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―Tell me a reason.―
A gear.
呆気に取られ、気の抜けた表情で少年の背を追う小十郎の頭上から「…だとよ…」と言う綱元の声が降って来た。
「は?」
「何が何でも着いて来いって意味だろうが、今のは」
「あ、ああ…」
「お前が棺桶に片足突っ込んでるっての承知の上での発言だ。こりゃ、政宗様も腹ぁ括ったみてえだな」
嬉しそうに言うのへ、小十郎は顔を跳ね上げた。
「綱元さん?!」ついでに語尾も跳ね上がる。
「ああ、ご存知だぜ、政宗様は」
「ちょ…っ!」
「いいから休んでな、お姫様」
愉快そうに笑いながら立ち去る綱元を、小十郎が追える筈がなかった。何て事してくれたんだあの人は、と怒りに体を震わせてみるがしかし、それも長くは続かない。一気に目眩が襲って来て、別の意味で小十郎は頭を抱えた。
「ねえ、小十郎さん」と言う青年の声に視線だけを上げると、自分の傍らで救急セットを仕舞う慎吾がこちらに横顔を見せたまま、言った。
「これちょっとドーピングになるんだけどさ」
す、と差し出された指先に摘まれているのは、小さな錠剤だった。
「いざって時、体を動かす為の魔法の薬」
「―――…」小十郎の目が据わった。
「麻薬か」
「なーに言ってんのさ、麻薬も鎮静剤も、元を質せば成分は皆一緒でしょ?これはそうだね…―――逆の興奮剤」
「覚醒剤の間違いだろ」
「そーともゆーかもねー」
言って、ケラケラ笑う慎吾の真意は読み難かった。
「で?どうすんの?受け取るの、受け取らないの?」
面白いものでも見るように、小十郎の顔を覗き込む相手に舌打ちを一つくれてやってから、彼はその錠剤をひったくるようにして受け取った。
「効果はすぐに出て、ピークは20〜30分で終わる」
捨て台詞を置き土産に、慎吾は何食わぬ顔でその場を離れた。



200発のライフルの弾を10人で手分けして分解して、一本の発煙筒を利用したダイナマイトもどきを一つ作った。それをさらに4つ、火薬を扱うと言う神経をすり減らす作業を一時間程で終わらせて、錨の巻き上げ機にワイヤーでセットした。
残りの弾丸120発分を6人で等分する。佐馬助は拳銃に装填されているものと予備のカートリッジ分だけだ。合わせて12発。
一体何処からこれだけの銃器を、と訝しがる所か呆れる程だったが、相手の潤沢な装備を思えばこれでも足りないぐらいだった。
ガゴン
と言って落ちて来たのは空気ダクトの蓋で、左月か?!と皆が思って振り向いた先で地面に降り立ったのは、黒ずくめのアーミースタイルの男だ。キャップの鍔を後頭部に回して、その容貌を残忍な笑みに歪めた男を、政宗たちが見違える訳もなかった。
「There was a terrible huge mouse in the celling. (とんだでかいネズミが天井裏にいたもんだ)」
男は手にしたナイフをカシャンカシャンと音を立てて、回したり刃を出したり仕舞ったりしつつ嘯いた。見た所、彼が持っている武器はそれだけだ。
「He is your friend? The young man who injured the left foot. (お前たちの仲間だろ?左足を怪我した若い男は)」
男の英語がわかった者たちがざわめく。
勿論政宗も、そして小十郎も顔を強張らせて硬直した。
「てめえ、…左月を…」
そう呟いた小十郎の声を耳聡く聞き咎めて、狂犬のような男はぱっと表情を輝かせて言った。
「The guy caches it, and my friend tortures he from now on. (奴は取っ捕まえて、これから俺の仲間が拷問にかける所だ)」
小十郎は寄りかかった壁を頼りに、ふらふらと立ち上がる。噛み締めた歯がギリギリと音を立てて軋む。
「I don't forgive you…. (手前、許さねえ)」
喉の奥を唸らせて、小十郎は呟く。
「One! Then what would you do? (ほう!どうするって?)」
「I kill you…. (ぶっ殺す)」
ジャキン
それぞれが、ライフルの遊底をスライドさせる音が続けざまに鳴った。
「Wait. (待ってよ)」
その銃口の前に進み出たのは、慎吾だった。
「I am indebted ti this fellow, I don't consist of these felows unless I have you return it. (こいつには貸しがある、俺はこいつから返してもらわなくちゃならないんだ)」
「Huh?」
「When this fellow stabbed him with a knife, (こいつが彼をナイフで刺した時)」
何時ものおちゃらけた態度を引っ込めて、慎吾はゆっくりと語り出した。「I left and was not able to help. Because my existence had not to be yet known at that time…. (俺は出てって助けられなかった。あの時は未だ、俺の存在がバレちゃマズかったから)」
慎吾の台詞の途中から、政宗の呼吸が荒くなった。小十郎はその様を後方から見つつ、厭な予感に心が蝕まれて行くのを感じていた。
「There is not a peek despite a good hobby. (覗きたぁ、あんま良い趣味じゃねえなあ)」
男のニヤニヤ笑いが深くなる。
「There is not the reason said to you. (お前に言われる筋合いはないよ)」
ざ、
徒手空拳の慎吾の手が、西部劇のガンマンさながらGパンの背から拳銃を引き抜いてた。
ガン、ガン、ガン
弾丸が鋼鉄の壁に跳ね返る音が続けざまに響く。男は仰け反りつつ倒れ、しかし器用に体を捻って床を転がる。
一カ所に固まっていた実働隊と綱元もそれを合図に散開した。発砲音が、敵がこの男だけではないのを知らせている。
横っ飛びに飛んだ慎吾が床に転がったまま天井、その空気ダクトの穴へ狙いを定めた。二人、見えた。
頭を引っ込めるのが遅れた一人の顔面を打ち抜く。
前へ出て行きたい気持ちを抑えて、小十郎は文七郎に政宗を更に奥へ連れて行けと怒鳴った。文七郎と孫兵衛がその小十郎を引きずるようにして言う通りに動き、佐馬助が政宗の腕を引っ張って行った。
ガゴン
と、今度は出入り口が開いた。
ハンドル式の丸扉は、こちらから鍵をかける事が出来ない。鉄パイプを噛ませてその代わりにしていたが、ジャッキでも持ち出して来たのだろう、噛ませた鉄パイプが飴のようにひしゃげて落ちた。

「Freeze!!!!!」
絶叫が場を満たした。



A gear.
―歯車―

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あきゅろす。
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