2 あの日から、メンバーの全員が俺に優しい。もっとも、理由はわかる気がする。 軽蔑なんかじゃなく、それこそちやほやという形容が似合うアレだったが、サッカーに支障をきたすようではいけない。 昨日の試合では松野がつまらないミスをして、ゴールが危険にさらされた。 あの時は円堂が死守したが、あのつまらないミスはおよそ松野らしくなく、やはり俺に気を取られ過ぎていて失敗したものであった。 見ていればわかる。 怯えではない。が、みんなそれに似た目で俺を見る。 「キャプテンのくせに」 チームの流れを乱してどうする。 一人の人間に執着することがどんなに危険な行為か。 ガキの俺らには両立なんて器用な真似出来やしないのに。 「豪炎寺」 「何だ?円堂」 「イナズマ一号の調整しよう」 「・・別にかまわないが」 ただ、円堂だけがあの日からかわらない。 ただ俺をまっすぐに見つめている。 ・・・それが複雑だったりする。 笑顔で走り寄ってくる円堂にボールを蹴った。 あんなことを言われてしまったら、人間だれしも少なからず意識してしまうものだ。 嫌なくらいいつも通りの視線を送られるより、色が混じっていたほうが拒絶しやすかった。 どうして円堂はこんなに俺を混乱させるのだろう。 「行くぜ、豪炎寺!」 ・・拒否、できないでいた。 「豪炎寺、いい加減にしろ」 そうしてダラダラとチームの不安を煽り続けた俺に、耐えかねた鬼道がついにピシャリと言い放った。 中学生のそれとは思えない、静かな喧嘩だった。 「全てお前のせいだとは言わないが、今のお前のシュートははっきり言って、情けない」 「どういう意味だ」 「一流のプレイヤーは常に万全の状態でいなければならない。そのくらいはわかるだろう」 「俺が万全じゃない、と?」 「シュートを見ていればわかる。ホイッスルが鳴ったら、ゲームに集中しろ」 鬼道はそれきり背中を向け、「練習再開だ」と走って行く。 去り際の言葉はいつか俺が円堂に言ったもの、そのままだった。 そうだ。俺は俺のためにサッカーをして、チームに貢献し、そして夕香のために勝ち進んでいる。 それをあんな円堂の言葉一つで惑わされるものか。 なにを深く考える必要がある。 地を蹴り、俺はグラウンドへと飛び出した。 「お、今帰り?」 ドリンク片手に円堂が柔らかな笑顔で駆け寄ってきた。 なにも無視する理由なんてなかったが、俺は聞こえなかったフリをして足早に校門を出た。 「ま、待てよ」 「一緒に帰ろうぜ」と肩を叩かれれば、これ以上しかとし続けることもできず、一度振り返れば、意外と近くに円堂の顔があった。 ・・・こいつはなにを考えているのだろう。 好きだと叫んでおいて今まで通りの態度をとって、さらに無防備な姿をさらして、一体何がしたいのか。 ただこの均衡が崩れるのは、一番避けなければならないことで、俺は矛盾していた。 結局俺も、自分がなにをしたいのかわかっていない。 「あっ」 突然の短い悲鳴。 たぶん、険しい表情になっていたのであろう、今まで捲し立てていた円堂が慌てて口をつぐんだ。 「・・もしかして病院寄るつもりだったのか?それなら一人で帰るよ」 しょんぼりというより、しまった、といった気まずそうな表情で、円堂は一歩後ろに下がる。 それを見て、なんとなく、そうだ、こいつの喜怒哀楽はすべて俺が握っているような気がして、妙な居心地のよさに笑った。 「いや、今日は親が来るから別に構わない」 「え?なら尚更行ってやらなきゃダメじゃないか。家族みんなが揃う日だろ」 「そういうことじゃない。定期的にうける精密検査のためだ」 なおも「妹のところに行ってやれよ」と言う円堂を、俺はなかば強引に誘い、ともに帰路についた 。 最初は円堂から、だったのに。 ・・流されているような気がする。 |