物悲しい(土沖)
雨だ。
ただでさえ京の夏は暑いのにこんな風に雨が降ると益々不快になる。
それはもう百年は降り続いていて、これからも止む事はない様に思わせる雨で、こまかく細い。
憂欝だ。
暗い世界に取り残された様に孤独で、自分は誰にも必要とされていなく、愛されてもいなく、寧ろ自分なんて居ないほうが良かったのに。
何で、生まれてきたんだろう。
「起こしにすらこないのか」
「・・・・・!」
部屋の障子が開き、毎日の役目をはっと思い出す。
起きたままの格好で、ただ窓を開けて雨を見ながら過ごしていたから時間の感覚がなかった。
朝起きた時には土方さんを起こしに行こうと考えていたはずなのに。
ああ自分はなんて役に立たない人間なのか。
言葉に出来ない絶望感と倦怠感に胸が重い。
「ごめんなさい・・・・・」
沢山の想いを詰めた。
起こしに行けなくてごめんなさい、だらしない姿を見せてごめんなさい、駄目でごめんなさい、生きていてごめんなさい、
「何、思い詰めてんだ」
「思い詰めてなんか・・・・・」
「・・・・・原因は?」
何でこの人には総て見透かされてしまうのだろう。
一番弱みを見せたくない相手。
一番力になってあげたい相手。
小さな頃からこの人にだけは隠してきた事が沢山あるはずなのに。
「・・・・・雨が、雨の降る日って憂欝になりませんか」
「・・・・・当分、前からか」
「違います」
「違わない」
「違う」
「俺はお前の事なら何でも分かるつもりだ」
目の前が霞む。
涙か、いつ自分はこんなに涙もろくなったのだろう。
「・・・・・わかるわけ、ないっ・・・・・」
「・・・・・なら分かりたい」
「なん、で・・・・・?」
「愛してるから、かな」
驚いて振り向くと、開け放たれた障子の向こうの廊下で自嘲気味に笑う土方さんが見えた。
何だかすごく胸が痛い。
お願い愛さないで、私なんか。
でもやっぱりこっちにきて、触って。私に触って、
「愛してるんだ、どうしようもないくらい」
後ろから私を抱きしめて、首筋に顔を埋める貴方。
愛されてるんだ、私。
本当は護り護られたかった貴方に、誰よりも。
憂欝な気分からは抜けないけど、まだ生きられる、きっと、
きっと、愛されていれさえすれば。
..fin.
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