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君の傷みをどうかボクにも分けて---【シゲサト】


それは突然だった。
ボクがちょうど研究資料をまとめ終わり、一息を入れてから寝ようとしていた時だった。

すると研究所から電話が掛かってきてたのだ。
こんな時間に誰だろうなと思いながらそれに出た。


「はい、○○研究所ですが…」


「あ、シゲル??」


「サトシ?どうしたんだい、こんな時間帯に…」


「うん、ごめん。シゲルと少し話したかったからさ」


苦笑しながらサトシは笑った。
その笑顔は昔の君とそっくりな笑い方で、ボクは胸がギュッとなった。


「……辛いことあったんだね」


「え?あー、うーん……。………まぁ、ね」


驚いた様子で見開いたサトシはどう返答すればいいのか分からないのか、唸りながらまた苦笑する。

君はいつでもそうだった。


辛いときや悲しいときは誰かに頼ればいいのに誰も頼らずにずっとその感情を押し殺していた。
そして君は感情を押し殺したおかげで、全てがどうでもいいと人に絶望をしていた。


今の君と昔の君と比べたら、すごく変わったがやはり変わっていない所もある。

「そっちに何があったんだい?」


ボクが優しく声を掛ければ、サトシは失敗したという顔をして息を吐いてから静かに喋りだした。


「今日さ、ポケモンの死体を見たんだ。それも残酷な殺され方で、さ」





ポケモンの死体---





それはポケモンが好きな人にとっては残酷な場面を見たことになる。
それもサトシはポケモンを誰よりも大切に想っている優しい性格の持ち主だ。

その光景を見ただけでもサトシの心は穏やかじゃなかっただろう。



「ポケモンのさ、賭けバトルの犠牲になったポケモン達だったんだ。生き残るポケモンを予想してお金を賭けて、死ぬまで殺し合う裏バトルらしいんだ」


「そんなことがあるのか……」




ポケモンはおもちゃではない



それを教えてくれたのはサトシで、ポケモンも人も同じ命だ。
なのにポケモンを道具として見ていない奴らがいると思うと、怒りが込み上げてくる。

その現場を見たサトシは大丈夫なのだろうか?


さっきからサトシは淡々と話をしているだけで悲しんでる様子が見られない。




……否、それは第三者から見たらの話だ。




「……サトシはそれだけが原因でボクに電話したわけじゃないよね?」


「……」


そこで初めてサトシは黙り込んだ。

これはポケモンのことだけじゃないみたいだ。



「サトシ」


ボクが優しく声を掛けると、サトシは苦笑した。
サトシの眼は揺れていて、何かを押し殺している感じだった。


「------泣けなかったんだっ」


表情を隠すように右手で顔を抑え、必死に笑っていた。


「デントやアイリス達が泣いている中でもオレは泣けなかったんだ…っ、泣きたいのに涙が出てこなかったんだっ。そしたらアイリスが……っ」


サトシがその先の事を言おうとしたがそこで止まってしまった。

デントとアイリスと言うのは多分、今一緒に旅をしている仲間だろうとなんとなく察した。
ボクの予想だが仲間のアイリスという子と何か合ったに違いない。



「サトシ、ボクに話して」


「シ、ゲル……」


「ボクは昔言ったよね?『サトシの辛いことや悲しいことを知りたい』って、『サトシの力になりたい』って」


だから大丈夫だから言ってごらん?と、ボクは微笑むとサトシはボクの目を見て苦笑しながらポツリと言った。



「『サトシは悲しくないんだ』って言われたんだ」



小さな声だがハッキリとボクの耳に入った。


なんだそれは……




仲間なのにどうして勝手に決めつける?
外見で判断する??


あまりにも酷い言葉にボクはガタッと大きな音を立てていた。
そんなのは気にしない。

サトシにとっては辛い言葉を仲間はそれをハッキリと言ったことに許せなくて苛立ちを隠せない。


「シゲル」


ボクの怒りを感じ取ったサトシは「大丈夫」だと苦笑する。


「一発殴らないとボクの怒りは治まらない、そっちに行くから」


「だから大丈夫だって、な?」


「ボクはそんな辛い顔をして笑うサトシを見たくないんだっ!!」



段々と心から笑うサトシを見てボクは嬉しかった。
旅をすると言った時、ボクは一緒に旅をしたかったけどサトシはそれを頷きはしなかった。



『オレは昔からお前に頼りっぱなしだったから、オレも一歩…前へと進みたいんだ---』





傍にいてくれてありがとう---と



ボクは初めてサトシとの距離がこんなにも近かったんだと感じられた。

そのまま笑っていて欲しい。
だからそんな顔をして笑わないで欲しい……。





ボクは怖かったのかもしれない。
またサトシが昔みたいに感情を押し殺してしまうんじゃないのかと
それが心配でそして……


恐かった----



「シゲルは優しすぎるんだよ」


そっとサトシを見ればサトシは笑っていた---




「本当に……昔からオレのことを考えてくれて、さっ」



そして----




「やっぱりシゲルの前で、しかっ、泣けない……や」





泣いていた----





「シゲルっ……」



「うん」


「すごく、恐かった……っ」


「うん……」


「すごく、痛かった……っ、苦しかったっ、泣きたか、った……っ」


「大丈夫だよサトシ、ボクが全部知ってる。誰がなんと言ってもサトシの味方だから……」





今こうして傍にいてやれないのが悔しい

抱き締めてやれないのが辛い




でもいつかはサトシの傍に行って抱きしめるよ。











だからそれまでは……












辛いことや悲しいを思う存分吐き出して----


END


―――――――――――――――――――――――――――――
*あとがき*
シゲサト不足

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