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―Tell me a reason.―
Midsummer Night's Dream.
「おい、シゲ。起きろ、起きろよ」
寝てすぐ起こされた、と思って成実は小十郎の手を邪険に振り払った。
「目ェ覚ませ、政宗がいない」
「へあっ!?」
我ながら間抜けだと思いつつ、仕方ない寝起きなのだから。寝ぼけ眼で政宗が寝ていた辺りを見やると、その姿がない。
部屋の中を見渡してみる。
太陽の傾き加減から言って、思ったより長い事寝ていたのだとわかるが、バッグはあれど彼の姿はやはりない。
望も一緒に。
「あ〜、恋人同士、愛を語らいに行ったんだろ〜」空気読めよかたく〜と言ってもう一度横たわろうとしたら耳を掴まれた。
「いでででででっ」
「アホ、何が愛だ。ホテル内探したんだが何処にもいねぇんだよ!」
「じゃ、また海にでも行ったんだろ〜」
離せよ、と強く言って再び小十郎の手を強く振り払う。
「過保護過ぎんじゃね?かたくー、笑って見送ってやれよ、我が子の成長を」
「あのな〜」
そんな事してる時に部屋の戸が開いた。政宗と望だ。浴衣姿になっている、と言う事は風呂を頂いて来たのだろう。
「まさむー、のぞむー、ちょっと聞いてよ〜。かたくーったらさぁ〜」と言って二人に泣きつこうとしたら、またしてもヘッドロックを掛けられた成実だった。



夜、夕食を平らげた後、彼らは人気のいなくなった暗い海へもう一度行った。浴衣姿に突っ掛けサンダルで、だ。
昼間の喧騒と暑さが嘘のように漆黒に飲み込まれた浜辺は、サクサクと四人がそぞろ歩く足音だけ響かせる。
「あ、花火持ってくれば良かった」
互いの体の輪郭しか見えないような闇の中で成実が声を上げ、あ〜失敗したなあ〜と呟く。こんなに視界が効かなきゃ危なっかしくて花火なんかさせられるか、と小十郎は胸の中でだけ毒づいた。
闇に多少眼が慣れて来たのか、平べったい砂浜とそこを歩く成実の後ろ姿が見えた。政宗と望は、と思って振り向いた時にそれを見てしまった。
ぎゅ、と抱き合って一つの影になっている二人の姿を。
「な、―――」にしてる、と言いかけたのを細っこい手のひらに塞がれた。
「かたくー勝負だぁ!!」
そう言って、今度は成実が小十郎にヘッドロックをかけた。いや、かけようとしたら勢い余って(全体重かけて飛びつくからだ)二人揃って砂の上に倒れ込んでしまった。そこから取っ組み合いになる。
少し離れた所から政宗と望がそれを見ていて政宗は溜め息を一つ、望はえへへと笑いを一つ零した。


次の日、朝一で起き出した政宗たちは早速海へと直行した。
昨日と同じように朝日を拝み、思う存分泳ぎ、ビーチの混雑がピークに達する前に海を発った。
元から浅黒い望はまた一段と日に焼け、成実も薄っすら色を付けていたが、政宗は赤く腫れただけで焼けはしなかったようだ。
「帰ったらローション付けろ」
ヒリヒリする、と言う政宗に小十郎は素っ気なく言った。
きょとん、とした表情で運転席の小十郎の後ろ姿を見やる政宗。それに対して又しても前の助手席に座った成実が、体を乗り出して顔の前で手を振る。その表情が面白い。えへへ、と望が笑った。
小十郎にシートベルトを引っ張られた成実は「ぐえ」と一つ呻いて体を元に戻した。


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あきゅろす。
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