部屋には古びたアルバムの糊のにおいと、彼女の衣類の洗剤か何かの柔らかい香りが混在していた。どちらも嫌いなにおいではないため、決して不愉快ではない。
少し色あせたその表紙をめくると、彼女は目を丸くして私を見上げた。
「これ、ランスさん?」
「そうですよ」
頷いてみせると、穴の開くほどその写真を見つめる。数年前のものだ、俄かには信じられないだろう。ランスはここ数年で随分と変わった。この屈託のない笑顔のその少年がああなるだなんて、誰が考えただろうか。
「じゃあこの髪の赤い女の人がアテナさん?」
「ええ」
「…じゃあ、もしかしてこれ、ラムダさん?」
「ご名答」
彼女は腹を抱えてげらげらと笑いだした。仮にも自分の上司の、昔の写真を見てその態度はいかがなものかとは思うが、確かにおかしい。今の煙草やパチンコに明け暮れるラムダとこの青年を重ね合わせるとどうにも吹き出しそうになった。
笑いすぎて溢れ出た涙を人差指で拭い、彼女はまた写真に見入る。それからぽつぽつと団員を当てていき、感心したり笑ったり、楽しそうであった。しかし、1ページ捲るごとに必ずわざわざラムダの写真に戻り、大笑いするのを忘れはしなかった。余程気に入ったらしい。
「あ、これ」
アルバムをこちらに向けて、彼女は写真の隅を指さした。
「アポロさま?」
そうだ。この、本を抱えて隅に写っている、自信の無さそうでひ弱な男は、私だ。自分の写ったものは全て処分した気でいたのだが、見落としていたらしい。
弱い自分は棄てたつもりだった。棄てたかったのだ。だから彼女にそんな自分を見て欲しくなかった。そんな心情を気取られぬように気をつけながら首を横に振る。
「違いますよ」
「うそだ。だって、アポロさまだよ」
彼女はくすりと笑った。笑われたことに多少ショックは受けたが、ラムダよりはましだ。
「私、今のアポロさまも好きだけど。こっちのアポロさまも好きだな」
すっと写真を撫でて、彼女は微笑んだ。
ああ、この写真に写った頃に彼女に出会えていれば、きっと今私は、