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―記念文倉庫―
9●
「驚きましたな」と小十郎は呟いた。
「もともと戦略を練るのが好きなんだろ」
面白そうに言い放った主人の耳に、小十郎は息を吹き込んでやった。
耳かきの仕上げ、と言う程の行為だったが、政宗は顔を起こすとまじまじと己の近侍の顔を眺めやった。
「もう少し、小十郎を頼って下さいますか」
「―――」
「私を大事に扱って下さい…小十郎は貴方の盾であり、又同時に矛でもあるのですから」
密かに笑んでそう言う男に対して、政宗は苦笑を刻んだ。
「そうさせてもらう」
言って体をゴロリと転がすと、男の膝元に這いつくばってその袴帯を解きに掛かった。前腰を引き降ろし、内着の裾を割り、その中へ片手を忍び込ませる。
布地の上からそれを指先で包み込んでは、さわさわと撫で上げてやると忽ち形を成す。男の手は、自分を色の籠った左目で見上げて来る青年の頬に添えられて優しく何度も撫でた。
小十郎は少し腰を浮かして自ら下帯を解き放った。
布を押し退け立ち上がったそれを、掌で包んで燭台の明かりに仄黒く見透かすと政宗は愛おしげに口付けた。

ちゅ、ちゅ、

可愛らしい啄み。
くくく、と見る間に充血し大きく堅くなって行く、それ。
頬を撫でていた男の手が後頭部に回り、黒髪に指を絡めながら静かにだが断固として押し付けて来る。押されるままに政宗は男の雄を銜え込んだ。
意外にせっかちな所のある己の近侍に、苦笑が喉の奥を震わす。
男の息遣いが大きく、深くなる。
政宗は舌に唾液を絡め、熱い雄心を深く受け入れた。吸い上げながら唇を移動させ、その括れに唇を絡ませる。そのまま舌先で亀頭の溝を何度も舐り、片手で濡れた棹を扱いた。
「―――く、」と男は喉の奥で呻いた。
彼の左手が伸びて来て、青年の顎の下から着物の内に忍び込んで来た。這い入った指先が胸の尖りを摘む。
体が否否をするように捩れ、一度は外された指先が再び執念深く堅くなった頂きを苛んだ。

はあ、

思わず唇が外れて熱い吐息が吐き出されると、体の下に入り込んだ男の両手が政宗の体を抱き上げた。
「あ…早く、欲しい―――」
切なげな台詞を吐き出す唇を唇に塞がれた。
男の手が一重を掻き乱し、青年は諸肌脱ぎでその首筋に抱きついた。
片手を男の下肢に伸ばす一方で、愛撫を強請って男の広い肩幅に腕を這わせる。その間で男の両手は押し付けられる胸の尖りを痛い程にこねくり回した。
ちりちりと灼け付く欲望が青年を突き動かす。そうして男の先走りに濡れた雄を片手で絞り上げながら、自分の下帯を突き上げて苦しむそれを男の脇腹にぐいぐいと押し付けた。
青年の腰帯を解きながら男は低く笑った。
「この様も、彼らに見せつけてやりますか?」
「…冗談」
吐く息と息とを絡ませながら2人は互いの目を覗き込み合った。
「やだね、絶対…や、あ―――っ」
はらり、と一重が散り、男の手が緩めた下帯の隙間からそれを掴んだ。
「何故です」
「…お前は…俺だけのも、ん…だ…」
「嬉しい事を…」

国主としての理性が彼のその欲望を抑圧し押し殺しているのだとしても、
それが"正しい道"だと分かっていても、

秘すれば華。

その心を楽しむ意気で常に2人の熱を昂らせる。
禁忌は欲望の裏返しとは良く言ったものだ、と小十郎は思った。
秘められているからこそ肉体の奥に燻る熾きの炎は尽きる事がない。それを戦と戦の狭間で、平素の日々の中に掠め取るように、呷った。

