雪はきっと、隠してくれる(沖田片恋)
しんしん、
しんしんと、
雪が音もなく降り積もる。
深く、
深く。
「はぁ」
また今日も雪だ。
連日降り続いている純白の雪は私の心を重くさせる。
せめて1日2日なら、情緒あるこの景色を楽しめただろうが、こう何日も何日も降り続くと嫌にもなる。
「総司、めずらしいな、溜息なんて」
「土方さん…」
廁の帰りにぼうっと廊下に突っ立って雪に目を奪われていたから、まったく気付かなかった。
突然鼓動が早くなる。
端正な顔立ちをじっと見つめるのが恥ずかしくて、雪に目を奪われているふりをする。
そして全身で彼を感じる。
いつからだろうか。
毎日一番近くで彼を見つめる私の中に尊敬以上の感情が顔を出したのは。
辛く、苦しく、胸が張り裂けそうだけど嫌じゃない。
私が、男じゃなければ。
「総司?」
「あっ、ああ、土方さんっ、えと、、」
何か話すことはないか。
せっかく、せっかく彼が、
「あ−…いや、いいんだ。ただお前を見かけて…それで話し掛けただけだから」
「あっ、じゃあ、また夜に」
とって付けたような笑顔をなんとか浮かべて、足早に自室へと戻った。
あの時彼はどんな顔をしていたのか、、よく見ればよかった。
またひとつ、新しい表情をしただろうに。
「はぁ」
またひとつ、新しい溜息。
もうこんな気持ちに耐えられる気がしない。
引き裂かれるように痛く、しかし甘く、重く胸にのしかかってくる感情に。
こんなにも、彼の部屋は遠かったか。
擦れた声が現実感をなくさせる。
「ひじかたさん、」
「総司か?」
「いま・・・よろしいですか」
「ああ、構わねえよ」
これまでにないくらいに鼓動が早かった。
喉は甘く痺れ、声がかすれ、頭はぼうっとする。
「ひじかたさんっ、、」
「ん?」
優しい瞳だった。
ああ、もう、このひとは、
「すきです」
こんなにも、あなたが、
「あなたが、すきなんです」
「おい、お前、」
「笑いますか?衆道はよくないと、叱りますか?」
「それでも、すきです。嘘はありません」
よかった。
少なくとも今は笑わなかった。
「総司、悪ぃが、俺には好きな女がいるんだよ。だからお前とは、、衆道がだめだとかそういうのじゃなくてさ、」
「冗談なんです」
「−−あ?」
「やーだなあ、ふられちゃいました!」
辛くなんかない。
だって、だって…
「本気にしちゃいましたか?冗談ですよっ、私が衆道なんて…ありえないでしょう」
「冗談だとしても…見損なった」
見損なってください、お願いします。
じゃないとあきらめられないんです。
呆れて文机に向かい直ってしまった彼の背中さえ愛しくて仕方ない私だから。
冗談だといわないと、言い聞かせないと崩れてしまいそうだったから。
「用はそれだけか?」
「・・・・・・・・」
「おい、いい加減早く・・・」
彼が私のほうに向き直ったのが空気でわかった。
見なくてもわかるくらいなんです。
世界で一番、私が貴方を…
「ふっ・・・・」
自分はこんなに涙もろかったのか。
泣いても泣いても涙は止まらなく、拭う両手まであっという間にたくさんの雫が伝う。
「総、司」
「し、つれいしま・・・っ」
くるしくいたく、かなしくむなしく。
土方さんの部屋から出て、また雪が目についた。
先程よりも真白に見えた。
期待なんか、していない。
冗談、だった。
真白い雪よ、
想いを隠せ。
..fin
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