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―記念文倉庫―
2●(政宗×小十郎)
「貴方は、誰よりも愛されている方だ…それに気付けないで相手の真意を疑うなんて…っ!」
この時、景綱の中には遠藤の遺言となった誅殺云々など欠片とてなく、ただ情けなくて情けなくて仕方なかったのだ。
伊達の頭首があんな事を言い出したのも辛い、信じてもらえていない愛姫を思えばかなしい、そして自分はと言えば―――。
自分は?
訳の分からない感情の昂りが襲って、政宗を強く睨みつけていた両目からポロポロと冷たいものが滴った。それは着物の袖で拭っても拭っても次から次へと溢れ出て来て、更に訳が分からなくなった。
「…Hey, good boy…, sorry. 悪かった…」
優しい声と、刀を置いてしまった両手が少年の体を抱き寄せて来る。
こっちはまだ匕首を持ってるんだぞ、と脅してやっても良かったのだが、しゃくり上げる息が邪魔して何も言えなかった。
「OK…, Stay cool. 小十郎…落ち着け、俺が悪かった…」
11にもなって、赤ん坊をあやすように言われて、余計に腹が立って来るじゃないか。腹が立つともっともっと涙が溢れて来て。
ふと政宗は、胸に抱きかかえていた少年の顔を覗き込むと、唇を寄せて来た。そうしては、涙でぐしゃぐしゃになった目元に、頬に、ちゅっちゅと吸い付く。そんな事じゃ止まらない涙の雨を、更には大きな舌でべろん、と舐め取ってしまう事までして。
泣いているのか笑っているのか、良く分からない状況になった。
主と言う人が犬みたいにぺろぺろ頬を舐るのがくすぐったい。
じゃれ合う兄弟犬のように揉み合った。揉み合っている内にごろんと2人揃って横に転げてしまい、その時になって初めて景綱は、袴の帯が解かれているのに気付いた。
「ま…っ!」
叫び声を上げそうになった所を小袖も袴も一気に肌けられてしまう。そうすると、内着と下帯一枚だけと言う、如何にも情けない姿になる。
―――今までは、寸暇を盗み取るような行為で殆ど服を乱さないまま下半身を弄られるだけだったから、これは相当景綱を慌てさせた。
その内着も乱されてほぼ全裸と言う所で、涙を舐め取っていた政宗の唇が下へ下へと移動して行く。
首筋、鎖骨、胸元、とぬるついた感触のものが這いずり回って恐怖で何も言えない。懇願の声1つ上げられなかった。
そしてそれが敏感な胸の尖りに絡み付いた時には、詰めていた息が高い悲鳴となって解き放たれた。
「…やっ…!や…めて、下さいっ!…お止め下さ…い、政宗様…っ!」
堰を切ったように泣き声が溢れ出て来た。
一時は納まったと思った涙も、ぼろぼろ、ぼろぼろ、溢れる。
「Good boy…, 小十郎、大丈夫だ。怖くなんかない…」
「…政宗様…どうか…っ」
「―――…」
言葉を切った政宗が何をしたのか。
ジタバタ暴れる子供の体に乗り上がっていた上身をぐっと下げて、力なく萎垂れていた小さなそれを、根本まで咥え込んでいた。
「あっ」と声を上げた時には、たっぷりと湿らせた口の中で蠢く舌に舐られて、しゃぶられて、忽ち熱を昂らされてしまう。
「あ…あ、あ、ぁ…っ」
