん?結弥も一緒にやんのか?」

「やらない。それに野球だったら憂にもやらせないよ」

「えー!なんでー!」



なんでー、って。
そうだ。憂は山本に野球をやらせると大変なことになるって知らないんだ。

僕がそれを知ったのは、確か二ヶ月ほど前。一人で父さんの仕事場をうろうろしていたら、山本が誰かの落とし物を見つけて。すぐに落とし主が来て「投げてくれー」と叫んだまでは良かった。
その直後、「そらよっ!」と落とし物を投げた時の山本の顔と威力は忘れられない。あんなことを憂相手にされたら、そう考えるだけで恐ろしい。



「とにかく、駄目なものは駄目」

「むー……」



しばらくの間、心底不満そうに唸っていた憂だったが、突然何かに気がついたような表情になり、こう言った。



「そっかぁ。結弥、びょうきになりやすいから、外あんまり好きじゃないもんね」

「は?」

「ごめんなさい、たけし兄ちゃん。結弥が外でたくないなら、憂も中で遊ぶ!」



体は本当に弱いけど、今のはそういう意味で言ったんじゃないんだけどな。

……いつも優しい憂。ちょっと勘違いすることが多いけど、それは誰かを思ってのもの。

六道骸にも山本にも、渡す気なんて更々ない。父さんに言われなくたって、絶対に憂は守るから。





隣人は、友であり、敵。





「んじゃ、オレは優里亜の所にでも行ってくっかな」



それもここに来た理由の一つだしな、と父さんに聞かれたら即決闘ものの言葉を残し、山本は家に入った。

二十年近く彼の中にある母さんへの気持ちは、一体どれほどなのだろう。



その後思った通り喧嘩が始まり、大人二人が母さんにこっぴどく怒られるのは、また別の話。



08.09.09


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