沢田綱吉→雲雀恭弥
( +10年後設定 )
皆さん、今日はお知らせがあります
「きょ、京子ちゃん、あの、その………俺…とッ……えぇと…………結婚、して、ください…ッ…!!」
「え…」
「…………………」
「……………………」
「………………………」
「うん、良いよ」
「だ、だよねー!!並中のアイドルだった京子ちゃんが俺なんかと結婚なんて有り得…………ッ…て…え!?良いの!?本当に良いの!?マジで!?…うっわぁー…うっわぁー……やったよ、俺やったよ聞いてくれリb…」
「うるせぇぞ」
「あいだだだだだだだ何それ、何それなんていう拷問器具!?ちょ、やめ…ッ…あぁもう何でも良いや、とにかくやっほーい!!」
俺、結婚する事になりました★
対して大切な交流がある訳でもない同盟ファミリーには文書を送って…あ、もちろんディーノさんは別。文書どころか電話しちゃったもんね!
後は守護者の面々に直接御挨拶。
嵐の彼は涙やら鼻水やら涎やら…とにかく汚かった。祝ってくれてるのか罵られているのか解らないくらい声も顔もぐちゃぐちゃで汚かったけど、それがまた彼らしくて嬉しくて。
雨の彼は出会った頃より穏やかな笑みを浮かべて出会った頃より低くなった声で心の底からたった一言祝いの言葉をくれた。大して何も飾らないその一言が凄く嬉しくて。
晴の彼には出会い頭強烈な一発を貰った。だけどそれは拒絶の拳じゃないというのが直感で解ったから受け入れた…と言うより受け止めた。俺の人生をも受け入れてくれる彼のその包容力が嬉しくて。
雷の彼は10年前に見た大人びたイメージからかけ離れたグシャグシャの顔で祝ってくれた。感極まった彼に抱き付かれて角という凶器に引っ掻かれた小さな傷ですら、嬉しくて。
霧の彼は俺に興味なんて無いらしく素っ気な無い祝いの言葉に続いて部屋からの退室を促された。けど、追い掛けてきた彼の部下から聞いた伝言に素直じゃない彼らしさを感じて嬉しくて。
霧の彼女は驚いたように大きな瞳で何度となく瞬きを繰り返した後辛うじて聞こえる程度の小さな小さな祝いの言葉をくれた。少しだけ照れ臭そうな、だけど自分の事のように祝ってくれた事が嬉しくて。
雲の彼は…
「え、雲雀さんいないの」
「…すみません」
「あ、いえ、あの…此方こそ」
雲の彼はどうやら不在らしい。
(側近である彼は少し窶れていた)
あと報告すべきは彼だけだというのに、まったく何処に行ったんだか。いくら雲だからってふらふらふらふら…本当に落ち着きがないんだから。もう、いったいいつまでガキ大将気取りなんですか!…なんて、彼に告げたらその日が俺の命日になるから口が裂けても言わないけど。だってほら、俺ってヘタレだし。
だけど、俺だってこの10年間ただただヘタレ道を突っ走ってた訳じゃないんだ。彼の行動パターン及び範囲は知り尽くしているつもり。彼は昨日の朝方まで任務と執務に追われていたから、きっと今は癒やしを求めている筈。今までは和に囲まれた自分の城ともいえる自室でのんびりして癒されていたらしいんだけど晴の彼が一升瓶と熱気を土産に度々邪魔してくるから断念。
そしてそんな彼が癒される場所なんて、きっとたったひとつしかない。もしかしたら彼と付き合いが浅い人間でもバババッと思い出しちゃうかもね。
「あ、雲雀さん見っけ」
「なに、君…取り敢えず帰れ」
イタリアから遠く離れた黄金の国ジャッポーネにある我らが母校並盛中学校…の、屋上。
彼は昔から此処で昼寝をするのが好きらしい。昼食をとろうといつもの3人組で彼の聖域に踏み込んで何度咬み殺された事か。正直、思い出したくもない。
屋上に出てすぐの梯子を上ってひょっこりと顔を覗かせれば頭の後ろで組んだ腕を枕に横たわる黒スーツを発見。思わず声を上げた俺に返ってきたのはあまりにも素っ気ない一言だった。しかも瞼は閉じられたまま……、ちょっとくらいこっちを見てくれたって!
だけど、彼の目元にうっすらと確認できるクマを見て大人しく口を閉じる。疲れてるんだな、雲雀さん。眠らなかったのかな。集中すると食べるのも忘れちゃう人だもんね、仕方ないかも。
…タイミング、悪かったかな。
だけど今しかない。今からイタリアに帰っていろいろ準備しなきゃいけないんだ、京子ちゃんが俺を待ってる。
無意識に手すりを握る手に力を込めながら緊張のせいで乾いた唇を舐める。気のせいかな、喉の奥までカラカラに乾いてる感じがする。
「雲雀さん、実は俺…」
「知ってる」
瞼はまだ閉じられたまま
「…結婚するんです」
「だから、知ってるよ」
きゅ、と眉の根が寄せられた
「京子ちゃんと…」
「…ねぇ。なんで君は知ってるって言ってるのが解らないの。馬鹿なの?」
ようやく交わる瞳
ぎろり、と睨まれたらしい
「ごめんなさい」
「………………」
俺は、きっと貴方を抱き締めた腕で同じように彼女を抱き締めます
俺は、きっと貴方に囁いた愛の言葉を同じように彼女へ囁きます
俺は、きっと一生貴方だけだと誓ったあの場所で同じように彼女との永遠を誓います
そして、きっと俺は、
「ごめんなさい、恭弥さん」
「嫌いだよ、君なんて」
卑怯で最低だと思いつつも謝罪だけを言い捨てて梯子を下り始めた俺の耳に辛うじて届いたのは初めて聞くかもしれない酷く穏やかな声。
彼は、笑っているのだろうか。
笑っていてくれればいいのに。
きっと俺は幸せになる
素敵な女の子がお嫁さんなんだ
だから、絶対幸せになる
だけど
「…ありがとうございました」
きっと ずっと 貴方を忘れない
精一杯の勇気でさようなら
( 俺は誰よりも欲張りだから、 )
( 貴方の手も離したくなかったんです )
fin,