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闇色ノスタルジア
無防備な幸福論





「子供は三人欲しい。」



ぶふっ、げほ、げほげほっ

盛大にせき込んだクロードを、白亜は不思議そうに見やった。両の頬を包み込むようにして机に頬杖をついて、いつもの如く本を読んでいた白亜はそのままの格好だった。一方クロードはソファへと寝転がっていた体を乱暴に起こした。



「……クロ、一体どうしたのだ。」

「どうしたのはそっちだろうが」



苛立った様子のクロードを、白亜はきょとんと見つめた。ややして、ああ、と声をもらす。



「子供は、三人欲しいと思ったのだ。」

「………」



まるで、おやつはプリンにしようと思った、とでも言うような口ぶりの白亜にクロードは半眼のまま溜息をついた。どうせいつもの天然、そこにクロードが望むような意図はない。



「なんで三人なんだよ。」



じゃあ作るかと喉まででかかった言葉を飲み込んで、クロードは言った。そんなことを口走れば一気に白亜の機嫌を損ねてしまうのは目に見えている。



「私は一人っ子だから、きっと私の子供も一人っ子より兄弟が欲しいと思うのだ。」



ぱたん、本を閉じて、紅茶をすする。湯気が立ち上って、白亜の長い睫毛を震わせた。



「兄弟が居たほうが、きっと楽しい」



つぶやく白亜に、クロードは再びソファに体をうずめた。偉そうに足を組んで、次なる白亜の言葉を待つ。



「双子だったら、なお楽しそうだ」



ふ、と白亜の表情が柔らかくなった。水楼と雨楼を思っているのだろう。クロードは黙ったままだ。

最近、白亜の表情は以前よりぐっと豊かになった。そこいらの人間にいえばきっと首をかしげて何処がだと問うだろう。しかし、少なくともクロードはそう確信していた。それこそ四六時中一緒にいるのだから、当然といえば当然なのかもしれない。



「クロ」



いつのまにか白亜はクロードを見つめていた。本も紅茶も手放して、まっすぐにクロードだけ。



「クロは、何人兄弟がいいと思う?」



ほらきた、またこいつは。

さあな、あしらうように首を傾げれば、白亜がわずかにむっとしたのがわかった。教えてくれてもいいだろう、とむくれる。



「三人がいいんだろ?」



きょとんとしたあと、白亜はこくりと頷いた。手持無沙汰に本を開いて、うつむく。そして、笑った。


―――白は、俺に笑顔を見せない。…ようにしてるらしい。が、残念ながらとうの昔に、白の笑顔なんて知ってる。


そんな風に微笑んで、うれしそうにする意味を、こいつはわかっているんだろうか。





 無防備な幸福論

(緩やかな午後のおはなし)



  fin




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