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悲しむあなたが好き




物事の価値がわからないのは愚劣なことだと思う。
よって、豪炎寺は愚劣な人間ということになる。

何故、自分という人間とこんな関係を持ってしまっているのか。









数ヶ月前、俺は豪炎寺と、取り返しのつかないことをしてしまった。
豪炎寺がそう仕向けたんだ。
俺がどうしたって断れないことを知っていながら。
身体を差し出してきた。
恋い焦がれたものが、何度夢見たかもしれない美しい四肢が、目の前にあった。

出会ったときから、全て罠だったのだ。

俺はハマっていった。
引き返せないくらい、どっぷりと、浸かっていた。

そして、豪炎寺は全部わかっていた。
わかっていて、笑っていた。









俺には何の取り柄もない。
ルックスが取り立てていい訳じゃない。成績も、運動もそこそこだ。
性格だっていいほうとは思わないし、いうならコンプレックスだらけだ。

何より、俺は、男だ。




俺は、こういう類の行為にある種の神聖さを感じている。
愛していなければ出来ないとはよく言ったものだが、実にそうだと思う。
だから相手もそうなのだと思っていた。
だからこその、暴言だ。

「お前はもうダメだ」

と、豪炎寺に言われた。
確かにそうさ。俺はもうダメだ。手遅れだ。

でも、豪炎寺だって、おかしいんだ。
俺なんていうちっぽけな存在に、どうしてだ。

俺はお前がいないと気が狂いそうだ。
でもお前には望む望まぬ関係なく、両手には溢れるほどの財産があるだろ。

・・一たび、豪炎寺が誰かを望んでしまえば、そいつは一瞬で堕ちていくに決まってる。

だから、俺は、豪炎寺が他の奴に身体を開いているんじゃないかと、気が気でならない。
俺のときは簡単にくれたから。

しかし、自分のものではないとわかっていても、どうしても希望を持ってしまうのは、あのとき、豪炎寺がつぶやいた一言がいけないんだ。

「好きだ」

豪炎寺はおかしい。
一番欲しい言葉ばかり言う。
この俺に。

あの、豪炎寺修也が。





















「豪炎寺」
「・・・何だ?」
「ちょっと、聞きたいことがある」
「今か?」
「そうだ」

豪炎寺は端整な顔をこちらに向けた。

「・・・・・そういう話なら、俺の家ですればいいだろう。俺もその件でお前に用がある。なにも教室ですることは」
「今じゃなきゃいけないんだ」
「後でいくらでも。乗っかりながら聞いてやるさ」

綺麗な唇からとんでもない言葉が飛び出す。
俺は一瞬ひるんだが、断固として拒否した。

「今、聞きたい。なんなら、ここで乗ってくれてもいい」
「・・・・」
「豪炎寺。どうして、俺なんだ」

豪炎寺ははあと息をついた。

「何だ。そんなことか。言ったろ、お前が好きだって」
「嘘だ」
「・・・・嘘か、何故そう思うんだ、染岡?」
「う、わ、」

不意を突かれて突き飛ばされる。
そのまま豪炎寺が馬乗りになって、完全に俺を拘束した。

俺の間抜けな叫び声は教室に響いた。
まだ教室に残っていた数人の生徒は俺達に気付いて、それから慌てて逃げ出した。

「染岡・・・・明日が楽しみだな。連中、どんな顔するか」
「どうしてこんなことを!」
「お前が乗っていいって言ったんだろ?え?なあ、」

うかつに動くと豪炎寺の重みが伝わってくる。
口では非難しても、俺の身体は悦んでいる。

「・・・豪炎寺!」
「俺がお前のこと好きだって、どうして嘘なんだ?」
「・・・こんなことをして、笑ってられるのは、おかしいことなんだよ」
「お前だって、随分楽しそうだ・・・・」

おもむろに腰を浮かせた豪炎寺に、カッと身体が反応する。

「教えてくれ、豪炎寺・・・どうして俺なんだ・・・」
「・・・お前は俺のことが好きだ。そうだな」

ズボンの上からでもわかる。思春期はだいぶ間抜けだ。
豪炎寺は居心地が悪くなってそこから退いた。

「・・・そう・・お前は俺のことが好きだ。俺には逆らえない。俺の悦ぶことをしてやりたい。その見返りが欲しい。俺が欲しい。俺の全てを手に入れたい。そうだよな?」
「・・・・・」
「だから、お前は使えると思った。俺の思うように動く。そこが気に入っている。それじゃ理由にならないか」
「・・・・それだけでこんなことまでできるのか、豪炎寺は。じゃあ、俺でなくとも、一瞬でも気に入れば、こんなことを誰かと出来るのか」
「はっ。そうかもしれないな」

拘束が解け、しかし起き上がれないままの俺を見下ろして豪炎寺は笑った。
俺は、情けなかった。
聞きたくない言葉を初めて聞かされて、なのにすごく納得している。
こういう言葉でしか、弱者の俺は、安心できないんだ。

「俺は、豪炎寺以外とはこんなことしたくない。出来ない」
「そうか、そうでなければ今お前は潰されていたな」
「・・・・・・」
「染岡、帰るぞ。今日はお前の家だ」
「・・・・両親がいること、知ってるだろ」
「だからだろ・・お前がいつか夢見たくらいに喘いでやるよ」


俺は、豪炎寺に背くことはしなかった。








(どこまでも堕ちていく)






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