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―記念文倉庫―
6(※コジュ×オリキャラ女●)
「素人の"枕"がよっぽど良かったと見えるな、ああ?」
「…片倉っ…お前……!」
抵抗する腕や足を無視して男の手は、引き裂かんばかりの勢いで女のガウンの胸元と裾を引き開いた。
「奴はお前をどうやって抱いた…?」
「なにす…っ」
男の手が豊満な胸を愛情の欠片もなく鷲掴み、もう片方の手が女の片足を担ぎ上げた。
女の体からむっとするような雌の匂いが立ち登る。それはひいては、先程までこのベッドにいた青年の息遣いをも再現した。
前戯もなしに内唇に2本の指を突っ込まれて女は息を呑んだ。
足を閉じようとしても男の体はびくともしない。
「もっと細やかに気ぃ遣ってくれたか?」
女の耳元で男はこれ以上ない程凶悪な声で囁いた。
同時に、濡れてもいない肉壁を指を広げる事でこじ開けて行く。女は苦痛に目を見開いた。その眦から透明なものが滴り落ちる。
「甘い言葉でも囁いてくれたか?ん?」
それは楽しそうな男の問いだった。広げた体の中央で男の指は鉤爪のように曲げられて、更に奥まで捩じ込まれた。
女は細い悲鳴を上げ、もがき、苦しんだ。
「素人の一物は格別旨かったか?応えろ…」
もはや声のない呟きにも似た問いに、女は恐怖に歪んだ顔で男を振り向いた。
「あんた…狂って…る…!」
刹那男は淀み、ゆっくりと、それはゆっくりとアデレードの顔を顧みた。
「俺が、狂ってる?」
どくん、
と一つ女の鼓動が脈打った。
それはそれ程までに真摯な表情であったから。また同時に、追い詰めている筈の男がまるで自身が追い詰められた獣のように見えたから―――。
片倉はそうして、嗤う。
己自身の愚かさと、女の救いようがない堕落振りに共通項を見出して。
「…上等だ…、お前みたいな女には狂人がお似合いだからな」
言葉を終えると同時に、喉を食い破られるようなキスをされた。




堆く積み重ねられた屍の山を見た。血の海に浸かる狂女の絹を引き裂くような笑い声を聞いた。そして、聖者の振りをしてドブネズミが徘徊する地下牢に閉じ込められた痴呆者の体温を、感じた。




子猫を引き取りに武田の診療所に顔を出した日曜日。
又しても片倉が診療所奥の縁側にいて、政宗は足を止めた。
今日は朝から長い雨脚が続いていた。インコのトラジローも表の景色が見れずに室内でピーピーと不服を述べていた。
政宗は移動用のゲージを手にぶら下げたまま、音も立てずに居間を離れた。縁側に座る男の隣には佐助がいて、2人は何やら熱心に話し合っていたからだ。
入院室には誰も居ず、政宗は新しく作られた「メル」と言う名札の付いたゲージの前にしゃがみ込んだ。
「今日から宜しくな、メル」
子猫はにゃあ、と短く応えた。
ふにゃふにゃと柔らかい体をそっと掬い上げて、自分の持って来たゲージに入れた。診察室の武田と幸村に一言断ってから出て行こうと思って、院長室の前を通りがかった時、ガラス張りの壁を挟んだ向こう側に片倉と佐助の姿を見つけた。大して考えがあった訳でもなく、政宗はとっさに物陰に身を隠した。
そこは患者たちの待合室だ。2人の姿以外に誰もいなかった。だから、彼らが誰に聞かれるとも思っていない会話が遠く聞こえて来た。
「…でも、ホントに知らないよ俺様。仕事だからやるけど―――」
「なら問題はねえ筈だ。あの女も他の店の連中も諦めが付く」
「表向きにはね」
「…裏に何があるってんだ」
「色々あんでしょうが…それが分からない小十郎さんじゃないでしょー」
随分親しげな口調だと思った。そう言えば彼らは下の名前で呼び合っている。仕事上の付き合いでそんな風になるものだろうか。
会話の内容の意味する所が分からない分、そんな事を考えた。
「人間の嫉みや妬みほど怖いもんはないってねー、特に金が絡むと。あんたにどれだけ撥ね除けられる?」
佐助は片倉に向き直って面白そうに笑いながら首を傾けた。
「伊達に修羅場潜ってねえよ」と言って片倉が笑い返す。
「ああ、それに伊達チャン」
ぎくり、
自分の名前か、と思って身体が強張る。
「やーまあ、小十郎さんにとっちゃ痛くも痒くもないだろうけど、きっと恨まれるよ〜」
「知ったこっちゃねえな」
「だろうねえ」うんうんと頷いた佐助が笑みを深くした。
そうしてから片倉のスーツの胸元に目をやる。男はこれから仕事であるかのように、皺一つないすっきりした黒スーツに身を包んでいた。それのネクタイに佐助の手が伸びる。少し高い所にある襟をネクタイを掴んでぐいと引いた。顔がぶつかる、と見せかけて互いが互いの耳元に口を寄せていた。
何事か囁いたのは佐助だったのだろう。
ほんの僅か、男の視線が泳いだ。が、それを恐るべき理性で制して男は佐助の手を押し退けつつ体を起こした。
「…それこそ、関係ねえだろ」
強い不快を露わにした声だった。
「そっかあ、関係ないね〜」
ニコニコとそれは愛想良く笑った佐助は、診療所の玄関まで見送りに出た。「じゃあ、またね」と言って手を振る若者に何一つ返す事なく、むっつりと黙り込んだ男は出て行った。

