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あの日から、メンバーの全員が俺に優しい。もっとも、理由はわかる気がする。

軽蔑なんかじゃなく、それこそちやほやという形容が似合うアレだったが、サッカーに支障をきたすようではいけない。

昨日の試合では松野がつまらないミスをして、ゴールが危険にさらされた。

あの時は円堂が死守したが、あのつまらないミスはおよそ松野らしくなく、やはり俺に気を取られ過ぎていて失敗したものであった。

見ていればわかる。

怯えではない。が、みんなそれに似た目で俺を見る。



「キャプテンのくせに」



チームの流れを乱してどうする。

一人の人間に執着することがどんなに危険な行為か。

ガキの俺らには両立なんて器用な真似出来やしないのに。
















「豪炎寺」

「何だ?円堂」

「イナズマ一号の調整しよう」

「・・別にかまわないが」



ただ、円堂だけがあの日からかわらない。
ただ俺をまっすぐに見つめている。

・・・それが複雑だったりする。

笑顔で走り寄ってくる円堂にボールを蹴った。

あんなことを言われてしまったら、人間だれしも少なからず意識してしまうものだ。

嫌なくらいいつも通りの視線を送られるより、色が混じっていたほうが拒絶しやすかった。

どうして円堂はこんなに俺を混乱させるのだろう。



「行くぜ、豪炎寺!」



・・拒否、できないでいた。



















「豪炎寺、いい加減にしろ」



そうしてダラダラとチームの不安を煽り続けた俺に、耐えかねた鬼道がついにピシャリと言い放った。

中学生のそれとは思えない、静かな喧嘩だった。



「全てお前のせいだとは言わないが、今のお前のシュートははっきり言って、情けない」

「どういう意味だ」

「一流のプレイヤーは常に万全の状態でいなければならない。そのくらいはわかるだろう」

「俺が万全じゃない、と?」

「シュートを見ていればわかる。ホイッスルが鳴ったら、ゲームに集中しろ」



鬼道はそれきり背中を向け、「練習再開だ」と走って行く。

去り際の言葉はいつか俺が円堂に言ったもの、そのままだった。

そうだ。俺は俺のためにサッカーをして、チームに貢献し、そして夕香のために勝ち進んでいる。

それをあんな円堂の言葉一つで惑わされるものか。

なにを深く考える必要がある。

地を蹴り、俺はグラウンドへと飛び出した。




















「お、今帰り?」



ドリンク片手に円堂が柔らかな笑顔で駆け寄ってきた。

なにも無視する理由なんてなかったが、俺は聞こえなかったフリをして足早に校門を出た。



「ま、待てよ」



「一緒に帰ろうぜ」と肩を叩かれれば、これ以上しかとし続けることもできず、一度振り返れば、意外と近くに円堂の顔があった。

・・・こいつはなにを考えているのだろう。

好きだと叫んでおいて今まで通りの態度をとって、さらに無防備な姿をさらして、一体何がしたいのか。

ただこの均衡が崩れるのは、一番避けなければならないことで、俺は矛盾していた。

結局俺も、自分がなにをしたいのかわかっていない。



「あっ」



突然の短い悲鳴。
たぶん、険しい表情になっていたのであろう、今まで捲し立てていた円堂が慌てて口をつぐんだ。



「・・もしかして病院寄るつもりだったのか?それなら一人で帰るよ」



しょんぼりというより、しまった、といった気まずそうな表情で、円堂は一歩後ろに下がる。

それを見て、なんとなく、そうだ、こいつの喜怒哀楽はすべて俺が握っているような気がして、妙な居心地のよさに笑った。



「いや、今日は親が来るから別に構わない」

「え?なら尚更行ってやらなきゃダメじゃないか。家族みんなが揃う日だろ」

「そういうことじゃない。定期的にうける精密検査のためだ」



なおも「妹のところに行ってやれよ」と言う円堂を、俺はなかば強引に誘い、ともに帰路についた


最初は円堂から、だったのに。

・・流されているような気がする。






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