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―記念文倉庫―
9●
前髪を振り分けながら政宗が顔を上げた。男の顔色を窺いつつ、再び手を動かす。
「お前は…俺に非道い事をしようとしているのか…?」
「………」
心中の戸惑いを言い当てられて視線が泳いだ。
「俺の体が拙いから…」
「そうではない」
腰帯が解けて長絹が広がった。その下の縫箔を留める細帯を少年の震える手が弄る。慣れぬ能衣装の着付けが政宗の気を逸らせる。
「そうでは…」
「お前のこれを…」
「!」
着物越しに、下帯を突き上げ堅く凝った陽物を掴まれた。
「俺は何処に受け入れれば良い?」
「…政宗様…!」
広がった長絹の上に少年の細っこい体を抱き伏しながら、小十郎は袴の隙間から内着の裾を割り開いた。内股に手を滑らせ、彼の下肢を締め付ける下帯に指を引っ掛けぐい、と引くと少年は苦しげに呻いた。
このまま、押し入る。
それを実行に移そうとした、その時。
ころろ…、
何処からか、小さな何かが冷んやりとした床に転がり出た。
2人は何となくそちらを振り向き、小十郎が腕を伸ばしてそれを取り上げた。
何かの壷だった。
小十郎は視線だけで問い、政宗は訝し気に首を傾げた。
それの蓋を捻ると、中からとろり、とした液体が流れ出た。
「………」小十郎はバツの悪い思いで、先程この奥の間を出て行った老翁の顔を思い出した。
都で風流を詠い、更に高貴な僧侶であると言うなら、こちらの道に明るくて当然だった。
「苦界にも…仏はいたようです…」
「―――何だ、それ…」
応える代わりに、政宗の体に纏わり付く黄金の縫箔の衣装を丁寧に剥ぎ取ってやった。独特の形をした大口袴には多少手を焼いたが、その下帯をも器用に指先でくるくると緩める。
黄金の縫箔の裏は、苦界に相応しい漆黒だった。その上で微かに色づいた少年の裸体が力なく横たわる。そしてその中心で別の生き物のように息づく猛り。
狂おしい程に愛おしい眺めだった。
それを眼下に納めつつ、小十郎は少年の腰の上に跨がったまま自らの着物の全てを解いた。
それを少年の好奇と色に塗れた瞳が見ていた。見られている、と言う事実が男の中の熱を異様に昂らせた。
互いの視線を絡め合わせながら小十郎は少年の身体の上に覆い被さった。熱い塊を彼の下腹に押し付けながら。
反射的にその背に両腕が回された。
「小十郎は欲深いのです…」
「…うん…」
少年の背に回した片手には、先程の香油壷が握られていた。
「貴方の準備が整うのを待ってはいられない程」
とろりとした液体を絡ませた左手の中指をそこに押し当て塗り付けると、少年が息を呑むのが分かった。
「女の体ではない貴方が俺を受け入れるには、そもそも無理があるのです…」
「…うっ…、ん…」
つるり、と潤滑油に浸した指先は呆気なく小さな蕾に埋もれた。
身を硬直させ堅く瞼を閉ざす少年のドーランを塗りたくった頬に、鼻先に、瞼に、降るような口付けを落とした。
もう少し、もう少しの辛抱だ…。
己に言い聞かせ逸る体を力尽くで捩じ伏せる。
指先の油を乾いた内壁に擦り付けて行く、その度に少年の肩から背から、全身に震えが走った。そのか弱い様に神経の1、2本でも灼き切れてしまいそうになる。それでも。
そうした事を何度か繰り返し、政宗の最奥が女の秘所のようにぐっしょり濡れてしまうともう駄目だった。
既に脱力し切ったその身体を、腰の下に膝を入れて折り曲げてしまう。この体勢が受ける側には一番無理がない、かと言ってもやはり苦しい事には違いがない。
「御免」と小十郎は低く呟いた。
右手で少年の細腰を抑え、左手の指先で濡れそぼった蕾を押し広げる。そこへ、自身の張り詰めて怒張した雄心を宛てがう。
「……っぅ、は…!」
苦界の海をその手に鷲掴んで政宗が息を詰めた。
酷い抵抗は少年の苦痛を指し現していた。だが、小十郎にはその締め付けが完全に快楽の火花として目の前に激しく散った。
更に進めたがる体を圧して、細かく腰を揺らして穿った政宗の体に教え込んで行く。攻め入るものが異物ではなく、快楽を与えるものだと。
「…く、るしい…小十郎…っ」
か細く泣く少年の濡れた目尻に口付けた。そこの紅が流れて涙の痕を描くのも舐め取ってしまう。
苦痛を忘れさせる為、少年の雄心を握り込んでやった。そうやって身悶える様を見せつけられては更に抑制が利かなくなりそうだが。
「…は、あっ、あぁッん…!」
苦界の闇の中、少年の肉体が蒼白く燃え上がった。
