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―Tell me a reason.―
Planlessness.
タイムズスクエアの中の大型雑貨店で新品のキッチングッズやらバストイレタリー用品やらを見て回った。
便利で面白いものが揃っている店内を物色するのが2人の休日の過ごし方の一つになっていた。目的は一応ある。玉子焼き用の四角いフライパンとガラス製のティーポットを新調するつもりだ。それがなくても半日は店内で過ごせる。
その2人に、何故か慶次が着いて回った。
「あ〜何コレ、きゃらったーだってよ!ツィッターの呟きを変わりに呟いてくれんだって、かわいくね?!」
「あ、コレコレ!俺使ってないハンガー山ほどあるんだよね。クリーニングなんかで貰って溜まっちゃってさ。こんな可愛いのでまとめたら女の子も喜ぶよね。アヒルなんかあの子が好きそうだよ!」
「あっ!!niteの最新モデルじゃん!俺ミリタリー系の腕時計、大好きなんだよな。あ、でもちょっとお高め〜、どうしよっかな〜」
一人盛り上がり店のあちこちで立ち止まる慶次を、政宗と成実は呆れ顔で眺めた。
「何なの…あいつ」と成実が唇を尖らせてぶつくさ文句を言う。
先にとっとと顔を背けて歩き出していた政宗の背がそれに応えた「俺たちが襲われるのを待ってるんだろ」と。
「え?!」
「お手並み拝見って言ってたろうが。あいつは俺らがやられようと相手をのそうと、どっちだって良いんだろう。ただの野次馬だ」
「うっわ、ちょームカつく!!」
「えー何なに、何がムカつくの?」
ひょっこり後ろから顔を覗かせた慶次を成実がギン、と睨みつけた。
「お前のコトだよ、この男女!」
そう言って顔の脇に垂れた長い髪の一房を引っ掴んでやる。
「あだだだだっ、ちょ!乱暴だなあ!!」
慶次は引っ張られて崩れたポニーテールを解いて、手梳きで整えた。その流れる黒い滝のように見事な黒髪。
「何だよ、デートなんだから楽しくやろうぜシゲちゃん」
「来易くシゲちゃん呼ぶな!それに何がデートだ、気色悪い。男のクセにそんなに無駄に髪伸ばしやがって!!」
ぎゃんぎゃん吠える成実に向かって「ツヤツヤキューティクル♪」と慶次は長い髪を手で優雅に払って見せた。
「それにこれは願掛けみたいなもんだ、無駄な事じゃないよ」
「願掛け?」その言葉に意味が分からない成実が政宗を見た。
「…願い事が叶うまで髪を伸ばしてるって事だ。叶ったら切って願掛けした神サマなんかに奉納する」
へえ物知りだねえ政、などと言って慶次は歯を見せて笑った。
「随分長い事叶ってねえんじゃんかよ。無理なんじゃね?」
「うるさいなあシゲは。そう言う時は、早く叶うと良いねって微笑みながら言ってくれるもんだぜ?」
「アホ、そんな気色悪いコト誰が言うか」
「えー、女の子たちはそう言って髪を撫でてくれるよ?」
それってただの口説き文句じゃんか!と言っていきり立つ成実を、まあまあと慶次は笑って宥めた。
端から見るとすっかり仲良しグループの体を相している自分たちに気付きもしない。ただ政宗は一人、結い直した慶次の艶やかな黒髪を横目で盗み見た。
その、手入れされた長い髪。アップにして腰の下まであるのだから下ろしたら膝裏まで届くんじゃないかと思った。それが男の「願い事」とやらに対する想いの強さを現している。
何をそこまで強く願う事があるだろうか。
政宗には理解できなかった。



雑貨店で買い物を済ませると、長かった陽も大分傾いて、オレンジ色の黄昏時を迎えていた。
色加減のせいか、昼日中より蒸し暑く感じる。彼らはその中をタイムズスクエアから出て、明治通りを伊勢丹方向に向かって歩いた。
「政は紅茶が好きなんだね〜、女の子みたいで可愛い」と言ったら左目だけを尖らせて睨みつけられてしまった。
新宿三越アルコットに入っている紅茶専門店に向かうと聞いたから思ったままを口にしたのだが、慶次はそんな政宗の態度にはんなりとした苦笑を浮かべて肩を竦めるしかなかった。
そこでの買い物も済ませると、ようやく陽が沈んでいた。
赤いだんだら模様を描いていた空も濃い青と水色に沈んで、街のそこここに灯った明かりを浮き立たせている。
政宗は華々しい新宿の街を元来た道を引き返す事なく、横へ逸れて行った。
「今度は何処行くの?」と後ろから尋ねて来る慶次には応えず、ただちらと視線だけを寄越す。
歩いて15分程で都会のど真ん中に突如漆黒の森が出現した。
街灯以外に明かりはなく、不気味に沈黙する広大な空白の森は新宿御苑だった。昼間は国民の憩いの場として200円の入場料で解放されているそれも、4時半の閉園後は原始の森の如く静寂に包まれている。
荷物を抱えながら閉園後の御苑に忍び込む政宗の後を追いながら、成実が情けない声を出した。
「ヤバいよ〜、警備員が絶対いるって〜」
「大人数で押し寄せるのを迎え討つにはもってこいだ」
平然として政宗が答えるものだから、鉄柵を登っていた成実がバランスを崩して下の芝生にずり落ちた。
「わざわざ誘っちゃう訳かあ」などと暢気に慶次は嘯いて見せる。
御苑の森を暫く歩くとだだっ広い平原に出た。立ち木の盛り上がりの向こうにタイムズスクエアの時計塔を筆頭に、新宿ビル群の神々しい明かりが見える。
不意に政宗は両腕に抱えていた荷物を慶次に押し付けた。それから成実のものも引ったくって慶次の腕の中の荷物の上へ重ねる。
「…え?」
「落としたり割ったりしたら弁償してもらうぞ」
「なんっ…!」
両手一杯に荷物を抱えた慶次が文句を言い掛けた時、四囲から地面を揺るがすような音が沸き起こった。
政宗と成実はぐるっと辺りを見渡した。
これが戦なら鬨の声を上げて威嚇して来るのだろうが、人目を憚って無言で政宗たちを取り囲む軍勢は却って不気味としか言いようがなかった。
その数3桁に登るのではないだろうか。
たった二人に対して大袈裟過ぎるそれに、政宗は思わず吹き出していた。
「おいシゲ、織田の手下はよっぽど忠誠を示したいらしいぞ」
全員に聞こえるように楽し気に吠えて見せる。
「暢気な事言ってんなよ!どうやって切り抜けるんだよ?!」
「やるしかねえだろ」
円を描いて自分たちを取り囲んだ一角へ政宗は駆けて行った。慌てて成実もそれを追う。
慶次は後ろへ下がりつつ「ノープランか!」とぼやいた。
そこへ飛びかかって来た数人を軽いジャンプでやり過ごし、着地した地点にいた数人が取り押さえに来るのを、長い足が踏むステップで蹴り飛ばして行く。
「ちょっと、これどんな罰ゲームだよっっ!伊達の!!」
両手が塞がっていて動きが制限されている慶次は叫んだ。だがその割りに喧嘩馴れしている様が伺える男は、自分に向かって伸びて来る手足を掻い潜って器用に立ち回った。



Planlessness.
ー無計画ー

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