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誰だって好き嫌いはある



今日は父さんの上司、ボンゴレ10代目が遊びに来る。たまに仕事の合間を縫って僕らの面倒を見てくれる10代目は、マフィアのボスにしては弱々しすぎる気がするけれど、父さんや六道骸を動かしてる位だから、やっぱり凄い人なのだと思う。





そんな僕らの日常。





「いつもごめんね、優里亜ちゃん。お邪魔してるのはこっちなのに、ご飯まで作ってもらっちゃって」

「ううん、気にしないで、沢田君!私の方こそ、こんなのしか出せなくて……。お、美味しくなかったら言ってね?」

「そんなことないよ!オレ、優里亜ちゃんの料理大好きだから!」



晩御飯を運んできた母さんと、食卓についている10代目が、顔を見合わせて笑う。とても和やかな雰囲気だ。しかしこういう時は、必ずといって良いほど、僕の向かいに座る父さんの機嫌が悪くなる。案の定、視線をそちらにやると彼はムスッとした表情で10代目を睨んでいた。



「沢田」

「は、はいっ!」

「優里亜と馴れ馴れしくしないでくれる?彼女は僕のだよ」

「す、すみません、ヒバリさん!」



10代目はボスの癖に父さんには弱い。慌てて頭を下げる姿は、まるでそこらの一般人だ。母さんが言うには、この関係は昔から変わっていないらしい。



「き、恭弥さん、上司に何言ってるんですか!……沢田君は私のお友達なんですから、あんまりいじめないで下さいね?」

「…………」



学生の頃と違う所といえば、こうやって母さんが父さんを説教するようになったことだとか。昔はもっとビクビクしてて可愛かったんだよ、そう父さんから聞いた。そしてその後に、もちろん今も可愛いけどね、と彼は微笑んで言うのだ。……本当に、子供に惚気るのはやめてもらいたい。



「えーと……ところで、憂ちゃんはどうしたんですか?いないみたいだけど……」

「あぁ、憂は今日、ディーノさんの所にお泊りなの。迷惑でしょうって言ったのに、ディーノさんが、楽しいから良いよって言ってくれて」

「……ディーノさんらしいね」



話をしている間にも晩御飯の用意は着々と進んで、テーブルの上は美味しそうな料理でいっぱいになった。10代目から感嘆の声があがる。
いつもなら憂がいるはずである僕の横の席に、今は10代目が腰掛けている。その前には母さんが座り、皆でいただきますをした。



「あー、やっぱり手料理って良いなぁ……。オレ、仕事が忙しい時なんて、リボーンが持ってきたカップ麺しか食えないし、一人暮らししてるせいで家に帰ってもコンビニ弁当とかばっかり食べてるから、こういうの凄く羨ましい」

「なら沢田も早く結婚すればいいじゃないか」

「な、なななな何言ってるんですか、ヒバリさん!そんな相手いませんよ!」

「……10代目、そこって思いきり否定したら悲しくならない?」



僕の同情の眼差しに、10代目が肩を落とした。あ、余計なこと言ったかも。
そう心配して、ちょっとオロオロしていた時。



「優里亜はあげないよ」

「……分かってます」



余計なことを言うのは、父さんの方が一枚上手なようだ。そんなの、一々言わなくてもボンゴレの人間なら誰でも知ってるよ。もし母さんに好意を寄せてるやつがいたとしても、父さんが怖くて近寄れもしない。

隣では母さんが俯いて顔を赤くしながら黙々とご飯を食べている。この夫婦はいつまで経っても新婚か。10代目も、きっとそうツッコミたいだろう。



「そ、そういえば、骸さん、どうしてるかなっ?」

「え、骸?」

「うん、なんだか憂が気にしてるみたいで!」



ああ、なんだ、更に上がいたのか。
照れ隠しのために慌てて放った母さんの一言により、僕と父さんの眉間に皺が寄る。
六道骸。それは僕の大嫌いな男の名前。憂と結婚するなんてふざけたことを言う、頭のおかしい変態だ。



「うーん……多分、まだ仕事してると思うけど……。確かに最近、憂ちゃんと骸が一緒にいる所、よく見かけるな」



この前は二人で昼寝してたよ、と10代目が笑って口にした。
何それ。僕、知らないんだけど。

ほのぼのした空気で話をしているのは、母さんと10代目だけ。そこに父さんが割り込んでいく。



「優里亜、あいつをそうやって呼ぶなって、いつも言ってるだろ」

「? は、はい。でももう癖になってるので、直すのも難しいというか……」

「とにかく駄目。キミが下の名前で呼ぶのは、僕だけでいい」

「……前から思ってたんですけど、ヒバリさんって嫉妬深いですよね。骸だって、流石に同じファミリーのお嫁さんに手を出したりはしませんよ。……多分」



……僕は、ふと思った。10代目が六道骸をファミリーにしていなかったら、今のこの状況はなかったんじゃないか。あいつにペースを乱されることもなく、平穏に暮らせていたのではないか。そう考えると、ふつふつと10代目に対する苛立ちが沸いて来る。
いや、10代目のせいにするのは間違ってるって、ちゃんと分かってるんだ。でも少しくらい、八つ当たりしたって良いだろう?


皆の視線が手元から離れた時、僕はこっそりと自分の嫌いなピーマンを10代目の皿へと移した。気付かれていない。成功だ。



「……あれ?」



案の定、視線を戻した10代目は首を傾げた。もともと彼の皿にはピーマンが残されていたが、その量がいつの間にか増えている。10代目が僕と同じでピーマン嫌いなのは知っていた。さあ、ピーマン地獄で苦しめ!
……しかし、全てがそう思い通りになるわけもなかった。



「結弥!人のお皿にピーマン移しちゃダメでしょう!」

「…………なんの話」

「とぼけないの。結弥が残してた数だけ、沢田君のが多くなってるんだから、いくら私だって分かるよ。……ごめんね、沢田君」

「へ!?い、いや、大丈夫だよ!」



10代目、苦笑い。なんで自分が嫌がらせをされたのか分からない、という顔だ。作戦は失敗か、と溜め息をついていたら、母さんがくるりと父さんの方へ向き直った。



「恭弥さんも、グリンピースを端っこによけないで下さい」

「……これは……あとで食べようと思って……」



なんて苦しい言い訳。息子の僕でも嘘だと分かる。しかし母さんはニッコリと笑って、



「そうだったんですか。じゃあ、最後はきちんと食べて下さいね?」



そう言ってのけた。
笑顔が怖い。食べないわけにはいかないだろう。さっきまで父さんが優位に立っていたのに、今では形勢逆転、圧倒的に母さんが主導権を握っている。10代目はこんな強気な発言をする母さんを見たことがないのか、目が点になっていた。僕も急いで10代目の皿から自分のピーマンを戻し、冷や汗を流しつつ食べるのを再開する。



……この家で一番強いのは、間違いなく母さんだと、僕は思う。





誰だって好き嫌いはある





「ねぇ、結弥」

「何、10代目」

「オレ、まだ当分、結婚はしなくていいかなぁって思ったよ」

「うん。……なんか、ごめん」



なんとも言えない表情でグリンピースとにらめっこをしている父さんを見ながら、僕はピーマンのラスト一枚にゆっくりと箸を向けた。



08.09.09


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