何やってんだ俺は、と自分を罵りつつ政宗は物陰から動けなかった。
2人の仕事に関すると思われる会話の中で、突如として自分の名前が出て来た事が理解できない。関わりなんか、ない筈だ。だが政宗の思考を停止させているのはその事ではなく、突如2人がキスでもしそうになった瞬間に巻き起こった混乱だ。努めて忘れようとしていた。
自分のボロアパートで男にされた事―――。
夜の、いや雨の香りがした、男からは。
自分の中にはあの夜、子猫を抱えた男と激突した晩からずっと雨が降り続いている。

「伊達チャン?」
ガタッ!
「おっとお…」
寄り掛かっていた薬棚から一つのガラス瓶が落ちそうになったのを、佐助が掬い取っていた。開けっ放しになっていた棚の引き戸を閉めた佐助が、政宗を顧みる。あられもない驚愕の表情を刻む政宗を気にも留めずにっこりと微笑む。
「そろそろお昼だし、ご飯食べてかない?」
「いや…俺は―――」
「この間ご馳走になったし、今度は俺様がとびっきりのランチ作ってあげるよ。ね?」
やんわりとだが断りを許さない強い誘いに、政宗は結局居間へ戻る事になった。



「バイトをクビになったでござるか?!」
昼飯時に大声で言われたくない台詞を耳元で叫ばれて、政宗は顔を歪めた。言わずに済めばこっそり次のバイトを探し出して素知らぬ体でいようと思ったのだ。それなのに話題がそっちの方向に流れて行って、嘘をつけない質の政宗は白状した。嘘は新しい嘘を呼ぶ。
苦い表情を刻んだのは政宗だけではなかった。武田が箸を置いて真面目腐った風に体を向き直して来た。
「冗談ごとではないぞ伊達…。住いなら暫くの間貸しにしておいてやっても良いが、メルもトラジローも人の世話がいる。世話するからには金がかかる。お前自身が食うのを我慢してでもあやつらには毎日欠かさず餌をやらねばならん。それが人とペットとの約束事だ、分かっておるのか?」
「…心配すんなよ、直ぐに無一文になる訳じゃねえ」
「だが収入が途絶えればいずれ底を突く―――学業はどうする?」
「もちろん、続けるさ」
「―――伊達…」
更に延々と説教しようと息を吸い込んだ所に割り込んで来たのは、佐助だった。
「俺様がまたバイト先世話してあげるよ?」
クビになった理由を問わず、先の事を心配してくれる。それもこれも政宗と言う青年の人と成りを知っていて、信頼してくれている証拠だ。それは政宗にも分かっていたので殊更に突っ張る事はしなかった。
「…済まねえな、佐助」
「いいよー、お易い御用だもん。それに苦学生の伊達チャンを応援してるし」
苦学生、と言う言葉に政宗は苦笑を零した。
「そうでござるよ!政宗どのさえ宜しければここに住んで頂いても…その、御館様?」
幸村の問うような視線に武田も破顔した。
「それは…こちらは構わぬが、伊達は儂らの世話も増えて却って迷惑であろう。見た通りの男所帯であるしな」
「そう言う訳じゃ…」
「まーまー、いいじゃないの。年頃の男の子なんだし一人の方か何かと、ね?」
武田の湯飲みに茶を注ぎつつ、佐助が声を張り上げた。
「今日は無理でも…明日、放課後に面接取れるようにセッティングしとく」
「ありがとう」
照れ隠しに俯いて言うのに、武田は湯気を立てる湯飲みを取り上げた。
「新しいバイトが決まるまで、メルを引き取るのは許さんぞ」
最後にそういう風に釘を刺しておく事だけは忘れない。
政宗は俯いたまま、照れ隠しの苦笑を零した。
「分かってるよ、おっさん」

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