深海人魚(土沖)
まるで水の中にいるみたいに体が重い。
まるで水の中にいるみたいにうまく息ができない。
きらきら光る水面から深く暗い青の深海へ潜っていくイメージで貴方に、貴方に溺れる。
いやに熱い額にひやっとした感触がして目を覚ます。
ぼうっとした視界に何だか不安になって体を起こすとぽすっと何かが落ちてきて、冷たく絞られた手ぬぐいだと分かった。
「・・・・・大丈夫か?」
ああ、夢を見てるんだ。
それか熱のせいで幻聴でも聞こえるのかもしれない。
こんなところであの人の声が聞こえるなんて。
何でこんな哀しい夢を見るのだろう。
現実との違いが身を裂くほどに辛いのに。
「総司・・・・・?」
「・・・・・っ」
何度夢を見て、何度地に突き落とされただろう。
何で何で何で、私はこんなに弱くなってしまったのだろう。
駄目だ、涙出てきた。
辛いよ土方さん。
私の体が憎いよ。
本当なら貴方と死ぬまで一緒だったはずなのに。
「おい」
「・・・・・っえ・・・・・?」
寝汗で張り付いてしまった私の前髪をそっと剥がす乾いた手のひら。
驚いて見ると、そこには何度も夢に見た人。
愛しい貴方。
「なに、してるの・・・・・?」
「何ってお前、お前に会いたくて」
見舞いに来てやったんだ、と誰にも見せないような穏やかな表情で言う貴方は、何度も恋焦がれた愛しい人。
嘘みたいだ。
貴方がこんなに近くにいるなんて。
新撰組に戻ったみたいに。
「・・・・・どうした?」
「ごめんなさい・・・・・」
会いたかったの。
会って、その手で、私を
「抱きしめて・・・・・」
変わってない。
私の後頭部に手を添えて、何かから護るみたいに抱きしめてくれる。
貴方にこうして抱かれると、まるで深い深い海の底に沈んでいくみたいに落ち着く。
「・・・・・伝染っちゃいますよ?」
「伝染るかよ、」
本当に愛しそうにゆっくり触れる唇。
少しずつ入ってくる甘い舌、愛されている証。
ひとりじゃない証拠。
「・・・・・行かないで」
「総司」
「・・・・・ひとりに、しないで」
ちょっとだけ無理を言ってみる。
抱きしめる腕が一層強くなって、そして一層哀しくなる。
「愛してるよ」
「そんな、さよならみたいに・・・・・」
「また、会えるさ」
嘘でしょう。
もう二度と会えないのでしょう。
私だってそのくらい分かる。
だから、会って、その手で、私を抱きしめて、
「・・・・・せめて、殺してほしかった」
貴方の震える体が言ってる、初めて聞いた貴方の弱音。
ねえ土方さん、私ね、貴方と鎖でぐるぐる繋がれて、抱きしめあったまま、二度と浮き上がれない暗い世界へ落ちていきたい。
人魚みたいに。
..fin.
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