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―記念文倉庫―
10
おまけ

「…お前、慎吾。シュミ悪いぞ……」
床に這って双眼鏡を覗き込む古い友人にそう言われて、慎吾は不服そうに唇を尖らせた。
何処から持って来たのか知らないが、彼は脚立を部屋の中に運び込んで天井に特殊な聴診器を当てていた。
「だって、これって俺たちみたいな人間の特権だろ〜。何の為に日陰を歩いてんだかわかんないじゃんか」
勝手な理屈付けに、左月はこれ見よがしな溜め息を一つ。
「アホが」
吐き捨てられた罵声に耳も貸さず、慎吾は興味津々と言った体で聴診器に耳を押し当てる。
「へえ、すごいね男の嫉妬って。あのカタブツの片倉さんにあんな事、言わせるなんて…」
付き合ってられん、と思いつつ左月は向かいのアパートのカーテン越しの人影を追う。何だか自分の行為が今慎吾がしている事と大差ないような気がして来て、本当に気が滅入る。
「あっ!そこまで言っちゃって!!俺が後で筆頭に怒られるじゃんか!」
「慎吾!」
「………」
「…うわー、むしろ片倉さんに殺されるかも、俺…」
「一回、殺されて来い」
こんな奴と幼馴染みの上、同じ仕事をしている我が身を嘆かずにいられるか?左月はいっその事、慎吾と手を切ろうかと本気で考え始めた。
そこへ、
例のアパートに三つの人影が揃った。目的の人物が帰って来た証拠だ。
「慎吾、来たぞ」
緊迫した左月の声に我に帰ったらしい慎吾は、慌てて天井を拳で叩いた。

ある意味、周囲の人間に認知され祝福されている事だという証左だと思えば良いのか。
左月は戸惑いつつ、いつも通りにアパートへの侵入方法を指示する小十郎の横顔を盗み見ていた。


20100919 Special thanks!

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