[携帯モード] [URL送信]

―記念文倉庫―
7●(政宗×愛姫)
聚楽第の伊達屋敷は本丸から1ブロック以上離れた所にあったが、その造りは東北の田舎領主らを嘲笑うように雅にして豪華、その一言に尽きた。
白州の庭石に枯山水の趣、苔むした庭石とこんもり茂った躑躅の繁み。上から差し掛かる紅葉の傘が幾重も連なって御殿の周囲を囲っている。
居室の中は、広々とした居間が続く所に青々とした畳と御簾が鮮やかで、それに掛かる朱紐は艶やか。欄間には花鳥風月の透かし彫り。一間を区切る襖には、梅に流水、杜若の瑞々しい群生、鶴と老桜や、金雲と漆黒の山々など、目も眩むような狩野流派の絢爛豪華と言うに尽きる襖絵の数々だ。
政宗にとってみれば、徒っぽく、何処か爛れたいやらしさを感じさせるものでしかなかったが。
そんな一室で政宗は愛姫に会う事が出来た。
米沢や黒川の城とは違って豊臣側の人間が気を効かせたのか、多くの侍女を侍らせ、屋敷の庭には多くの衛士が篝火を頼りに警邏に回る。そんな中での事だ。
広い広い愛姫の居間は、夜でも何処にも影が落ちぬようにと華麗な形をした行灯がたくさん灯されている。
厚畳に茵と言う、平安の姫君のような座に腰を下ろした愛姫の隣に、さり気なく政宗は1つの座を分け合って座った。すぐ側に空いた厚畳があったがそれは無視した。
「…苦労をかける」と彼女の手を自分の膝に引き寄せながら、政宗は言った。
「何をおっしゃいますか…。政宗様こそお元気そうで、安心致しました」
周りに他人の目があるからか、2人は何処となく他人行儀だった。だから、すぐ沈黙が落ちる。
政宗は取った愛姫の白い手を見下ろして、それを握り締め愛撫するだけだ。
愛姫の方はと言えば、そんな良人の伏せた面を凝っと見つめていて、そして切なそうに微笑んだ。
「お痩せになりました?」
問う声は囁きだ。
政宗は俯いたまま子供のように首を振った。
「済まねえ…俺が情けないばっかりに」
「まあ、まあ、…何時からそんなに泣き虫におなりですの、政宗様」
「―――…からかうんじゃねえよ」
「でも、あなたに嫁いでからこんなに長く離れたのは初めてですね…」
「不便はないか、愛?」
「……煙管」
「………」
2人は顔を見合わせた。
愛用の煙管は置いて来てしまった。
京女に煙管を吸う習慣はない。ましてや、囚われの身でそんな贅沢品を消耗するなど許されなかった。
けれど、顔を見合わせた2人はどちらからともなくクスクス笑いを零した。
「今度、贈ってやる」
「じゃあ、皆を人払いして、こっそり…」
クスクス、クスクス、
仲睦まじいばかりのその有様。
顔を寄せ合って小声で語らい、大名クラスの武将が子供みたいに他愛もない事で笑い合う。人質に取られたとは思えない穏やかな時だ。
傍らに無言で侍る侍女も、無表情でありながら心の中ではほっこりとした気分になれただろう。
親密さは、やがて色を帯びる。
求めるのは何時も政宗の方だ。愛姫は周囲を気にして身を引こうとする。
「政宗様…」
「良いだろ…どうせ気ィ効かせてくれる」
背けた頬に寄せられる唇。
懐かしい香が香った。
「褥はねえのか?京の人間は野暮じゃねえか」
じろり、と見やられても眉を削った京女たちは能面のような白粉の表情を崩しもしない、その面の皮の厚さよ。だが、彼女らは一礼すると、するすると衣擦れの音を立てつつ退いて行った。
「几帳を隔てた隣の間に下がっただけですわ」
「それでも、あの生っ白い顔が見えなくなって清々したぜ」
「大谷に繋がる者たちです、油断なりません…」
「色気のねえ話はなしだ」
そうして、大胆にも愛姫の体を抱き寄せ、唇を合わせる。
2年もの空白を埋めるように、始めから激しく求め合った。
幼い頃から良く知った互いの体、互いの唇、そして癖。―――口付けしながら手を繋ぎ、その指先で相手の手の甲の感触を確かめ合う。
そして、何時もは愛姫が政宗の袴の腰紐に手を伸ばすのだ。
だが、この夜は違った。
愛姫の手を握っていた筈の政宗の手が滑り、崩された女の膝の上を滑る。少し乱暴なくらいの手付きで合わされた小袖の裾を割って―――愛姫は思わず良人の胸を押し退けようとした。
「……政宗様っ」
「久々なんだ、出来るかも知れねえだろ?」
「けれど…」
「ホラ、力抜け」
惑う愛姫に対して、政宗は優しくとも退くつもりはないようだ。
男らしい力強さで押し退けようとする彼女の手を取ってしまい、背を支えつつ横たえる。
この煌々と明かりの灯った中で、広々とはしているが華美に過ぎて冷たさすら感じる上品な一間で。
女として、好いた男に求められて嬉しくない筈がない。
けれどこの時、愛姫には戸惑いばかりが押し寄せた。いや、戸惑いではない。それは言うなれば違和感。
愛姫の身体が反応しない事はずっと前から知っていた。それでも政宗が、2年振りの逢瀬で抱き締めた妻の身体に欲情するのも、分からなくもない。
