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―Tell me a reason.―
The opportunity of the story.
3年前、政宗の父が死んだ。

政宗が殺したのだった。



The opportunity of the story.
−きっかけ−



誰もが仕方のない事だったと言う。
政宗自身にも罪悪感はない。だが、己のルーツを己で消したのだ。そのショックは本人でさえ気づかない所に歪み、と言うか綻びを生み出していた。


長年敵対して来た抗争相手なら輝宗もさほど油断はしなかっただろう。だがあいつらは、一度恭順を示してこちらの懐に入っておきながら刃を向けた。
輝宗を人質に伊達家壊滅を図った。
輝宗は、自分の背に銃を押し付けるそいつもろとも自分を撃て、と政宗に言った。
そしてその通りにした。
結局、総崩れとなった相手方が壊滅した。
警察には政宗の代わりに鉄砲玉となった三下が出頭した。そいつは喜んで身代わりを買って出たし、とりあえず家族も身内もなかった。
ここで、いつものようにCOOLに振る舞えば次期筆頭の座は転がり込んで来るし実際、事はそのように動いた。
以前から政宗の脇侍には伊達三傑と呼ばれる片倉小十郎、伊達成実、鬼庭綱元の三人が就くと言われて、それも実現した。



ただ、父親を殺した、と言うその実感だけがなかった。


嫌いだった訳ではない。
むしろ、病弱だった政宗を大層溺愛していた父親に、それだけではない男として又人間としての技量を見て、少なからず尊敬していた。
冷静過ぎる自分を鼻で笑った。


その。
輝宗の葬式。


高校3年だった政宗の友人、真田幸村がやって来た。
焼香を済ませ、彼が政宗の前に立った。
かと思えば「………っ!」
彼は言葉もなく、ボロボロと涙を流したのである。
いきなり何だ、と政宗は訝しく思った。思わず隣に立つ小十郎と顔を見合わせた程だ。
一緒に付いて来た猿飛佐助が、その震える肩を抱いて引き上げようとした。すると幸村はその大きな瞳を見開いて、ぐわとばかりに政宗に喰って掛かって来たのだ。
「政宗どの、貴方は何処に自分のお心を置き去りにして来られてしまったのか…!其、それが一番情けのうござるっっ!!」
時代錯誤な言葉遣いは、彼の育ての親が悪戯半分に読み聞かせた江戸時代の読本(原文)の影響だそうだが、政宗はこの時ほど笑えるものはないと思った。
「何言ってんだ、幸村…」
軽い口調で言いかけたのを遮って、幸村は更に詰め寄る。
「だってそうでござろう!!こんな空気を纏われて…っ!其、見ていられぬ…!!」
流れる涙を拭おうともせず、誰憚る事もなく真っ直ぐ前だけを見ている幸村が、この時ほど白けて見えた事がなかった。

勝手に騒いで、勝手に走り去った。政宗にはそのようにしか感じられなかった。
幼なじみを追わずに見送っていた佐助がふと、政宗を振り返った。
「悪いけど、俺様も同感だよ伊達チャン。…高校、中退するつもりなんだって?」
「AH…まあな」
「あと数ヶ月じゃんか、それに大学は…」
「うるせぇよ、もう決めた事だ」
「………」
付け入るスキもなく吐き捨てた政宗に対して、佐助は口を噤んだ。ただちょっとの間だけ睨み合う。
そうだ、この自信家は、他人の思い遣りとか愛情とかをわかっていながら切り捨てるぐらいの事はやってのける男だった。
「お家」が絡むとなれば、尚更だ。
やがて直ぐに諦めがついた。
佐助は大袈裟に肩を竦めて盛大な溜め息を吐くと、「あっそ、わかった」
ごく軽く言い捨てて、政宗とその場に居合わせた強面の面々に丁寧に会釈をして立ち去った。

「―――――」
しゃあねぇヤツらだな…ったく、と言う意味の溜め息を吐く政宗の背後で、小十郎は密かに眉根を寄せた。その喪服の袖を後ろから引っ張った者がいる。政宗の従兄弟の成実だ。


少しのあいだ席を外す事を政宗に告げて、小十郎は成実と共に人気のない屋敷の裏手へ回った。
「なあ、小十郎。俺、心配なんだけど」と成実は口を開いた。
「…何がだ」
「まさむーの事だよ決まってんじゃん!」
ギロリ、と目の据わった小十郎に一睨みされて成実は慌てて言い直した。
「筆頭のコト」
「…俺たちが心配して、どうなるもんでもねぇだろう」
「そりゃそうだけどさー、どうにもさー」
「何だ…」早く政宗の側に戻りたい小十郎の口調が苛ついて来る。
「あの静けさ、嵐の前のって奴な気がする」
「だとしたら、どうなんだ」
「えー、何か…」一旦、言葉を切った成実はチラリと小十郎を見た。「小十郎と出会う前の政宗に戻りそう…」
「………」


「ほらほら、何してるんだ二人とも。お前らが席外してっと他の者に示しがつかんだろう」
静寂に割り込んで来た張りのある声は綱元のものだった。
小十郎は成実にちらりとも目をくれてやらずに、元来た道を引き返しにかかった。そして綱元の横を通り過ぎる瞬間、
「特に手前は政宗様のお側を離れんな」
と、ドスの効いた声で囁かれた。
一度立ち止まりはしたものの、小十郎は返事もせずに早々にその場を立ち去る。
「綱元っちゃ〜ん…」
「いいから、お前も戻れ」
綱元は成実の頭を少々乱暴に前へと押しやった。そして「わかってる」と短く告げて小十郎の後を追った。
残された形の成実は、ふうと短く溜め息を一つ。
「そら、何か起こんないコトには動きようもないけどさ〜」
ポケットに両手を突っ込みつつ、ぶつくさ言いながらこの従兄弟も後に続いた。


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