バカみたいに「あ」しか口から出なくなった。
すっかり立ち上がっても青年の口の中で奥までは届かないそれを、大きく広げた舌と口蓋とで包み込まれる。それは掌で与えられていたものとは別種の、異様な感覚を植え付けて、混乱と強烈な快楽の最中に景綱を叩き落とした。
与えられるものから逃げようと身をもがいていた。
いや、逃げようとしているつもりだった。
畳に爪を立て、蹴る足に力を込めて。
しかし、少年の細腰を抱え込み、体重を掛けてのしかかって来る政宗の口腔の奥に己が一物を突き上げるように腰を蠢かしているのに、景綱自身は気付いていなかった。
それが強く吸い上げられ、窄めた唇で幾度か扱かれると、たったそれだけで小さな欲は爆ぜてしまった。
噴出したものを啜り上げる政宗の唇に、更に押し付けるように腰を上げていたのにも気付かない。
白濁の糸を引いて政宗が顔を上げた。
景綱はとっさに両手で顔を覆った。
嗚咽を噛み殺して泣く子供の体の上に乗り上がりながら、政宗はその腕を取った。
景綱はその手を振り払った。
それでも再び、そっと少年の腕を掴んで引き寄せる。
「小十郎…」
そうして、掠れた声で呼び掛ける声だ。
恐る恐る目を上げると、上から覗き込んで来る彼の人の左の瞳がキラリ、と輝いた。
闇に慣れた目にはそのかんばせは、その姿は、月光の蒼に染め上げられていて、月から地に堕ちて来たと言うなよ竹の輝夜のようだと思った。
「なあ…お前は、こんな俺でも愛してくれるのか…?」
と、そう、その唇がかそけき言葉を紡ぐ。
「こんな愚か者で、暴君なんて陰口叩かれてる俺を―――」
そうして落ちて来る柔らかな表情と、その衣に薫き染められた涼やかな香り。
耳朶に唇が触れる程そばで囁かれた。
「…愛してくれるか?」
何故か、溜め息が漏れた。
胸を塞がれる苦しみに何度も溜め息は溢れた。
ふとした拍子、下に導かれた手が熱いものに触れて、びくりと肩が跳ね上がった。
構わず、政宗自身の手によって絡められたものは熱く脈打っていて、そして景綱が息を呑む程大きくて。
政宗に手を添えられながら戸惑う少年の手がそれを上下に扱いた。
景綱の耳元に埋められたままだった主の唇から漏れる息も、熱い。
そのまま、幾度か扱いている内に、先端から滲み出した先走りの液が少年の掌とそのものを濡らし、動きをスムーズにさせた。
ゆっくりと、少年を怯えさせないよう、ゆっくりと始まったそれは、確実に奔り出していた。水音を立ててその単調な動きが早まって行けば逸る吐息は荒くなり、景綱の頭を抱き込んだ掌も、景綱の手に添えられたそれも震えて、節くれ立つ程に力が籠った。
けれど、岩を砕くような強力にはならずに、
「ああ―――…」
甘い声が上がって、彼の人が顔を仰け反らせた。
その肩口に頬を押し付けられながら景綱は、彼の横顔を顧みた。
外からの月光にシルエットになったそれは鋭利に研ぎ澄まされて鋭く、それでいて描く曲線は官能的だった。
ぐ、とその手に力を入れれば、空気を喘いだ唇が一際大きく開けられて横目で睨まれてしまった。
いや、睨んでいるのではない。
乱れた息を繰り返す口の端が微かに吊り上がっている。
「いい…もっと―――」
と、その口が囁いた。

