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―Tell me a reason.―
Only as for now mere it.●
「あの頃は―――」とシャツのボタンを外しつつ、輝宗が静かに言った。
小十郎はベッドサイドの明かりだけを小さく灯した。
「お互い、何かに取り憑かれたように貪り合ったな」
「…お互い…?」
手を伸ばして、代わりに小十郎が男のシャツの前を開けて行く。
「何だ、気付いてなかったのか?」
「―――――」乱すように途中までシャツを寛げて、その中に小十郎は掌を忍び込ませた。
「私も、どうしてここまで、と自分に呆れるくらいだったんだが」
上から、小十郎は男の顔を覗き込んだ。
そう、いつの間にか自分の方が輝宗より頭半分ほど背が高くなっていた。
ボクシングだけでなく、水泳やマラソンと言った基礎体力をつけるものから、弓道や合気道など精神鍛錬にもなるスポーツを通して、10年前とは見違えるほど逞しくなった。
目を合わせようとしない男の顎を指先で捕え、仰向かせる。
「俺は…何時か終ると思いながら続けるのが耐えられなかったんだと思います」
すっと涼しげな目許が動いて、小十郎のそれを捕えた。
「あなたは何時も、終らせるタイミングを計っていた」
「そう、だったか」
「そうです」
何を今更恐れているのだ、と小十郎はもどかしくも腹立たしく思っていた。それも、今になっては若さ故の視野の狭さだったと言う事が出来る。時折、屋敷で、会社で、取引先で、自分はこの人に夜ベッドに組み伏せられているのだと喚き出したい衝動に駆られる事もあった。
全部、破壊してしまいたくなった。
その度に、この人が丁寧に小十郎を宥めた。信じられないくらいの忍耐強さだ。
そんな気持ちが落ち着いた頃、自然と彼とこうする事もなくなっていた。
「あなたは俺との事を、恐れていた」
「それは違うな、小十郎」
「?」
「未だにこうやって」と言って彼の手が布地の上から小十郎の雄芯を握りこんだ。
「お前を欲しがる自分が酷くいたたまれないのだが…」
「……っ!」
器用にもう片方の手でベルトを外す、カチャカチャ言う音がやけに耳につく。
小十郎は、漏れそうになる声を必死に噛み殺した。
「私は狡い人間だ」
輝宗の肩に顎を乗せる形で俯いていた小十郎の耳に、懐かしい声が吹き込まれる。
「お前はちゃんと自分も大事にすることを覚えた。今はだからお前とは対等な立場でこうしたい…」
どちらからともなく、唇が唇に合わされた。
何年か振りの肌の感触を確かめるように、小十郎は相手のシャツを剥ぎ取って行った。一方、輝宗は既に下げたジッパーの隙間から掌を差し入れて直に小十郎のものを掴んでいる。
二人は拙いダンスでも踊るように、一歩二歩と動いてぐずぐずとベッドに崩れ落ちた。
「……うっ」
合わせた唇の間から、堪え切れず漏れる艶声に輝宗は啄ばむだけのキスを何度か落とした。
「なりは大きくなっても、やはり小十郎は小十郎だな」
「どういう…んっく!」
先走りのぬめりを借りて、手の動きが一層早まる。
小十郎は縋るように、耐え切れぬように、男の肩を背を尻を掻き抱いた。
「私を気遣っているんだろう」
「………」
輝宗は小十郎の足の間で膝立ちする形で、ベッドに横たわった小十郎を見下ろした。
「私はお前に女を抱く事も教えた」
「…ぅ、…て、輝宗様…」
己が手で扱き上げる小十郎のそれを、妙に優しい目許で眺めやり空いた方の片手でする、と下腹を撫でる。
「男娼を買った事は?」
「…ちょ、まっ…て…ぅあっ」
ぐりぐりと鈴口に親指を突っ込まれて、小十郎の腰が跳ねた。
「で、きる…訳が、ないで…しょう!あなたを…っ」
「気にするな、それが終ったら今度は私の番だ」
ぞくり、と背筋を這い上がるものがあった。
快楽にも似たそれはしかし、似て非なるものだ。泥土に満たされたジャングルの奥底で、魅惑的な猛獣に圧し掛かられているような気分だった。
不意に輝宗は相手の表情の変化に気付き、淋しげに笑った。
「なあ小十郎、心の中に悪魔を飼っているのは、お前だけじゃない」
「く…ぅぁ、あ…ぁ…っ」
手の動きが更に早まり、小十郎は追い詰められて行く。
枕を掴んで必死に声を押し殺そうとする男の耳元に、身体を倒した輝宗は唇を寄せて、
言った。

「お前に抱かれてみたい」

どくん、と心臓が大きく脈打ち小十郎は精を放った。
その余韻に浸る間もなく、がばと起き上がった彼は少々乱暴に輝宗を自分の下に組み敷いた。
「…どう、なっても知りませんよ」
「存分に」
「―――どうなっても明日はクルーズに来てもらう…」
「それは…」
言いかけた輝宗が息を呑む。
力任せに引き揚げられた腰と、前を握り込んだ感触がほぼ同時。小十郎は自分が吐き出した白濁を指に絡め、目の前にある後孔にゆっくりと潜り込ませた。
「…う…」
背を震わせ、息を呑む男の姿を薄暗がりに見て、小十郎は深くは考えまいと思考を閉ざした。
この男が誰で、自分が今どんな立場にあるのかなど、そんな事に思いを馳せたらいっそ狂ってしまった方がマシな現実に気付かされてしまう。

ただ、

本能に従い、

欲望のままに、

走り抜ける―――。


Only as for now mere it.
―今、ただそれだけ。




「二人して今日撮ったムービー見てるみたいだったぜ〜」
部屋に入って来るなり、そういい捨てて成実は自分のベッドにダイブした。
「何か話してたか?」
「知らね、俺らのバカ騒ぎする声しか聞こえなかったけど?…そんなに気になるなら、もっかい行って来る?」
「いい」
「?」
短く応えた政宗は、ベッドに横たわった。
川下りから戻った時に感じた妙な空気が、彼には気に喰わなかった。成実は一つもそんな事を感じていないようだったから、自分から言う訳には行かない…気がした。
何が気に喰わないのか自分でもわからなかったが、その妙な空気は何処か後ろめたい、気まずい、甘苦いような感じがした。
大人二人の間には見えない親密感があって、子供にはひた隠しにされているのだと政宗は思っていた。
やっぱり、小十郎は父の側近に戻りたいのではないだろうか。
父も、小十郎を側近に戻したいのでは。だが、子供の手前、そして大人の建前上それを切り出せないのでは。
小十郎にそれを言っても多分、否定するだろう。かつてもそうだった。父も父だ。痩せ我慢をして、何だって有能な人材を自分になど割くのか。

そんな事をぐるぐる考えていると、堪らず胸が重苦しくなる。
小十郎にぎゅうと抱きついた時の温もりが、酷く腹立たしく、唾棄したくなる。

でも、右目が


―――――疼く。


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あきゅろす。
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