それが普通の男の反応だろう。
あるいは、他の男だったら子を孕めぬ女などとうに離縁して新しい正室を迎えている所だ。
けれど、打掛を乱して行く政宗の手が荒々しく、その上、布を通して感じられるものが熱くて惑う―――。
自分は"おぼこ"のように男の欲情の前に怯えているのだろうか。
それとも、応える事が出来ない自分の身体を恐れているのだろうか。
帯が解かれ、小袖が乱される。
厚畳の上に広げられた打掛の内側は緋色の海だ。その中に横たえられた愛姫の瑞々しい身体が、隠された果実のように広げられて行って。
彼女の素肌を弄りながら政宗は、その唇をも貪った。その紅を舐め取るように、塗り付けるように。
それまでになかったような熱に愛姫の両手が良人の背を抱き寄せた。
押し付けられた下半身の間を縫って、男の手は滑り落ちる。その一方で揺れる乳房を掌で下から掬い上げるようにして覆って、指先で小さな蕾を摘んだ。
「…ん…ぅ…」
艶めいた小さな喘ぎは政宗の胸を逸らせる。
こうしていれば普通の女なら陰唇からとろとろと甘い蜜を滴らせる。愛しい男を受け入れる為に、入れて欲しいと懇願するかのように。
しかし、その舟形の縁を滑る政宗の指先は、何時まで経っても濡らされる事はなかった。
「…政宗様…政宗様―――…」
もういい、もういいのだ。自分にはできない。
こんなに愛しているのに、触れられれば身体を重ねれば熱いものをその胸の奥に感じるのに、濡れる事はない。
「側室をお迎え下さい…私は平気ですから。気に入った者がいれば、その養子を―――」
「そんな事言うもんじゃねえ、愛」
愛姫の血の気の失せた面を、政宗は自分が痛みを感じているかのような表情で撫でた。
愛したい、感じさせてやりたい、と思うのは男として当然だろう。身体の他の部分に弱い所や悪い所がないだけに。そして美しい眼差しと、滑らかで伸びやかな四肢を持っているにも関わらず、女の悦びを知る事が出来ないなどと。
「ちょっと待ってろよ…良いもん持って来たんだ」
そう言って、政宗は自分の懐からごそごそと何やら取り出した。
薬袋のようだ。それの中身を自らの口に含み、口の中でもごもごさせる。
「何ですの?」と問いたい所だが、これでは応えられない。
互いに中途半端な熱を放ったらかしにして、横たわったまま暫し。やがて政宗は口の中からとろりとして半透明のものを指の上に吐き出した。
訝しげに見守る愛姫の前で手を下へと持って行く。
そうしてそれを陰唇に塗り付けられて、深窓の姫君である愛姫にもその用途が分かったようだ。反射的に足を閉じようとした所を抑えて政宗の手指は蠢き続ける。
入り口の周辺、淫らな唇と芽。
再び吐き出されたそれは、中にまで擦り込むようにして浸されて。何か粗相をしてしまったかのような感覚に愛姫は身を強張らせていた。
その彼女のまろい乳房に残りの粘液を吐き出してしまってから、政宗は色欲に塗れた独眼で凝、と女を見つめた。
「濡れただろ?」
「…何ですの…これ…」
不快感を隠して何とか尋ね返せば、良人はしれとして言うのだ。
「小姓が自分の身体を使う時に塗り込むもんだ。あいつらも自然にゃ濡れねえから」
その一言が齎した衝撃は計り知れない。
愛姫には分かってしまったのだ。
彼の小姓が身体まで政宗のものになった事を。
他の者には感じなかった赤黒い感情が胸の裡を埋め尽くしてしまうのを愛姫は感じた。
どうしてだろう、どうして。
昔から彼の周りに侍っていた小姓たちは当然、政宗が年若いため賦役のような勤めを果たしていたぐらいだ。それも賦役は綱元と言う正式な者がいたから、従兄弟の成実と同じく子供の遊び相手が限度。
政宗が初陣を果たした15の年からは更に年若い小姓が付けられたが「愛のがいい」と言って憚らなかった。
それが「生き人形」をウキウキと連れて来て「可愛いだろ?」と言った時から心は穏やかではなくなった。
何事かあればあの小姓がしゃしゃり出て、鼻持ちならなかった。
ああ、ああ、憎い―――。
「…どうだ?行けそうか?」
けれど、そう言って顔を覗き込んで来る良人は、心から心配そうで。
ああ、私の良き人―――。
「して下さい…」と愛姫はその首に縋り付きながら囁いた。
「あなたをこの身に」
「…All right. 好くしてやるからな、愛」
良人は、それは幸せそうな笑顔を見せて己の帯を解いた。
素肌を重ね合わせて、柔らかな胸の肉を"ねりぎ"の滑りを借りていやらしくこね回す。そうしながら、女の足を割った政宗の下半身で既に堅くそそり立ったものが進み出て、"ねりぎ"で濡らされたそこへと埋められて行った。
愛姫は、痛みと、どうしようもない不快感とを堪えて、必死に彼を受け入れた。




[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!