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猫と恋人(土沖/つれない総司)


「土方さん!!!」


不意に遠く聞こえる総司の声。
偶にこんな風にばたばたと大きな足音を立て走って自分の部屋へ来る時は良い事があった証拠、飛び切りの笑顔まであと三秒。
例えばこれが市村だったなら怒っているかもしれない自分がいて、つくづく自分は総司に甘い、と思う。


「土方さん、見てください!!!」

「・・・・・、何だこれは」

「かわいいでしょう?」


勢い良く部屋へ飛び込んできた総司を何時もの様に抱き止めるとあーつぶれちゃうと大きな声を出して体を離し、すぐに目の前に突き出された真っ黒な子猫。
そして、飛び切りも飛び切りの総司の笑顔。


「だから、何で猫がここに居るんだ」

「一人で寂しそうに鳴いていたので連れて帰ってきたんです。一応辺りを探しまわったのですが、親猫どころか猫すらいなかったし・・・・・」

「・・・・・」


絶句だ。
大体自分は猫、動物など好まないので部屋の中に連れて来られる事すら嫌であるし、不衛生だし、そもそも誰が一日中世話をするのか。


「・・・・・戻して来い」

「嫌です、それにここ怪我してるんですよ」


ふと見ると確かに左前足にぺたりと血がついていた。
喧嘩でもしたのか、どこかで切り傷でも作ったのか知らないが、この位なら普通放って置けば治る程度ではないか。

それでも心から愛しそうに猫をなでたり、心配そうに傷口の様子を伺う総司の様子は微笑ましくて仕方がない。
増してそんな恋人の様子を見ながら自分まで締りのない顔になっているのだから、鬼の副長なんて形無しだ。


「ねえ、飼ってもいいでしょう、土方さん」


甘いよなあ、俺も。


「・・・・・世話はしろよ」


やったあ、とはしゃぐ総司の姿は男とは思えないほど可愛らしく、色気とは違うが眩暈がする程に魅力的で、つい唇を撫でる様に吸うが一瞬蕩ける様な目をしたかと思うとすぐに唇を離し猫に夢中になってしまう。


「もう」

「なあ、総司」


唇が当たるか当たらないかのぎりぎりまで顔を寄せて優しく髪を撫でてみる。
何時もならこの辺りで上手く絆せるところなのだが、今日の総司は何だか、というよりものすごくつれない。
うるさい程構ってくれるのがお前だろうが。
寂しい、なんて恥ずかしくて言えるはずもなく甘く抱き寄せうなじに舌を這わせるも、


「猫さんが逃げちゃうでしょ」


黒猫はというと月の様な透き通った目を細め、総司の膝の上で気持ちよさそうに喉を鳴らしている。
眠いんですか、と猫にすら敬語で話しかけ、花の様な笑みを溢すと、桃色の唇はちゅっ、と耳の伏せられたまあるい頭に口付ける。
するとすぐに猫は顔を上げ、驚く総司の唇を柔く舐めあげる。


「あは、お腹すいてるのかなー」


「おい、総司」


いくら猫でも許せない。
総司も総司だ、さっきは自分に口を吸われるのを嫌がったくせに自分は猫に口付けるし、頭や腰は撫でるし、猫は猫で総司に擦り寄るし、口まで吸うし。
大体その膝のうえは俺だけが頭を乗せられる場所なんだよ、お前が猫じゃなかったら腹切らせてるのに。


「名前は、ダンゴにしましょうね!」        

「ダンゴってお前、」


「あ、やっぱりアンミツ?クズキリ?ワラビモチ?」



「・・・・・トシにしろ」

「え、でも・・・・・っ」


自分がその猫をトシ、と呼ぶ様を思い浮べたのか、真っ赤に染まる頬、次第に潤む青み掛かった瞳。


「嫌なら飼わせねぇ」

「・・・・・っわかりました!」

「じゃ、呼んでみろ」

「・・・・・ト、トシさん」

「さん?」

「・・・・・トシ・・・・・っ」


何となくこれで総司の心を占める自分の割合を守れた気がしている。
つくづく自分は子供じみてるな、と思いながらも普段は見せない表情に跳ねる胸を押さえ付けられずに。


「・・・・・なぁ」

「っえ、」


わざと艶のある声を出し、恥ずかしさから伏せられていた瞳を覗き込めば期待と不安が垣間見える。
仕返しというか消毒というか、猫に見せ付けるように深く舌を入れ、甘美な声を引き出してやれば、やっぱり総司は俺のもの。


「・・・・・俺は?」

「・・・・・っひ、ひじかたさん」






..fin.

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