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最悪な日々の始まり



妹の憂は、六道骸と結婚するのが夢だという。それを聞いてから僕は頭が痛くて仕方ない。
そして今日、また妹が父の仕事場に行くらしい。もちろん僕もついて行くことにしたのだが、今度は腹痛が酷くなった。

やはり僕は六道骸が苦手なようだ。





そんな僕らの日常。





「結弥、むくろの部屋行こう!」

「……分かったから引っ張らないでよ」



六道骸の部屋。本当は物凄く行きたくない。はしゃいで廊下を歩く憂に溜め息をこぼした時だった。



「おや、憂と結弥じゃないですか」

「――…! むくろっ!」

「(来たか、諸悪の根源め……)」



部屋から出てきた六道骸にパタパタと駆け寄っていく妹を見ながら、心の中であいつに悪態をつく。ご丁寧にも六道骸は僕らと目線を合わせるようにしゃがみ込み、抱き着いた憂の頭を撫でた。
……こういう所がやけに紳士的でムカつくんだよ。



「憂はこの前会いましたが、結弥は久しぶりですね。前回は風邪で来られなかったと聞いて、心配していたんですよ。具合はどうですか?」

「……もう平気」

「そうですか、良かったです」



六道骸はそう言ってニコリと笑い、そのまま憂の方へと向き直る。



「あのね、むくろ。憂、むくろにお願いがあるの。……聞いてくれる?」

「はい、良いですよ。憂のお願いですから」



あいつの一言で、憂の顔にパァッと歓喜の色が広がる。
何が、憂のお願いですから、だ。父さんが六道骸とは合わないと言っていたのを思い出し、やはり父と僕は似ているのだと思った。



「それで、そのお願いとは?」

「えと……憂、の」

「?」

「憂のおよめさんになって下さい!」



……流石の僕らも、これにはフリーズした。どうやら彼女は間違いに気付いていないようだ。
六道骸が「えぇと」と言って首を傾げたのを見兼ね、仕方なく憂に声をかける。



「憂、お嫁さんっていうのは女の人がなるものだよ」

「へ?……あ、間違った!」



ようやく意味を理解したのか、わたわたと僕と六道骸を交互に見た。そして上擦った声でもう一度。



「あの、そのっ……憂と、けっこんして下さい!」



ついに言ってしまった。
いや、でもどうせ七歳の少女の告白に良い返事なんて返さないだろう。そうだ、別に心配しなくていい。頬や背中を伝う汗は、ただ気温が高くて出てるわけであって、断じて冷や汗ではない。
ぐるぐると言い訳じみたことを考えていたら、六道骸は再びニコリと微笑み、予想だにしなかった言葉を発した。



「ありがとうございます、憂。嬉しいです」

「え? じゃあ……」

「はい。もう少し大きくなって、きちんと準備が出来たら結婚しましょう」

「!」



それを聞き、憂は頬を赤らめ、僕は顔を青くした。
ああ、六道骸なんて大嫌いだ。いつも僕の考える最悪な方向へ、事を進ませる。大人になったら必ずこいつより強くなって、ぎゃふんと言わせてみせるんだ。
前々から考えていた夢が、絶対的な目標となった。


ふと意識を二人の方へ戻すと、何故か六道骸が憂に耳打ちをしていた。僕に聞かれないように?……また質の悪いことを。
話が終わった時、妹はぽかんと何かを不思議がる表情になった。「それって、どういう意味?」と六道骸に聞いていたようだったが、「結弥に聞けば分かると思いますよ」と返される。
すると突然、六道骸が立ち上がり、憂の手を引きながら歩き始めた。目の前に来たあいつは僕の左手を取り、三人で六道骸を挟むように手を繋ぐ形になった。



「憂、結弥、一緒にお茶でもしましょうか」

「うん、するー!」

「(……僕は早く帰りたい)」



この日から僕が前にも増して六道骸を敵対視するようになったのは言うまでもない。





最悪な日々の始まり





六道骸の隣で幸せそうに微笑む憂を見ていたら、文句の一つも言えなかった。でも家に帰る途中、彼女が口にした言葉によって、またあいつに対する殺意がわいた。



「ねぇ、結弥。しすこんって何?」

「(あいつ、次に会った時絶対殺す)」



僕の戦いは、まだ始まったばかりだ。



08.09.09


あきゅろす。
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