発展







こんちは皆さん。世界のアイドル忍足侑士でぇす!ひゅーぱふぱふ!
……やめた。これ1人でやるの本気でむなしいわ。えー、気をとりなおして。
最近うちのクラスに変な女子が登校してきましたー。
マジこいつおかしいで。ふはは、まず自己紹介から変やったな。
この金持ち校で、趣味が節約、特技がバーベキューて。
そんで好きな物ひかげ?お前はキノコか。つっこみどころありすぎやわ。
あ、そういや部活の1年にキノコみたいなヤツいたような……



「おったりおはよ。今日はやいね」

「お、うわさのみょうじや。今日は朝練なかってん」

「ふうん、そうなんだ。てかうわさって誰がしてんの?」

「俺の中の小人さんたち」

「わーメルヘーン」

「お前すっごい棒読みやな」



この子がみょうじちゃん。俺のことおったり言うのこの子ぐらいやで。
まあそれがいいことかは分からんけど、なあ。



「……あーまただ」

「どうしたん?」

「ん、なんかさー、こう、ズキズキくる」

「なにが。からだでも痛いんか」

「ちがう」

「じゃあなに」

「…………視線」

「しせん?視る線?」

「そ。廊下とか歩いてるとき……てか忍足近くにいないときは、痛い」

「あー………。まあ、気にすんなや。俺が近くにおればいいだけやろ?」

「そりゃそうだけど…まあ、忍足がそう言ってくれんなら、いいや」



そういってみょうじは席について、カバンをごそごそはじめよった。
こいつへの視線が痛い理由は、前からこの学校にいる人間なら明々白々や。
初登場であんなことしよったし、氷帝中の女子からの風当たりは最悪やろうな。
でも、だからといって俺はみょうじにそのことを教えようとは思わへん。
あ、かん違いすんなよ?別にこの子が嫌いだからとか、そういうことじゃあないんや。
むしろ好意があるからこそ教えへん。え、理由?せやなー、



「俺らがモテるからーなんて、はずかしくて言えんやろ」

「は?なんかいった?」

「いんや、なんでもないよ」



……まあ、そういうこっちゃ。
いわゆる跡部や俺の『ファン』に睨まれとるんやなあ。
やっかいごとに関わりとうない男子はこの子に近づかんし、かわいそーなみょうじ。
でもそんなこと教えて、みょうじが俺の近くからいなくなるのは気にくわへん。
俺、いや俺らを特別視しない貴重な女子や。せっかくなついとるのに手ばなすのは惜しい。
それにこの子、言動よりも本質はずいぶん賢いみたいやし、なにより隣においといてあきん。
しっかしひとつ問題がなあ……



「なあみょうじー、」

「なんですか」

「お前跡部きらい?」

「あっははそんな当たり前のこと聞くなヨ」

「ですよねー」



そうこれ、こいつが跡部きらいってこと!これはまずい。
みょうじを俺のそばにおいとくっちゅーことは、この子が少なからず跡部とも接しなあかんくなるってことや。
それが嫌でこいつが俺から離れてったら本末転倒。うん、どないしよ。



「あー、みょうじはなんで跡部に物投げたん?」

「おう聞いておくれよおっしー」

「うんうん、聞いたる聞いたる」

「あのヤロー私に向かってメス猫とかほざきやがったから投げた」

「…………すまん、説明省きすぎでよおわからん」

「だからー、私が跡部のこときれいだなーと思って視てたらー、『うぜえ見んなメス猫!』みたいな」



みょうじの探し物はカバンをさばくり続けても見つからんかったのか、カバンを勢いよくひっくり返した。
それでやっとでてきたらしいチュッパ(コーラ味)を口に入れて、こいつ話の途中のくせに一息つきやがった。
お前自分で聞けって言ったんちゃうんかい。



