試合の入れ換わりの最中に小十郎は席を立ってトイレに行った。ついでに何処かでドリンクが手に入らないか見て回るつもりだった。
そこへ、後からラサがやって来た。小十郎の顔を見るとにっこり笑って、かと思うといきなり胸を突き飛ばされた。たたらを踏んだ背中がトイレの個室のドアをぶち開け、それを追ってラサがドアに鍵を閉める。
「Do you do a very rough thing?(ずいぶん手荒な真似してくれるじゃねえか)」
「There don't be very the chance that can be just two of us.(2人きりになれるチャンスがなかなかなくてね)」再びにっこりと微笑んだラサが、その笑顔に似合わない薄暗い台詞を吐く。
「Is it your true character?(それが手前の本性か?)」
「You pretend ignorance in what? Is it you to have bought me?(何とぼけてんのさ、僕を買ったのはあんただろ?)」
「As for joking randomly….(ふざけんのもいい加減に)」
トイレの便器に小十郎を押し倒して、青年はその片膝の上に跨がった。そうして片手でスラックスの上から小十郎の股間のものに手を伸ばす。
「Even frustration is written in the face….(欲しいって顔に書いてある)」
そう嘯いてクスクス笑うオリエンタルな美貌は、正しく男娼のそれだった。
「Stop it….(やめろ)」
「Really?」
わざと驚いた顔をして、ラサは形を取りつつある男のそれを布地の上から強く掴んだ。
「Do you think really so?」
「………っ」
妹のカロンは知っているのか?知ったらどんなに衝撃を受けるか考えた事はあるのか。例え妹の為だと言っても、実の兄が体を売って金を稼いでいるなどと。
「You are stupid….(バカだね)」小十郎のそんな考えは見透かしている、と言うように青年はアルカイック・スマイルを浮かべる。
「A man is no use even if he promises virtue to anyone if he doesn't handle it.(誰かに貞操を誓っていても男は処理しなきゃダメなんだよ)」
個室の外に誰かがやって来て、ラサは口を噤んだ。
そして、小十郎の体に跨がったまま上体を倒して唇をその耳元に寄せる。
「I do the help(僕はその手伝いをするだけ)」
声もなく囁かれた言葉。
下半身で蠢き続ける青年の細い指先―――。
思い出されるのは今日、ローションを塗ってやった時の政宗の肌、その感触だ。呼吸する度に浮かび上がる肋骨の影や、苦しげに呻く横顔と強張る躯に。
そんな事が過去数え切れない程あって、この先も又数え切れないくらいあるだろう。それでも己の劣情を隠して来たのは。
―――恐ろしい…。
「All right」人の気配が消えて、ラサは呟いた。
「Because this is work. you don't need to feel a sense of guilt.(これは仕事なんだ。だから、あんたが罪悪感を感じる事はない)」
は、と小十郎は声もなく笑った。
「…You are good at saying.(上手い事言いやがる)」
男の様子が変わったのをラサは見入った瞳の中に見た。完全武装を終えた拳闘士の血の匂い、あるいは落ち行く日の最後の赤光。そして男はラサの髪を掴んで、引き寄せた耳元に息と共に吹き込んだ。
「Try it…. If it's a poor hand, I don't pay the money.(やってみろ、ヘタクソだったら金は払わねえ)」
刹那、気勢を削がれた青年はそれでもプロと言うべきか、例のにっこり笑顔で応えた。
「All right.」 [*前へ][次へ#][戻る]