さよなら死別 どうして… こんなことになったんだ… 俺とお前は従兄弟で、歳も近かったからガキの頃はいつも一緒に遊んでた。お互いにサッカーが好きだったこともあって、俺たちは本当に仲良くなれたんだ。 なのに、どうして…どこで間違えてしまったんだ。 「も、もう、電話なんかしてくるなっ…」 俺はうろたえた。だからそのまま受話器をたたき付けた。 ガチャッと思いの外響いた音に俺自身驚いて、ハッとする。 「お兄ちゃん…どうしたの?」 「ゆ、夕香…すまない、驚かせたな」 「ううん、いいの。ねえ、今の誰?」 夕香はじっとこちらを見ている。俺の狼狽を読み取っているんだ。 なあ夕香、今の電話の相手は、本当に誰なんだろうな。 だって、俺の知ってる真人じゃなかったんだよ。 だって、真人があんなことを言うはずがないだろ…。俺の知ってる真人はあんなこと言わない、絶対に… 「間違い電話だ。…夕香、晩飯は出来てるからリビングに行こう…」 「う、うん」 だから、今の電話の相手が誰なのかは、本当にわからなかった。 「真人……!?」 学校からの帰り道、俺は、よく見知った人物を見つけた。見つけた…?いや、違う…これは―― 「探したよ…修也。ここで待ってれば必ず来るって、夕香ちゃんに教えて貰ったからな…」 「いっ…………か、帰れ……!」 ここは、河川敷。俺がよく練習で利用するとっておきの場所だ。 そこに、従兄弟の、真人がいた。 「久しぶりだよな、お前が木戸川から転校して以来か?」 「真人、何でだよ…、お前……昨日の今日でなんて………」 「修也に逢いたかった」 そう言うと真人はふっと笑って。 俺は、絶句した。 「雷門は木戸川から遠過ぎる。修也、もっと顔、見せろよ」 腕を掴まれてゾッとした。 ただ真人と触れ合っただけで、どうしてだろう、泣き叫びそうになる。 今までは、ただの従兄弟で、親友で、家族だった。 なのに………。 「………っ」 「修也」 「……お前は…裏切ったんだ……俺を」 「裏切った…?」 「どうして!好きだなんて、愛してるだなんて言うんだ……!!」 真人は、いつも俺の従兄弟だった。 俺が初めて男を知ってしまったとき、真人は、それでも俺の従兄弟を貫き通してくれた。 俺が男の性に恐怖していた時期だってずっと一緒にいて、慰めてくれた。 “俺だけはお前の親友でいられるよ”と。 ずっと従兄弟でいてくれたから、俺は真人が大切だった。友達として好きだった。 だけど、真人も同じだった。あの男たちと。 昨日真人は電話越しで俺を好きだと言った。そういう意味で好きだと。 『修也、ごめんな。俺はお前のことが好きだ。目茶苦茶にしてやりたいって思ってしまうくらい。好き勝手してみたいって夢見てしまうくらい』 寒気がした。 あの男たちと真人が同じなんだって気付くと、俺は混乱して、一瞬にして凍り付いた過去を振り払うことにした。 「…だからこれが、辱めだと思うのか…修也…?」 「真人が悪いんだ…一体いつからそんな風に考えてたんだ…!」 真人が手を離してくれない。痛いくらいに掴まれて、鬱血するくらいだ… 真人は本気だった。 「最初からだ!…一目見たときから、ずっとお前が好きだった!」 「やめろっ!!う…っ」 酷いな、真人。…お前はずっと親友のフリをしてたんだな。 俺の信用を裏切って、……… 「修也…俺は!」 「やめろ、しゃべるな!離せっ…!んぐっ」 裏切って…裏切って……ついに真人は、俺に口づけをした。強引で、荒々しい、獣のように貪り散らすキスを施したんだ。 舌が絡んで、熱いものがぬるぬるとして、気持ち悪い… つい、好き勝手されていた昔を思い出してしまう。 もうどうにでもなればいい… 真人はきっと死んでしまったんだ… 「何で…。……抵抗してくれよ…修也…」 「…………」 「…修也」 「もういい…好きにすればいい…もう、どうなってもいい」 さよなら真人。 ああ…という鳴咽とも了解ともとれる真人の呟きを聞いて、俺は涙を零した。 (その涙も吸われて消えていく) |