子猫の夢、陽だまりの唄
大きなベッドの上で子猫のように小さな身体をさらに小さく丸めて眠る少女の濃紺色の髪を一房手に取り、骸はその髪に口づけた。膝を乗せたベッドのスプリングがギシリと鳴る。それは少女の眠りを妨げるほどのものではなかったが、骸の口づけが髪から頬へ移り、何度も繰り返されたため少女、クロームの瞼が覚醒を知らせるように震えた。大きなアメジスト色の瞳に骸の顔がはっきりと映る。

「大人の、むくろさ、ま…?」
「ええ、そうですよ。かわいいクローム」

過去の時間を生きるクロームが未来の世界の住人である骸に会うのは、これがはじめてではない。はじめて未来に飛ばされた時はどうすれば良いのかが分からずに戸惑ったりもしたが、今は二度目、そして目の前にいるのは彼女が一番に信頼を寄せている人、何を恐れることがあるだろう?あの時よりも落ち着いた声でクロームは、ここは未来の世界?と問いかけた。だが骸は、手紙を貰ったんです。僕の部屋に贈り物を届けたという内容で、と言い、クロームに問いかけの答えを与えようとはしない。お手紙?クロームが目覚めてから三度目の問いかけを骸にする。

「差出人は"ボンゴレ]世"」
「ボスからの贈り物、…すごくうれしいものだったの?」
「とても、ね…。何だと思いますか?」
「…わからないです」

機嫌が良さそうな骸を見ながらクロームが首を傾けると彼は、それではヒントをあげましょうと言った。

「本来はこの世界にいない」
「未来の世界には、いない…」

クロームはヒントを聞き逃さないように忘れてしまわないように骸の言った言葉を小さな声で復唱する。その様子を見ながら骸はクフフ、と含み笑いをして二つ目のヒントをクロームに与える。

「真っ赤なリボンを首に巻いていて、その結び目には金色の鈴がついています」
「赤いリボンと金色の鈴」

どうやらボンゴレ十代目からの贈り物は生き物らしい。今まで聞いたヒントを合わせるとクロームの中にひとつの答えが思い浮かぶ。きっと子猫だわ、でも未来の世界にはいないなんて…、とても珍しい品種の猫なのかしら?クロームは自分の答えに自信があった。だけどその自信は骸の次のヒントで見事に崩れ去ってしまうのだ。

「子猫のようで、とてもかわいらしい少女ですよ」
「おんなのこ…?子猫じゃないの?」
「間違ってはいません」
「…?」

骸はまるでクロームの答えを待っていたかのように言い、それでは最後のヒントです、と言ってクロームの首を撫でた。そして何かを掴んで離れる。彼の手にあるのは赤いリボン。それはクロームの首から伸びている。彼がくん、とリボンを軽く引くと、ちりん、というかわいらしい音が響いた。

"未来の世界にはいなくて赤いリボンと金色の鈴を首につけた女の子"

クロームは骸の導きによって答えを見つけた。それと同時に頬を紅色に染める。クローム、答えは?骸の問いにクロームは、わた、し…、と彼が出した問題を解いてみせた。例えそれが彼の思惑通りだったとしても正解であることに変わりはない。

「正解です。ご褒美をあげましょうね」

まるで父親が子供にするように、脇に差し込まれた骸の手がクロームの小さな身体をふわりと持ち上げた。見上げていたはずの骸の顔と同じ位置にまで上がり、通り過ぎ、見下ろすかたちになる。自分が空を飛べるようになったような、重力のない場所に放り込まれたような不思議な感覚。視界が高くなったということで、いつも見ている世界が違うものに見えた。クロームは両腕を骸の方へと伸ばした。真っ直ぐに伸ばされていた骸の腕の関節が曲がり二人の距離が縮んでいき、そしてゼロになる。クロームは彼の首に腕を回して肩に顔をくっつけると小さな声で、高いところはコワイわ、と呟いた。それを受けて骸は、それは悪いことをしました、と言って笑う。彼の喉の震えが伝わって少しだけ擽ったい。

「遠くはイヤ、骸様の傍がいいの」
「僕もですよ」


子猫の夢、陽だまりの唄


(さて、難問に正解したクロームには美味しいケーキでもご馳走してあげましょうか)
(わたし、チョコレートケーキが食べたいです)




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