「っぅあ」
はあ はあ はあ はあ
じっとりと背中に張り付いたパジャマ
荒く、震える呼吸
どうしようもない喪失感と絶望
夢の内容は覚えていないが、とてつもなく嫌な、そして恐ろしい夢だったのはぼんやりと理解していた。
そしてそれが だということも
「レーギュラースー、愚痴聞いてー」
見慣れた後ろ姿に思いっきり抱きつき、年齢の割には薄い背中にグリグリと頭を押し付けながらカルディアは情けない声を上げた。
抱きついた瞬間ビクッと反応するのが、また可愛いよなー。
なんて普通男には思わない感想を抱きながら、嫌がれない事を良いことに、そのまま腰に回していた腕を首に回し、軽く体重を掛けていく。
するとレギュラスは焦りながらカルディアを剥がしに掛かった。
「ちょっ、先輩!身長が縮むからやめてくださいって言ったじゃないですかっ!」
焦った声を上げながらカルディアの腕をペシペシと叩くレギュラスと、そんなレギュラスを見ながら心底幸せそうに笑うカルディアに、今では誰も気にも留めない。
つまりそれだけの頻度で、このようなやり取りは行われているのだ。
それにレギュラスに張り付いているのは“あの”カルディア・レオントスだ、その事にめげずに嫌がらせをした人物は総て何かしらの報復が成されている。
「先輩、まだ授業はあるんですからまた後でにしてください」
それに、ご友人が怖い顔して待ってますよ?
そうレギュラスに指摘されて、カルディアは恐る恐る指差された方を見るとそこには、遠くからでも見えるくらいにくっきりと眉間に皺を寄せているアレックスと、呆れ顔のジャンが立っていた。
「なんだ、その、……俺が生きてたらお昼は一緒に食べような!」
「えっ、ちょっと待ってくださ……」
慌ててカルディアはレギュラスに別れを告げると、答えも聞かず一目散に2人の元へ走っていった。
残されたレギュラスはどうしていいのか解らず、とりあえず引き留めようと上げた手を下ろした。
「………なんでボクが怒ってるんでしょうか! ハイ、そこのよく解ってない間抜け面のお前っ! 答えろ」
顔の表面上は笑っているアレックスの瞳は全くの無表情で、カルディアの背中にはじっとりと冷や汗が噴き出していた。
「えっと、最近レギュラスに構ってばっかりだったから、嫉妬?」
怒られている理由が解らず、とりあえず何か言おうと、カルディアは最近あった変化をあげる。
鋭いのか鈍いのかよく判らない親友に、ジャンは哀れみの視線を向けてくる。
そんな(カルディアにとって)気まずい雰囲気を作り上げる元凶であるアレックスは、カルディアの言い分を鼻で笑い一蹴した。
「なんで、お前の、交遊関係、に、この、ボクが、ジェラシー、感じなきゃ、いけないん、ですか! ホントどれだけお目出度い脳味噌してるんですかアンタ」
本当に嫌そうな顔で、辛辣な言葉を紡ぐアレックスに軽くへこむカルディアは、助けを求めようとジャンの方に目線をやるが、気の毒とは思うけどぉ、オレは一切関知しないからぁ とでも言いたげな表情を返された。
「お前の考えてる事なんて、わかる訳ないじゃない……ですか」
あまりの理不尽さに耐えかねてカルディアは叫んだが、アレックスに殺されんばかりに睨まれ、抗議の声は萎んでいった。
「…………何で怒ってるのか教えてくれませんか?」
ジャンの助けはあてに出来ず、怒っている理由も見当が着かなかったため、アレックスからの嫌味を覚悟して、カルディアはなるべく丁寧に申し出ると。
アレックスの無表情の中にも殺意を含まれた視線は、仕方ないとでも言うように和らいだ
「最近、貴方は真面目に授業を受けてませんよね?」
アレックスの穏やかな声にカルディアは一気に気が緩み、正直に頷いた。
そんなカルディアに、アレックスは肩を竦めながら続ける
「貴方が将来そのせいで職に就けなかろうが、勘当されようが僕にはどうでもいいことです。が、明日は貴方が当たるんです。
貴方が馬鹿な答えを言って、点がとれないどころか、減点でもされてしまってはスリザリンの勝利が遠退きます。」
これだからボンボンは嫌なんだ…と溜め息を吐いて、アレックスは横に置いてあった鞄から羊皮紙の束を取り出し、カルディアの前に置いた。
突然の行動に呆然とアレックス見つめていると、アレックスは鼻を鳴らし誰もいない方向に顔を背けて不満げに鼻を鳴らす。
「貴方は隙があると直ぐにサボりそうですからね、特別に僕のレポート貸して教えてあげますよ。」
何を言われたのか直ぐに理解出来なかったが、微かに見えるアレックスの頬が赤く染まっているのが見えて、段々とカルディアの顔がニヤけていった。
「ありがとう!レックスうぅう!!」
机に足を乗せてアレックスに抱き着こうと、派手な音を立てながら椅子から立ち上がるが、すかさずアレックスに本の角で脇腹を打たれて悶絶する事になった。
「もう俺お嫁に行けないいいぃぃぃ」
目の前に広がる昼食に見向きもせず、机に頭を擦り付けながら、本来なら女性が使うべきセリフを叫ぶカルディアに、レギュラスはどうしたものかと頭を悩ませた。
「俺の純情は、純情は汚されたんだぁぁああぁあ!!!」
おでこが痛くなったのか机から、レギュラスの肩に頭をグリグリと押し付けながら、物騒な事をなおも喚くカルディアの背中をなんとなしに叩く
一定のリズムで叩き続けると、ピタリとカルディアの動きが止まった。
「どうしたんですか、カルディア先輩?」
固まったまま動かなくなったカルディアに不安を覚え、顔を覗きこむと、顔を真っ赤に染め、瞳には薄く涙の膜が張っていた。
どうして良いのか解らずそのままにしていると、ボソリと何かを呟いたあと猛ダッシュでカルディアは大広間から走り去った。
またしても置き去りにされたレギュラスは取り敢えず、何事かと注目している寮生に愛想笑いを向けた。
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