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愛すべき明日(忍人×千尋)






雪がちらちらと舞い落ちる。
それは、花弁に似て。





「…さん、忍人さん!」

何度目かの呼び掛けでようやくその存在に気付く。
ゆっくりと目蓋を押し上げれば、目の前には金が広がる。

「…ああ、君か」
「こんなところで居眠りしてたら風邪引いちゃいますよ?」

ゆっくりと体を起こして周りを見渡せば窓が開けたままになっていてほんの少し雪が入ってきていた。
頬杖をついて考え事をしていたらそのまま眠ってしまったらしい。
体はすっかり冷えきっている。

千尋は心配そうに顔を覗き込んで、大きな碧眼に俺の姿を映して。

「…春に、桜を見ただろう」
「え…?あ、はい…」
「雪は桜の花弁に似ていると。俺はそんな風に感じて」

(儚く消えてしまうのではないかと、不安になる)

記憶のどこかに桜のもう一つの記憶があるような気がして、それが悲しい運命であったのだと思うから。
儚く消えてしまう雪桜の美しさが恐くなる。

そっと頬にぬくもりが触れる。
顔を上げれば、柔らかな笑顔。

「…すごく冷たくなってますよ」
「君はあたたかいな」

頬に触れる手を引き寄せて抱きしめる。

「…あたためて、くれないか」
「…はい」

背中に腕が回されると、強く抱きしめて千尋のぬくもりを確かめる。
確かなあたたかさが伝って徐々に体温が戻りはじめた。
千尋の体温が俺の体温になる。
体が暖まりきった頃、ふっと腕の力を僅かに緩めて顔を見合わせた。

「私、忍人さんに言いたいことがあって探していたんです」
「俺に?」
「はい。──お誕生日おめでとうございます」

するりと首に腕が回されて、耳元で優しく囁かれる甘い声。

「貴方が生まれてきてくれて、ありがとう」

「俺は、」

(君に出会うために生まれてきた)
明日はこれからも続いてゆく。
君と過ごす愛すべき明日。
来年のこの日も、今日のような幸せな日を過ごせるようにと強く願う。






ひらひらと雪が舞い落ちる。

ひらひらと記憶に桜が散る。


愛すべき明日がある。

(あの日も、今も)




f i n



*BGM 岡崎律子「愛すべき明日」


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