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―記念文倉庫―
5●(※チカ×ダテ)
本当にのぼせて部屋に戻って来た時、元親はホテルの自販機で缶ビールを買って既に二本空けていた。
「お前もやるか?」
「いらね」
ふと見ると、スポーツドリンクのペットボトルもある。政宗はそれを無言で拝借した。傾けて一気に半分程を飲み干す。
「昼間っから雪景色眺めつつ一杯ってのもオツだねえ」
そんな年寄りめいた事を、ご満悦の様子で嘯く元親。
窓の外はホテル自慢の庭だ。日本庭園を模して作られた面白い様に白い雪化粧と言うのは、確かに見る分には人を楽しませてくれる。実のところ雪は、そこに住む人々にとっては凶器以外の何ものでもないのだが。
「元親、お前いつまで日本にいるんだ?」
当初から疑問に思っていた事を、ベッドヘッドに寄り掛かりながら政宗は尋ねた。アメリカ国籍を手に入れたのであれば、そしてその海軍に所属しているのなら、いずれ帰らなければならないのだろう。だが。
「明日の朝」
さらりと返された答に「え」と言って政宗は固まった。
全く、この男には色々驚かされてばかりだ。
「今日も実はオフじゃねえんだな、これが。俺の船がたまたま仙台港に寄って式典なんかがあったから抜け出して来た」
「おま…遠からず除隊されるぞ」
「俺、期待のホープだから平気平気」
三本目のビールをぐいと空けて、カランとそれをテーブルに置いた。
「んじゃあ、続きと参りますか」言って、政宗のベッドの傍らに元親は立った。
「酔っ払い」
「俺がビール三本で酔うかっての」
「んじゃ変態」
「憎まれ口叩いてねえで尻出せ尻!!」
ベッドの上に膝立ちになって浴衣の襟を掴んで来るのを、政宗はカッとなって振り払ってやった。
「ったく雰囲気も何もあったもんじゃねえな!」
「え、何お前ら、そんな甘い関係なの?!」
本気で驚く元親の台詞に、政宗は又しても耳まで真っ赤にして喚いた「だから何だよ、その甘い関係ってのは!」と。
「だって、しこしこ処理してお終まいなんじゃねえの?」言いながらも元親の無骨な手が浴衣の裾を割り入って「こことか」と掴んで来た。
慌てて彼の手を掴み取った政宗。が、元親は逆の手でだしぬけに政宗の浴衣の襟をはだけた。
「本当にやめろよ!!冗談じゃねえぞ!」
文句は最後まで言い終わらなかった。剥き出しの肩先に元親の顔が埋められて、素肌を強く吸われたからだ。
「んーだよ、もう反応してるじゃねえか」
「………っ!」
「片倉さんは甘い言葉でも囁いてくれんのか?」
じたばたと暴れる身体を押さえつけて、元親はその耳元に息を吹き込むように言ってやった。その反応が余りに露骨で、政宗の泣き所はここかとわかってしまう。
「あの重低音ボイスで睦言囁かれたら、そら腰に来るわな」
ギリギリと腕に爪を立てられた。子猫の引っ掻き傷だ、甘い勲章程度の意味しかない。揉み合っているうちにクッションを掻き退けて、くの字に横たわる政宗の上に馬乗りになる形になった。
「そんなに、片倉さんのは良かったか?」
「…もう、やめろよ!!!」
マジでヤバくなる、そう言う事を言外に含めて政宗は微かに叫んだ。それが存外、可愛らしくて元親はちょっと困った風に笑った。―――こりゃ、本気か…。
裾も胸元もはだけて、腰帯だけで纏わり付いているだけの浴衣はただの布切れでしかない。そこから覗いた肩も胸もすらりと伸びた足も非常に健康的で、それが薄っすらと紅潮する様は、得も言われず艶かしい。
ガスガスと乱暴に蹴り上げて来る足を片一方無造作に掴み上げてやった。腰が浮く形になって、元親はその腰帯を片手で乱暴に解いた。上身を起こそうとする所へ、足を肩に担いだままのしかかってやり完全に動きを封じた。
「途中でやめてやろうと思ってたんだけどな」
至近距離で顔を見合わせながら、元親は感情を抑えた声で囁いた「こんなんなっちまったら行くトコまで行くしかねえだろ?」と。
そうして、下着の上から既に立ち上がっていた政宗の雄芯を揉み上げてやる。
「素直に片倉さんに抱かれてりゃいいもんを…お前が悪い」
「んあっ!!」
抵抗を忘れて身体を震わせる政宗を、意外な気持ちで眺めやりながら元親は心中で軽い舌打ちをした。
―――計算外だったぜ…。
政宗が余りに感度が良いのは明らかに、片倉小十郎との関係を持ち出されたからだ。
人間は想像力の逞しい生き物だ。連想と言う形で身体は素直に反応する。それはいいとして、その様が何時もの悪友の意外な一面を見せて元親を戸惑わせた。
本気でこいつ色っぽい、と。
面倒臭え、とばかりに下着をもずり落として直に握り込んでやると、切羽詰まった顔が瞬時驚愕を刻む。
両手が塞がって無防備になった元親の顔面を政宗の拳が何度も殴ったが、痛かったのは最初の数回だけだ。構わず、先走りに濡れたそれを激しく扱き続けると爪を立てながらも縋り付いて来る。
そんな政宗に抱きかかえられる形で胸の尖りを口に含むと、身体があからさまに跳ねた。
細い艶声が、長く尾を引いた。

深い深い思い遣りの手でしかそうされた事の無かった政宗だ。勢いに任せて攻め立てて来る元親の情熱的な、いや熱狂的とも言えるそれに、やはり小十郎の面影を重ねずにはいられなかった。
ただ一度だけ、かつて我を忘れる程の行為を交わした事があった。なのに、彼は今は注意深くそれを避けている。
―――何故だ、とは聞かない。
まだ二人の間には取り払えない壁がある。
鏡、と言う壁が。



二人はそうやって、陽が暮れてもカーテンも閉めずに雪明かりが忍び入る夜更けまで、訳の分からぬ痴呆のように身体を絡ませ合ってから、眠った。

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あきゅろす。
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