[携帯モード] [URL送信]

―記念文倉庫―
5●(政宗×小十郎)
黒川城の本丸は幅広い堀に包まれている。
そこに出丸と言って、本丸の離れとも言うべき小島が突き出していて、走郭から中へ入れる。
出丸は本来、本丸御殿や天主閣を守る最後の砦となって、堀に押し寄せる敵方を見張り、鉄砲の弾を雨霰と撃ちかける兵どもの籠る長屋が建てられていた。
それが本丸の北と西とにある。
政宗は、その西の出丸に人目を避けて連れて行かれ、その小姓と、重臣の中でも気心の知れた者たちのみが詰めて様子を見ていた。
城下町から密かに典医を招き、鎮静・強壮剤として用いられる貴重な丸薬である六神丸と大麻とを処方させると、これを暴れる頭首に飲ませた。
強力な薬効は忽ち現れ、政宗は深い深い眠りに落ちた。
綱元や、城下の下屋敷から上がって来た成実、宗信などが、どうすると言って本丸御殿で頭を突き合わせている間、景綱は香炉から上がる甘い香りに包まれた政宗の寝所にやって来た。
愛姫を失ったのは、身内を憎み、彼らを死に追いやった己が罪の代償だと、そう感じているのだろうか。
それとも本当に政宗は謀って己が父親を、重臣の中の重臣の2人を、その手で殺したのか―――。
真相は分からない。
分かっているのはただ、愛姫を、己の半身を失った政宗が今正に壊れて行こうとしている、と言う事だけだった。
では、自分に何が出来るのだろうか。
景綱は、ここに来る前に住む主人のいなくなった愛姫の居間へ行って、行李などを探していた。
見つけたのは愛姫が置いて行った打掛だ。
紫の花菱紋の上に桔梗をあしらわれたそれは、何時だったか夜の観能の際に彼女が身に付けていたものだ。
もともと自身の持ち物は少ないと言っていた。
京の都へ出立して行くのに、殆ど自分のものは持って行かなかったのではないだろうか。お気に入りの煙管ですら書院棚の中から見つけてしまった。
景綱は、その打掛と煙管を胸にぎゅっと抱き締めて、襲い来る哀しさに耐えた。
そして今、愛姫の打掛を纏い、若衆結いに結い上げた髪を下ろした有様で政宗の枕元に腰を下ろす。
相変わらず横座りは下手で、仕方なく立て膝になって煙管に煙草の葉を詰めた。
これを、長屋の中に屏風を開いて隔てられた所で見ていた他の小姓たちが気付き、誰からともなく西の出丸を出て行った。
夜が明け始めた浅葱色の空に、初夏の清々しい白雲がひと筋ふた筋、流れていた。
この寂寞とした眺めを小姓頭取も、先輩小姓も何と喩えて良いのか、分からなかった。