ビリリ、

かつて、政宗のイカヅチで打たれたように全身を何かが駆け巡った。
彼の横顔を間近に見つめながら必死に手を動かした。
拙くて、単調な動きだったが、棹の部分は景綱に任せて、政宗は括れから上を自ら掻き乱して行った。
「…ぁ、う…んっ…」
乱れる姿が美しかった。
賤しい行為をしているなどとは夢にも思わなかった。
彼が果てるまで巧く追い上げられるかがちょっと気掛かりだったが、震える唇が甘い声を吐き零すのから、目を離せなくなった。
細い顎先から滴る雫が一瞬、空中に静止したようにすら、見えた。
どのくらいそうしていたのか時間の感覚はなくなっていたが、やがて、政宗は切羽詰まった声を少年の肩に咬み付く事で殺して、果てた。
その時、
二度も達せる程発育している訳ではない自分の身体が空達きしたのに、景綱は薄ぼんやり気付いていた。

米沢の夏が美しいのは、緑に萌える山々が靄に霞み雲片を纏い付かせているからではなかった。
見渡す限り広がる青田に風が渡り、稲穂の間で水面がキラキラと輝き、生き物の体毛のようにその表面がたなびくからでもない。鮮烈な夕焼けに沈んで行こうとしている閑静な林の中で、幻みたいに蜩が鳴き、子供たちが童謡を歌いながら帰って行く影が長く長く伸びるからでもない―――。
城中の郭の端々に篝火が灯され、役人たちが退いた後も頭首と重臣らの間では軍議が開かれた。
田村領を巡っての先の佐竹・蘆名などとの関係に、緊張状態が続いていた。郡山・窪田の城に陣取っての戦は互いに不完全燃焼に終わったのだ。このまま事を納めるつもりは、両者の中にはなかった。
景綱はその軍議の場に政宗の愛刀の一本を捧げ持った、お刀持ちの役目でもって静かに控えていた。
他の小姓らは、用意されていた地図や、各地から寄せられた報告書の上げ下げに慌ただしく動いた。
今は蘆名の領地、会津辺りの地図を広げて政宗を囲み、従兄弟の成実、留守氏の養子政景、鬼庭綱元、遠藤基信の息子宗信など、若い顔ぶれが雁首を並べて地図を睨んでいた。
家督を継いだ直後は前代から仕える老身が並みいた筈が、打ち続く戦の最中で幾つも消えて行った。
政宗は、それまで奥羽付近の主立った有力者間に築かれた力関係を崩すと共に、家臣らの新陳代謝も進めていた。若い政宗には「御家」と「家中」にみっしりと詰まったしがらみが邪魔だったのだろう。
その政宗は地図を眺める素振りで、手中のものを人知れず膝の上で転がしながら退屈そうだ。突破口が見つからないのに頭を悩ませても仕方ない、と言うように。
季節は少し過ぎていたが、政宗の手にあるのはほおずきの赤い実だった。
それがくるくると器用に長い指の間で転がされて、時折その身の中の解れを確かめるようにやわやわと揉まれる。
景綱は、彼の少し斜め後ろからその手付きを何となく眺めていた。特に苛立ちのない仕草だから緊張は感じない。
それよりも、澄ました顔で姿勢を正し、袱紗で包んだ刀の柄を掴んでいた景綱の頭の中に思い浮かんでいたのは、生々しい記憶だ。
明るい奥の間で政宗によって下半身だけを剥き出しにされた状態で、彼の膝の上に座らされる。時には向かい合って、殆どは背後から腰を抱き寄せられて。そうしては、卑猥な言葉を耳元で囁かれるのと同時に、柔らかい局所を弄られた。
始めは力なく"てれんと”していたものを、くにくにと踊らされたり、引っ張られたり、爪弾かれたり。やがて堅くそそり立てば、あの長い指を絡めてリズミカルに扱き上げられるのだ。
ほおずきの実を玩ぶ手付きにそうした事共が思い出され、つい思わずもじもじと身じろぎしてしまった。
ふと、それに気付いた政宗が振り返り、その独眼と目が合った。
慌てて姿勢を正し眼を反らしたものだから、その時、政宗が薄く笑ったのには気付かなかった。
「All right. 各所に忍ばせてる連中からの新たな報告を待とうじゃねえか。こっちからの文に返答して来てねえ奴らもいるんだろ?果報は寝て待て、って事だ」
「そうですな…今の所、軍を進める足がかりもない訳ですし、睨み合いは暫く続くでしょう」
そう言いつつ頷いたのは綱元だ。
姻戚関係が複雑に絡み合って、利益や保身などと言った分かりやすい動機だけでは各氏族は動かない。愛憎と義理と人情―――最も厄介な代物だった。
「せいぜい兵どもを鍛え上げてやんな」と政宗が軽く言い放てば、
「あ、じゃあ政宗。今度、俺ンとこの子弟連れてくっから、1つ喝入れてくれよ」と成実も軽く乗って来る。
「いいぜ、首洗って来いって言っとけ」
言い放ち、軽く笑い声を立てながら政宗は立ち上がった。

大広間から足早に出て行く政宗を、景綱は慌てて追った。
お刀持ちの自分が殿様に遅れを取るのでは意味がないし、恥になる。
この頃には小姓たちの間では、景綱が政宗のお気に入りと言う暗黙の了解が出来ていた。だからそのまま、政宗の寝所に引っ張り込まれるなり人払いもせずに、袴を引き摺り下ろされた。

この、何処か後ろめたく、それでいて鮮やかな情動が景綱の見るもの聞くこと全てを一変させていた。
それは美しくも切ない感傷に満ちていて、少年の心を満たした。
政宗にとっては愛姫を悦ばせてやれない代償行為だとしても、だ。
11と言う年齢では、行く先々を思い、この道に辿り着ける場所はないのだ、などとは思いも寄らない。
ただ、今、この瞬間が手の中に掴める愛おしいものの全てだった。




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