「んーでも、めずらしいなあ」

「なにが?」

「いや、跡部がそんくらいでお前をメス猫よばわりすんのはっちゅー話。いくら俺様でも、あいつ普段はよっぽどのことがなきゃそんなこと言わんで?」

「えーそうなの?じゃあ八つ当たりか」

「多分な。あん時あいつ、生徒会の引き継ぎとか部長業務でいらついとったから。てかそうやったらみょうじも運悪かったなあ。機嫌悪い跡部と初対面とか最悪や」



みょうじはなんかじっと考えこんどるみたいで、応答がない。
だまっとればもっと賢く見えるのに、この子。
バカではないんやけど、口開くと話すことがボール1個分ずれとる。大丈夫かこいつ。



「跡部って生徒会長なんだよね、2年で」



お、やっと口開きおった。
コロコロと口の中であめ玉を転がすみょうじの目線は、俺やのうて跡部の机に据えられとる。
さっきまでとは雰囲気のちがう、感情の読めない瞳。……あれ、こいつほんまにみょうじか?



「………そういうことになるな。あいつは立派な生徒会長や」

「じゃあ頭はいいんだね。人を使ったりまとめたりするのは、人間的に賢くないとできないし」

「………………………」

「その賢い跡部が見ず知らずの他人に八つ当たりってことは、相当疲れてたんだね、彼。忍足の話の通りなら、私に敵意を向ける意味はないし」



口角は上がってる。でも目は静かやから、言ってることが酷く淡々と冷静に聞こえてくる。
いや、実際にそう言う口調になってるんや。
今まで結構ノリのいい話し方で、表情もころころかわってたんに、いつの間にか正反対の口調で話しとる。
何やこの子、おもしろい。



「でも八つ当たりならいきなり物投げられてびっくりしただろうなあ。うーん、やっぱそこは私が悪いか。
あの性格で今まで浮かずに、むしろ周りの評価を集めながら過ごしてきたっていうことは、時と場合はわきまえてる証拠だしなあ。わーどうしよ、おっしーはどうしたらいいと思う?」

「……まてまてまて、何をどうするんや。いきなり別人になるし話ふってくるしついていかれへん」

「え、私二重人格?ふはっすごいな」

「………………………」

「わーわかった説明するから睨まないでキモ!」

「うっぜえええええ」

「あのさー、だからね?ちょっと跡部に興味でてきちゃったってことよ」

「お前その説明はぶきわざとやろ」

「ばれちった?…っていひゃいいひゃいいひゃい!ほっへいひゃい!」

「せ つ め い し い や ?」

「わひゃったわひゃった!」

「じゃあ話せ」

「(命令形…)えーと、つまり忍足の話によると、跡部は賢いと」

「(別に俺はそんなこと言ってへんのやけど……まああいつ賢いしいっか)おう、跡部は賢い。そんで?」

「で、ちょっと考えると跡部が私に言った『メス猫!』は八つ当たりで」

「十中八九そうやろうな」

「うん。それでそうなると跡部に対する怒りが収まって冷静な思考が出来るようになりまして、『メス猫!』って言う跡部超はずかしいなーと思っちゃったりして」

「………え」

「結論としては、そんな素敵キャッチフレーズ考えちゃう跡部おもしろっ、仲良くなりたい!みたいな」

「えええええそれ本気か」

「ウソ。てか理由の半分デス」

「………………………」

「もう半分はねー」



みょうじはニヤッと、それはそれはわるぅーく笑いやがった。
そんときの目が別人だったときの目と重なってびびったけど、なんかもうどうでもいいわ。
こいつの素顔はよく分からん。今はそれでええよ、今はね。



「半分は、聡明だと名高い跡部グループのご子息が学生してるところを、ストーカーよろしくそばで見たいなーと思った。そんだけ!」



によによと笑ってとんでもないことぬかしよったみょうじの口に、机の上にばらまかれた開封済みチュッパをつっこんで、思った。




………この子、一筋縄じゃいかへんかも。







みょうじちゃん最強伝説!






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