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―記念文倉庫―
3●
政宗はそこで風に当たりながら、オーバーオールの内ポケットから煙草を取り出して一服した。
何もかもが後手後手に回っている、と言う実感があった。
ビジネス絡みの大型客船による長期クルージングの最中、竹中半兵衛とその主人と言う豊臣秀吉らに出会い一悶着起こってからこちら、一つも勝てていない。そんな苦い思いを噛み締める。全て奴の掌の上で踊らされているかのようだった。
あの青白い顔の青年をどうぎゃふんと言わせてやろうかと思案を巡らせていると、3等車両の扉が開いて小十郎が姿を見せた。
「政宗様、少しお休み下さい。先は長いのですよ」
「分かってる」
言われた事に頷きながら、窓辺に寄り掛かったまま動こうとしない青年の傍らに小十郎は立った。そうして、車窓を流れる黒灰色の外の景色を眺める。
時折白樺や山毛欅の原生林が見かけられる他は、殆ど起伏の乏しいツンドラの大地が広がっていた。今季節は短い夏に向かうばかりの晩春で、剥き出しだった大地にも丈の低い草葉が生い茂り、微かに棚引きながら線路脇を通り過ぎて行った。
「寒…」と政宗は細く呟いた。
「政宗様」
声を掛けたが、小十郎は戸惑いがちにその背に手を添えるだけだ。むしろ身を寄せて来たのは青年の方で、吸い殻を投げ捨てて男の胸の上に体を預けて来る青年を小十郎は不器用に抱き寄せた。
政宗はもそもそと身を動かすと男のコートの前を自分の体に巻き付ける。そして、流れ去る車窓の闇をひたすらに眺めた。
「…政宗様……」
再び呼び掛けた声は我ながら情けない事に掠れていて、ただの囁きになった。
すると青年は増々身を摺り寄せて来る。
コートの上から男は、その体を抱き締めた。
男の太腿に押し付けた下半身で熱いものが立ち上がりつつあった。
彼に触れられると変になる、それがもう今は明らかな行為への欲求となって政宗の体を圧した。
顔を上げ、男の胸に顎を乗せる形でその目を覗き込むと相手はずっと前から彼を見つめていたように視線を降ろして来る。そうだ、ずっと昔から彼は政宗だけを見ていた。
何かを言いたげに半開きになった唇が少し、動いた。それへ男は食らい付いた。
彼のコートの内側で背に回された両手が激しく訴え掛けて来る。
―――熱に、溺れたいと。

唇で唇を塞いだまま、右腕一本で青年の身体を支え、もう片方の手で彼のセーターを掻き分けた。冷え切った指先が素肌に直に触れると、唇の中で青年が息を呑むのが分かった。その手を動かす度に顕著な反応を示す。
手の冷たさに震えを起こす体は男の雄に確実に火を点けて行った。
何処かでストッパーを掛けていたものが見失われていた。
合わせた唇の間で逸る息遣いがぶつかり合い、それにすら熱い情動を煽られる。これ以上進んだ所で何の問題があるだろう。女のように子供が出来るとか言う厄介ごとが起こるでもなし、欲に塗れて己の勤めを忘れるなどと言う事もないだろう。もしあったとしても、小十郎はそんな甘えを許すつもりはない。
だから、欲しがって何が悪い、と―――。
正常な思考など、もはや何の意味もなかった。
掻き乱したシャツの中で指先が胸の尖りを捉えた。
中指と薬指とで挟んで転がすと忽ちにしこる。掌全体を使って薄い肉と、ぴしりと締まった筋肉とを揉み上げる。溜まらず、縋った青年の手がやはり同じように男のニットの中に這い入って来て掻きむしるように男の体を弄った。
喘いで、大きく開いた唇のあちこちを吸い上げてやると青年は薄っすらと左目を開いた。焦点の合わない目が虚空の闇に投げられ、譫言のように呟く。
「…俺の…触っ…、触れ…はやく…っ」
荒いだ息の合間に漏れる艶声は例えようもなく。
男の腿の上で彼の腰は切なげに揺れる。
小十郎はベルトを解くまでもせず、青年の腰に引っ掛かったGパンの中に掌を忍び込ませた。その窮屈な中で更に行き場をなくしていた猛りをいやらしく掴む。そのまま、拙い手つきでごりごりと扱き上げる。
「…ん、ぅ…っ!」
呻いたその唇を又しても唇で塞いだ。
Gパンの中で押し潰されたそれを、更に手荒に絞り上げ、ねじくれてやる。
「ん…ふ…っ、う、う…」
青年は何とも切なげに体を震わせ、その呻きは女のすすり泣きのように口腔内に籠る。そうして、揺れ逃げ惑う体を男は更に強く窓際に押し付ける。
「…あ、ぁ…っ!」感極まった声に政宗は顔を仰け反らせた。
「クセに、なりましたか…?」
その耳元に口を寄せて揶揄るように言ってやった。
すると青年は唇を噛み締めてふるふると首を振る、それが精一杯の矜持だとでも言うように。
「…も…お前、巧…過ぎ…っ」
短く叫んで政宗は男の脇腹に爪を立てた。
小十郎は痛みに思わず身を捩り、悪戯への仕返しとばかりに己が手に掴んだそれの先端に指先を食い込ませた。何かを叫ぼうとした青年の唇を追い、塞ぎ、あるいは首筋を強く吸った。