カツン、

煙草盆の端を叩く堅い音に、政宗は薄っら目を開いた。
だが瞼は重く、体はそれより更に気怠かった。再び目を閉ざす前に見た素っ気ない天井は、己の寝所のものではなかった。
記憶は曖昧だが長い長い悪夢を見ていた気がする。
悪い夢だ。夢見が悪い時は"方違えの法"を踏むと古い都のしきたりにあったようだが、その為に自分はこんな所に寝かされているのだろうか。
不意に持ち上げた右手が顔を覆った時、眼帯がなくなっているのに気付いた。どう言う事だ、と見やった手に、名残を見せる細い静電気。
ピリピリピリ、
それが、手の甲、手の平と、戯れるようにして走って、消えた。
―――どうやら自分はまたしても暴走してしまったらしい…。
そう思い当たる。
その時、ふう、と言う長い吐息が耳について目をやれば、政宗の左側の枕元に、髪を下ろして見覚えのある打掛を羽織った景綱の姿があった。ご丁寧に吸えもしない煙管を手に、慣れない立て膝で、懸命に彼の女になりきろうとしていて。
「……愛…」と呼んでやった。
そうすれば、決死の覚悟を胸に刻み込んでいるらしい少年が、黒目がちの瞳でひた、と見つめ返して来た。
「愛」
今度こそはっきり名を呼び、それに向かって両手を広げてやれば、煙管を放り出してこの胸にしがみついて来る。
はたちを2つ越した女の身体と13やそこらの少年とでは、その重さも手応えもまるで違う。そんな事にすら気付かない程に政宗が我を失っているとでも思っているのか。それとも、気付いていても、敢えてこの遊戯をひとときの慰めとして受け取れと言うのか。
景綱のひたむきな思いが嬉しくて、政宗は後者と取る事にした。
朝の光が高い所にある格子窓から差し込む中で、2人は抱き合いながら温かな褥にごろんと横たわった。
柔らかな緑の黒髪と、懐かしい愛姫の匂いがする打掛の間に鼻先を埋めて大きく息を吸い込む。
その日、薫き染める香が2人の間で同じものかそうでないかを数えた時期があった。ひと月の間に凡そ25日もの間、彼らは相手と同じ香を選んでいたものだ。
その中でも彼女が好んで使っていた白檀の潔い、香り。
愛姫らしい凛とした香りだった。
大人しく政宗の腕の中に抱かれているだけと思った景綱が、何やらもぞもぞと身じろぎした。打掛の下は平時の小袖袴と言った有様だったが、自らそれを解いている。
いじらしい、と思った。
打掛の中で半裸となった景綱は政宗の下肢に触れて来た。
寝間着である一重の内着は裾を割ればすぐ素肌に至る。そこへ掌を這わせて、下帯に納められた雄を手探りで探し出した。
そこから施されるのは政宗の手管の見よう見真似で、とても拙く、時折痛みすら感じさせた。それを政宗は黙って受けた。自分の左手に気を取られ、主と言う人に見つめられているのも気付かず、何とか主の一物を昂らせようと必死になっている少年の顔を眺めつつ。
そうしては俯いた耳元に唇を寄せて、言う。
「もっと揺さぶって…時たま強く揉んで…」
下帯の中に忍び込んだ手は、戸惑いながらも不器用にも、言われた通りの動きを見せる。
それに気を良くした政宗は、自ら帯を解き、下帯も器用に取り去った。そして少年の手の上から自分の掌を重ねて、まるで小さな掌そのものを愛撫するように細かく扱き上げる。
忽ち兆して来る2人の手の中のそれと、呼吸。
熱くなる体とは裏腹に、外からは雀たちの暢気な歌声が零れ落ちて来たが、2人は気にならない。
昂り、滾るものを更に煽り立てて、悲しみの連鎖から今この時だけは切り離されようとして没頭する。
すっかり立ち上がり、先走りに濡れそぼったそれから少年の手がするりと抜き取られた。
心地良さに微睡んでいた政宗はうっとりと閉じていた左目を見開き、乱れた髪をうるさ気に払った少年を顧みた。
それが、そろそろと身を起こす。
「Hey, ここまでやっといて…おあずけか?」
揶揄ってやれば不貞腐れたように唇を尖らせるものだと思っていたが、違った。
体を横向きに立てていたのをやんわりと仰向けに倒される。肌けた内着の間から、臍に届きそうな程反り返ったものが空中に晒されて、ふるり、と体が震えた。
景綱はほんの僅かそれを見つめていたが、やがてゆっくりと政宗の身体の上に乗り上がって来た。
袴は脱ぎ捨てられ、今はただ、小袖と打掛だけに袖を通していて、その裾が下腹部をくすぐる感覚に腰が震えた。
そのまま少年が腰を浮かせば、小さな雄もピンク色に色付いて立ち上がっており、その内股が何やらぬらぬらとてらついていて。
「……おま…え…」
言葉は、言葉にならなかった。
景綱は、張り詰めて湾曲した形で震える政宗の一物をそっと持ち上げるなり、自分の後孔に宛てがったのだ。
そこは予め濡らされていて、自分の指で解したのか、ゆるゆると熱を帯びている。
その眩暈がするような淫らな光景が堪らなかった。
政宗は腹筋だけで上身を跳ね起こし、思わず逃げようとした少年の体をがっしりと掴まえた。
「…良いのか…?本当に良いのか?」
抱き締めながら荒い息の中で問いを重ねれば、長い髪を揺らしてこくり、と頷く。
愛姫の衣裳を纏っただけでなく、その身体も愛姫の代わりになろうと言うのか。
腰を抱き寄せる事で、2人の腹の間で押し潰された少年の小振りな雄芯が、健気に揺れる。
景綱の折れそうに細い腰から滑らせた手で、ぷりぷりとして張りのある双丘を鷲掴んだ。それだけでそこがくちゅり、と言う可愛らしい音を立ててしまったものだから、景綱は政宗の肩に顔を伏せ、羞恥に耐えた。
本当に大丈夫なのかが不安になる。少年の体を切り裂いてしまう事は避けたかった。政宗は左手で押し広げたそこに指先を潜り込ませた。
少年の背が強張る。
思ったよりも柔らかく、そして想像以上に温かかった。
指を二本、三本、と増やして行く。
「…んっ、は、…あっ…」
途中から途切れがちの声が上がった。
欲しがっている、と分かったから、歯止めが利かなくなった。
抜き去った指をそのまま捲れた肉襞に引っ掻け、少年に腰を下ろさせた。
同時に、自分の腰を突き上げる。

ビリリ、

意図せず、2人の体から稲光が飛び出した。
「…う、くぅ…っ」
「あ…っ、あぅ、あ…!」
ガクガクと2つの体を震わせ、白い蛇のような雷電が這い回った。
何が起こったのか分からぬまま景綱の小さな雄は耐え切れず、早々に白濁を吐き零してしまった。
それとは逆に政宗の一物は痛いくらいに張り詰め、それを食いちぎらんとするぐらいの勢いで肉襞が締め上げて来る。
瞼の内も外にも、真っ白な火花が散った。
政宗は顔を紅潮させて解放の瞬間を耐え忍んでいた。
一方、景綱は体の中を這い回るビリビリとした感触にじっとしていられず、体をくねらせ、捩り、それから何とか逃げ出そうとしていた。
滅茶苦茶に動かれた政宗は堪らない。
動きを押さえ付けようと少年の腰を掴むが、まるでそうされる事に反発するようにスパークが飛び散る。
それをしも、景綱を堪え難くさせて、鞭打たれた馬車馬のように体を揺らし腰を上下させた。
奔り出した稲妻の火車が2人を掻き立てる。




[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!