甘美な毒を頂くように。

―――――

駒ヶ岳の牧にて、その修練は行われていた。
季節は初春から初夏へと移り変わり、立ち枯れていた山の木々も青々しく萌え上がっていた。
温かさを通り過ぎ既に鋭い陽光を差し掛ける太陽と瑞々しい緑に包まれたその山間で、隊列を組んだ馬たちが軽快に細い脚を踊らせる。
馬上の人間は右腕に、槍でも刀でもなく長駆の銃を下げていた。
火縄銃は基本立ち止まって撃つものだが、日本には古来より流鏑馬と言う技がある。それを火縄銃を改良したものでやろうと言うのだ。

政宗は孫市と並んでその様子を見守っていた。
2人の傍らにはそれぞれ小十郎と源二もいる。その彼らが修練の総仕上げを見守る前で、実演は始まった。
指揮を執る幸鷹が軍配を振るって合図を出した。軽速歩から速歩へと移る第一陣が五騎、前へ進み出た。
それが進行方向両脇に据え置かれた的へと思い思いに狙いを定める。
銃の撃ち方においても利き手はあったが、これを幸鷹は訓練で両利きにした。精度の差こそ多少はあれ、選び抜かれた彼らには今や右も左もない。
銃もそのように作られた。

パン、
パンパン、パン…

甲高い破裂音が響き、山に当たって木霊となる。
命中率は8割と言った所か。
次に第二陣が縦列となって駆け出す。
9割に上がった。
その後第15陣まで実演して見せて計測した所、全体で言うなら7割強から9割弱と言う結果が出た。たった3ヶ月に満たない期間でよくぞここまで鍛え上げたものだ。
「ちょっとちょっとちょっと〜、どおよ、どうなのよ?!」
馬列から舞い戻って来た成実が興奮気味に言い放って来た。彼の右腕にも長駆の銃が抱えられている。彼は鉄砲隊ですらなかったが、指揮官クラスの成実が加わる事で鉄砲隊の身の入れようも一味違った筈だ。
「Exellent! よく頑張ったじゃねえか」
「当ったり前じゃん!俺様天才★」
「部隊の連中がな」
「んなっ!」
文句を言い掛けた成実を無視して、政宗は傍らの孫市を振り向いた。
「戦で使えるかどうかはともかく、十分だ」
「それは軍を率いるお前の采配次第だろう」
互いに相手への痛罵を言い放って素知らぬ風を装う。少し下がった所に控えていた小十郎が何となく見やると、源二の方も自分を顧みた所だった。
そして、2人して苦笑を漏らす。
良く似た者同士だ。
立ち去りかけた女の背中が、何の前触れもなく立ち止まって言い放った、
「今日明日中にはここを発つ」と。
急な話だった。
だが、もう3ヶ月が経つ。彼らの連絡手段はどうも鴉らしいと草の者から聞いていたが、戻る目処が着いたのだろう。孫市は鷹揚に振り向くと馬場を見渡しつつ言った。
「これで借りは返した」
「It will be good…. 貸したつもりもねえけどな」
2人が眺めやった方角では、再度実演をさせようとして注意を喚く幸鷹の姿があった。的の入れ替えには怪我の完治した虎次が伊達軍と一緒になって走り回る。
「良い臣を得た…使い方を誤るなよ」
言って、こちらを見つめる青年に横顔を見せていた女は、表情も変えずに言い返してやった。
「お前は隠し方が下手だ」
「……What…?」
「皆にバレてるぞ」
「As for anything…?!」
途端に血相を変えて叫ぶ青年を女は横目で盗み見た。
思わず吹き出していた。
「―――冗談だ」と、くつくつ笑いを漏らしながら孫市は呟く。
冗談じゃねえ…と政宗は生唾を呑み込んだ。こんなに性悪な女だったか?とまるで狐に化かされたような表情を隠しもしない。
彼らの背後では近侍2人が笑いを必死に噛み殺している。
晴れ渡った空に乾いた銃声が解き放たれた。

雑賀衆―――彼らが再び戦国の世に台頭して来る少し前の事だった。

20110403 Special thanks!

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