終に、下着の中で粗相のように白濁を吐き出してしまうと青年はぐったりとして窓際に背を預けた。荒いだ息は俯いた胸元に落ち、2人の間にちょっとだけ気まずいような、気恥ずかしいような微妙な空気が流れる。
2人は沈黙し、そしてどちらも相手が何か言うのを待った。

Gパンの中から手を引き抜こうとした男の左手を、政宗は捕らえた。
「…お前も、快くなりたいだろ…」
微かな囁き声でそう言って、自らGパンのベルトを解いて前を寛げた。
小十郎の目がちらり、とデッキの戸口へ投げ掛けられる。
車両を薄っぺらい戸の一枚で区切り、すし詰めで眠っているであろう3等車の乗客へ思いを馳せる。列車が立てる騒音があるとは言え、彼が上げる声を誰が聞き咎めないとも限らなかった。
だが青年を抱き寄せていた右腕にその全体重が掛けられると、否応無しに2人はずるずるとその場に踞っていた。
政宗自身が解いたGパンを下着ごとぐいと膝までずり落としていたのは、特に何か考えがあっての事でない。ただ、掌に受けた精をその棹と袋とに悪戯げに塗りたくり、股間を通って後孔に這い寄る前座のようなものだった。
「…おま…ホン、トっやらし……っ」
言いながら青年の右手は、小十郎のスラックスの前を覚束なげに掻き広げた。
下着を押し退けて猛々しくいきり立つそれを、青年が忍び込ませた掌で包んだ。それに応えるように後孔は解され、唾液を混じり合わせるような口付けを互いに貪り合った。
淫靡に湿った音が吹き込む冷たい風に吹き攫われて行く。
それだと言うのに2人の体だけは熱く、否応無しに更に熱を上げて行く。列車の振動が体を揺らし、それにさえ感じてしまう2人の息は、追跡者に追われて逃げるもののように果てしなく―――。

「……く…そった、れ…っ」

何に対するコメントなのか分からないが、政宗はそう嘯いて手の中のものを強く握り締めた。
男は呻いて、達しそうな欲望を力任せに押さえ付ける。そうして、青年の身体を壁際に押し付けながら片手で長い脚を掬い上げてやった。最奥に容赦なく突っ込んだ2本の指を乱暴に引き抜いて、尻の肉を鷲掴む。
「や、…っ!」
両膝を突いて座り込む男の腿の上で、Gパンに両脚を拘束されたような形で政宗の体が窮屈に折り畳まれる。不安定な姿勢から、惜しむらく男の雄を掴んでいた手は離れ、両腕で男の首っ玉に縋り付くしかなかった。
「小十郎に当たらないで下さい…いじめてやりたくなる…」
「バカ、な…に言…っ!」
言葉は途中で途切れ、青年は息を呑み込んだ。
尻を掴んでいた指で押し広げられた所へ、ずるりと熱した杭が無遠慮に打ち込まれたのだ。その指先が雄心をいやらしく銜え込む肉襞を確かめるようになぞって、青年は体を左右に捩らせた。
「や…あっ、…そこ、触ん、なっ…!」
悲鳴と共に、2人の体の間で揺れる青年の雄心が、しとどに滴を垂らした。
政宗はもがいて体を持ち上げようとするが、壁と男の体の間に両脚を畳んで挟まれた状態では何ともしようがなく、却ってずぶずぶと圧倒的な質量を呑み込んで行くだけだ。
その度に体が跳ね、そしてまた食い込む。小十郎が手を施すまでもなく淫乱とまで言える痴態を晒して見せる。
その様に魅せられていた。だた見ていたいが為に、最後の一突きを腰を使って埋めてやると青年は一際高く啼いた。
「やあ、あぁ…んッ!!」
その声が余りに大きかったので小十郎は思わず掌で青年の口を塞いでしまった。

「―――…っ」
「…………」

仄青い闇の中で政宗の隻眼が見開かれ、自分を顧みる。小十郎は息を呑んでその瞳に見入った。
この体勢とシチュエーション、そして口を封じる、と言う行為が余りにも淫らで。
男はそのままゆるゆると腰を揺らした。
「…んぅっ、うう、…ンうぅ…っ!」
掌の中にくぐ籠る、悲鳴。
苦しげに細められた眦からちらりと溢れる、滴。
首に回された手がコートを鷲掴んで、凄まじい皺を作り。
逃げ場など一切ない、快楽と官能の袋小路で青年はよがり、悶え。
深く突いて、抉る程に、欲に蕩けた青年の目元は狂おしいまでに小十郎をも追い詰める。

「貴方は…どうして……っ!」

思わず男は低く呻いていた。

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