眠り姫に口付けを
「すぱな、」
「………ん?」


大きな身体を仔猫のようにぎゅっとまるめて眠っていたスパナに声をかけると、まだ少し眠たいのかごしごしと目元を擦りながらゆっくりと上半身を起こした(なんか、かわいい、かも)(男の人、なのに)


「入江さんが探してた。」
「正一が?」
「なんか相談したいことがあるって言ってた、けど。」
「ふーん…」


探されている理由に心当たりがあるのか一瞬納得したような表情を浮かべたけれど、スパナはあとでいいや、とだるそうに呟いて再びごろん、と寝転がってしまった。


雲の人のアジトは、日本文化が大好きな彼にとっては楽園みたいな場所らしい。
畳、縁側、そして極めつけに鹿威しがある日本庭園。たしかに、彼の興味をそそるものは数多い。
そのため、彼は雲の人が居ない時を見計らってよくこのアジトに不法侵入しては縁側で昼寝をしたり、鹿威しをただひたすらにぼーっと眺めている。(多分あのリーゼントの人は気付いてると思うけど何も言わないでいてくれる)(………いい人、だ)


「行かなくていいの?」
「眠いからいい。」


その言葉通り、スパナの瞼は眠気に負けて今にも閉じようとしている。
私よりずっと年上なのに(そして躯もずっと大きいのに)、スパナはすごく可愛い。なんというか、すごく純粋な子供のような人だと思う。


「クロームも、一緒に、寝よ」
「きゃっ!」


とても寝惚けているとは思えないような強い力でスパナに引き寄せられて、気がつけば私はスパナの腕の中にスッポリとおさまってしまった(ああ、恥ずかしい!)
離れようともがいてみても、腰に回された手が外れそうな様子は微塵もない。
どうやら、諦めるしかようだ。


「…入江さんに怒られても知らない、から。」
「クロームも一緒に怒られてくれるなら、いい。」
「………なんで、私まで」
「れんたいせきにん。」


悪戯が成功した子供みたいな顔で笑ったスパナは、限界を迎えたらしくそのまま瞼を閉じて眠ってしまった。
慢性的な腹痛に悩まされる彼にこれ以上苦労をかけるのは申し訳ないな、と思いつつ、スパナが一緒に怒られてくれるのならそれも悪くないかもしれない、と思ってそのままスパナの作業着に顔を埋めた(スパナの匂いが、する)(油と、それからほんの少しだけ、おひさまのにおい)


意識が沈む瞬間、額に柔らかいものが触れた気が、した。


眠り姫に口付けを
(………ほんとは寝てないって言ったら怒るかな)(ま、いっか)



(スパナ!お前こんな所に居たのか…って、うわっ!)(…正一うるさい。)(ご、ごめん)(クロームが起きたらどうするの)((あれ、なんで僕が怒られてるんだろ))




あきゅろす。
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