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―Tell me a reason.―
The comfort is not necessary for me.●
元親と元就が帰って、宴会場だった2階の事務所を片付け終えた時、政宗の姿が見当たらなかった。
「トイレじゃないの〜?」と成実は大欠伸をしつつ、外へ出て行った。とっととトラックに乗り込んで寝てやろうと言う腹積もりなのだろう。
小十郎は事務所の中を探し回った。



リビングに当たる6階のソファに彼はいた。
体を丸めて、寝ている。
「政宗様…、政宗様…」
低く呼びかけつつ、肩を揺さぶる。
うーん、と唸って寝返りを打とうとしたその目が開いた。ぼんやりした眼差しが辺りを見渡しながら、小十郎を捕えた。
「もう発ちますよ、トラックの中で寝て下さい」
「―――――…」
「政宗様?」
言葉もなく、ともかく、ジ―――…っと見つめられて小十郎は戸惑う。まだ寝惚けているのか?と思って、もう一度その肩を掴んだ。
政宗の口が開いて、僅かに動いた。
「?…何です?」
彼の顔に耳を寄せた。
そうしたら無言で首筋をホールドされた。と同時に下半身でもそもそする気配に、小十郎は目を白黒させる。
「ちょ…!政宗様っ」
「黙ってろ…今度は俺がヤってやる」
「!!」
ぐ、
と布越しにそれを掴まれた。
冗談じゃない―――。

何故か力任せの攻防が繰り広げられる。
政宗の腕力も正直侮れないレベルまで来ていた。それは目出度い事だが、今は最も有り難くない事でもあった。肩に押し付けられ、右腕でホールドされた首が危うい感じに絞まって来て、わんわんと耳鳴りがしだす。ついでに目の前がチカチカする。
命の危険さえ感じた。
いや、ここで自分が失神したら正直笑えない。
「ま…っ!!」
全く色気も雰囲気も何もあったものではないが、雄芯をぐりぐりと揉み解されて勝手に反応してしまう自らの体にも腹が立つ。
本当に、冗談じゃない。
階下で人の気配がする、下手したら話し声も。このリビングに至る部屋の戸も開けっ放しだ。
何時なんどき誰かが踏み込んで来てもおかしくない状況で、これはマズイ。
マジで、マズイ。
―――御免!!
と心の中で政宗に詫びると、反対に政宗の一物を指で抑え込んでやった。
「う…」
政宗の力尽くのそれとは違い、明らかに形に添ってなぞり上げる動きは、もう淫乱とも言えるレベルだった。
「…あ…」
小十郎のそれを掴んでいた彼の左手が、小十郎の右手を制止しにかかった。
「ちが…っ!」
違う、そんな事を望んでいたんじゃない。
そう言いたいのはわかった、だがこの場を切り抜ける為には主導権を握る必要があった。小十郎の首を絞め殺す勢いで巻きついていた腕の力も、緩む。
そっと体を離し、薄暗がりに政宗の顔を見る。
眉間に走る苦悩の皺、荒いだ息を吐く唇、怒ったような泣きたいような、ただ一つの左目。
ドクン
と一つ、小十郎の心臓が脈打った。
何と言う表情をするのか、この青年は。
「…は、あっ…、おま…」
するすると動く小十郎の手に従って腰が揺れ、背筋が撓った。
「バカ…ヤ、ロウ―――」
罵られて、小十郎は溜め息を一つ吐いた。
「…長曾我部に刺激されましたか?」
「違う…あ…」
鼻から甘い息が抜けて、小十郎の頬に掛かった。
「では、小十郎のこれが欲しかったとでも?」
イジワルだ、とは思っていてもじわじわと立ち上がったそれの頭に爪を立てつつ言わずにはいられなかった。
びくん、と政宗の体が跳ねて、掠れた声が漏れた。
「…おま、…泣いてた……」
ぎくり、と体が固まった。
―――見られていたのか。
しかもここは数時間前に小十郎が一人、輝宗に別れを告げていた場所だ。まさか、自分を慰めようとして?小十郎はそこまで思い至って、軽い溜め息を吐いた。「俺は俺なりの別れをしていただけです。そしてそれはもう終った」
「う…ぁ、あっ…」
熱に浮かされながらも小十郎の様子を覗い見る彼は、酷く辛そうだった。
「ですから…政宗様がこのような真似をなさる必要はない―――」
「―――んッ!!!」
悔しげ、だったのか官能故だったのか、わからないような表情に政宗の顔が歪んだ。
と、その時。



コツ、コツ、コツ、


階段を昇って来る重い靴音がして、二人は固まった。
足音は薄暗い廊下を真っ直ぐこちらに向かって来ている。小十郎は慌てて政宗を引っ張り起こした。快楽の虜になりかかっていた青年がよろけるので、抱えるようにしてリビングを出て、トイレへと押し込んでやった。


ガチャ


ビル最上階のリビングルームの戸をあけたのは、綱元だった。
「おい小十郎、何やってる?」
「ああ…政宗様がトイレで吐いていなさって…」
「…こんな所でか?」
「人に介抱されるのがお厭だったらしい」
その時、二人の脇の小部屋から水を流す音がした。
「政宗様、大丈夫ですか?」と綱元が扉越しに尋ねる。
「…ああ、ちっと呑み過ぎた。もうちょい待ってくれ」
「わかりました…」
つと、視線が戻されて、小十郎は何事かと言うように相手を見返した。
「早くお連れしろよ」
何とも剣呑な雰囲気と声音でそう言われて、小十郎は「わかった」と短く応えた。心の動揺を隠しつつ。



綱元が立ち去って、さらに数分してから再びトイレの水が流される音がした。俯き加減に出て来た政宗は、ちらとだけ小十郎を見やった。
「大丈夫ですか?」と小十郎は青年を気遣って見せた。
「―――――…」
ほんのりと頬や首筋を赤らめて(それは何も酒の所為ばかりではない)、政宗は苛々と自分の頭を掻いた。
何つー鉄面皮、こっちは恥ずかし過ぎて逃げ出したいくらいなのに。まあ、だからこそ小十郎の方が自分より一枚も二枚も上手なのだろう、

いろんな意味で。

「綱元が待ってるだろ。とっとと行くぜ」
負けじとポーカーフェイスを装って、政宗は階下へと降りて行った。


I cannot cheer you up.
―慰めが届かない。



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