上体が跳ね、折り曲げた細い足が小十郎の肩を蹴る。それらを抑え付けて手を動かし、腰を進めて行った。
「い、やぁ…っ」
己の胸の下でねじくれた少年の体が震える。
胸が、その声に様に締め上げられ苦しい。狭い最奥が拒絶するかのように引き締められ持って行かれそうになる。それを繰り返し繰り返し揺さぶって、扱いて、苦しみの中に息を殺して潜む彼の為だけの快楽を呼び起こそうとする。
「…や、ぁ…だ、も、う…あぁ…っ」
「政宗様…」
「あ、は…ぁ…っ!いっ…」
鳴いて、自分が今何処にいて、何をしているかを忘れる程に取り乱した主人の名を呼ぶ。
「い、や…も、―――!」
「…政宗様…っ」
虚ろな目が自分の名を呼ぶ男の顔を捉える。
「あ、…こじゅ……」
「政宗様、」
幼な子のように泣いて取り縋る体を片手で抱き締めた。
やはりしてはならぬ行為だったのだ、と言う後悔がどっと押し寄せて来る。欲しい、と言う衝動は心臓の中で荒れ狂っている。乱れた息の中にもまだまだ足りぬと言う獣の餓えが。
だが、身を切り裂く程のこの想いをどうしたら良いのだ。
「俺の…中に、お前が入って、る…」
ずくん、と胸を突くのは痛みか、切なさか。
顔を見ようとして離した身を、首に縋る細い両手が掻き寄せていた。
「いいか…?」とその耳に掠れた声で問い掛けられた。
「俺の体の中は、いいか…?」
「―――っ!」
離せない、と思った。
このひと時を決して苦痛のままに終わらせる訳には行かなかった。男の快楽の在り処を分かっていて、小十郎の意志を灼き切る程のそれを与える事が出来る理由を知っていて、尚かつその事を慮るような…そのような。
「…苦界の涯てに、極楽は…ございます…」
小十郎の言に、苦しみながらも政宗は細く嗤った。
「―――苦界は、もう良い…」
「政宗様、今暫くのご辛抱を…」
「……んっ…」
雄の半ばまで挿し入れた状態で、小十郎は少年の体を揺らし続けた。少年の雄心に与える刺激も忘れない。
ぎちぎちと軋むだけだった最奥が、ずるり、と動き出したのはどのくらい経ってからの事だろうか。前から与えられる直裁的な刺激とは別の、体全部を大きくうねる津波の予感に、政宗は手足を細かく震わせた。
「…な、に……?」
小十郎は恐る恐る腰を進ませた。
「…は、あぁ、あ…っ!」
切羽詰まった嬌声が少年の喉から溢れ出た。だが、それまでの苦痛に苛まれるばかりのものとは違った。
「…あ、こ、じゅろ…っ、体、がヘン、だ…っ!!」
味わった事のない感覚にその左目が見開かれる。
「な、に…?…あ、…や…、や…っ」
「そのまま」と小十郎は言った。
少し進ませ、ぎりぎりまで退く。そうしてからずるり、と奥まで突き入れた。
「…う、あ…っ!!」
明らかに官能の波が少年を襲っている。
「政宗様…」
「続け、ろ…」
艶かしくもそう言う愛しい人に口付けた。
そのまま、腰を大きく回した。
「…ん、ぅ…!」
官能を敏感に拾うようになった少年は、唇を塞がれたままで体を捩らせ苦しい息を男の口の中に吐き出した。
締め上げる狭い器官を押し広げるようにして何度も掻き混ぜた。少年は激しく首を振り、訳の分からぬ者のように悲鳴を上げた。
それから深く突き上げ、大きく抉る。
「こじゅ…!は、あ…あぁっ、あ、ん…っ!」
もう苦痛とは切り離された甘い声だけが少年の喉を震わせる。
覚束ない手が男の背を滑り、首筋の髪を鷲掴んだ。
「こ、じゅろ…っ、もっと…っ!」
もっと貫いて。
その言葉に急かされるまでもなく、男は猛るものを何度も少年の体に叩き付けた。

刻を忘れて交じり合った。
絶え間なく上がる声は痛ましくも徐々に掠れて行き、ただ呻き声の一つとなった。それでもまだ、まだ足りぬと貪った。
少年は細っこい体で良く付いて来た。必死に縋り付いて来た。
それももう限界で、日が傾く頃には終に意識を手放した。
男は、広げた衣装と己自身の着物の上に身を起こして傍らに眠るしどけない主人の寝顔を眺めた。
白いドーランは剥げ落ちていた。
その殆どは小十郎が舐め取っていた。後はしとどに滴る汗に流れ落ちた。
体を冷やしてはならないと、衣装の縫箔をその素肌に掛けてやった。
もう引き返せぬ、と思った。
そこには先程のような後悔はない。悔恨に打ち拉がれているような暇はない。
彼の想いから、又自分の想いから眼を反らす事はもう出来ない。
そこには一抹の不安と共に歓びがあった。

小十郎は眠る愛しい人の側でほんの少し、声を殺して

泣いた。


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