05 コーヒーとシュガー(よながさま)
はじめて飲んだコーヒーの味。
(苦いばかりでお世辞にも美味しいとは言えないものだった)



わたしのおかあさんはコーヒーが飲めなかった。わたしのおかあさんは決まってコーヒーではなく紅茶を飲んでいた。だからおかあさんの淹れる紅茶の味にわたしの舌が慣れきっていたせいだろう。

慣れ。というものはまったくもって素晴らしい機能である。

角砂糖をいくつも淹れる。ミルクもどばどばと足す。「これで大丈夫だろう」と思って飲んだ時には。それは最早コーヒーとは呼べない代物になっていた。けれども。それが今ではブラックでないと気持ちが悪くなる。砂糖やミルクの量を少しずつ減らしていき舌を誤摩化し続けた結果だった。こうしてわたしはブラックのコーヒーが飲めるようになった。まったく。慣れというのはすばらしい機能だ。そして同時に。なんて恐ろしい機能なんだろう。

「と、わたしは思うのですよアフロくん」
「あーあーそうかよ。長々と何を言うかと思えばそんなことか。つか、俺はアフロって名前じゃねえかんな」
「わたし元々はコーヒー飲めなかったのに・・・今ではブラックでもいけちゃう口だよ」
「ガハハ!俺様のおかげだな!流石俺!」
「そうだね。オーバのせいだね。わたしは紅茶が飲みたいって言ってるのにコーヒーしか出してくれないオーバのせいだね」

オーバの自宅にて。
このアフロ。もといオーバはあの四天王のひとりであり。かつわたしの幼馴染でもある。ナギサシティの停電野郎と呼ばれる。あの迷惑なジムリーダーのデンジも同じくわたしの幼馴染である。幼馴染。といってもわたしはふたりよりも3つ程年下。
その3年間がやけに長く感じた。たった3年なのに。

ふと。カレンダーに目を向ける。あれ。「あー・・・わたしそろそろバースデーだ」
それにオーバが食い付いた。「まじ?じゃあ誕生日パーティーしねえとな!」「この歳で?」「歳なんて関係ねえよ!そうだなあ。デンジの野郎呼んで。んでケーキ買って。プレゼントだろ。それから・・・」

こういうところは昔から変わらない。面倒見がよくて。頼りになって。まるでお母さんみたい。
そういえば。昔からわたしにいろんなことを教えてくれたのはオーバだったんだよね。

何気なく口にした。「やっぱり。オーバはわたしにとって幼馴染でありお母さんみたいな存在なんだよね。うん」
赤ペンのキャップを口で銜えながら。器用にオーバが言葉を発する。「ま。そっちがそう思ってても本人はそうは思ってねえかもしれねえがな」赤ペンは弧を何度も描いた。

ふわり。と宙に浮くような気持ちを抑え込んだ。カレンダーに記された花丸を見る。
わたしは砂糖を何杯も淹れたコーヒーを飲み続けた。

(一体。あとどれくらいこのコーヒーを飲めば慣れるんだろうね)


コーヒーシュガー



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